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税金と公共サービスはごく特殊なサブスク

いわゆる「サブスク」(サブスクリプションサービス)と言うと、一定の期間ごとに代金を支払って商品やサービスを受け取る仕組みを指す。Netflixみたいなサービスを想像してもらえればいい。

最近、税金や公共サービスも一種のサブスクだとみなすと、理解しやすいと思うようになった。税金という名の料金を定期的に払って、各種の公共サービスを受ける。これだけ見れば、ごくシンプルなサブスクである。

ただし、公共サービスはきわめて特殊でいびつな形のサブスクだとも思う。普通のサブスクと何が違うのかざーっと書いてみる。

税金と公共サービスの特異性

民間企業が提供する一般的なサブスクと比較しつつ、思いつくままに書きます。

基本的に解約できない

これが一番の特徴だと思う。日本にオギャーと生まれた時点で、納税の義務が半永久的に発生する。子どものうちは納税を意識する機会は少ないけれど、消費税くらいは払っているだろうから無関係ではない。

一般的なサブスクだったら「料金が高い」とか「サービスがいまいち」といった不満があれば解約して、もっと安く、利便性の高いサービスを探して移れるし、そもそもサービスを使わないこともできる。

いっぽうで税金と公共サービスについては、基本的に解約ができない。強いて言えば国籍を別の国に移すという手があるけれど、それはごく一部の限られた人にしかできない選択肢だ。

余談だけど、社会人2年目のときに職場の先輩と「住民税高すぎ、なんとかして払わずにすます方法ないですかね」「月に住所を移せば?」みたいな馬鹿話をした記憶がある。

独占的なサービスである

前述したように、日本の人は日本に税金を払って公共サービスを受けることを基本的にやめられない。

そうしてみると国家というやつは、ある種の巨大な独占企業だと捉えることができる。そして独占的なサービスは競争が行われないため、料金が高止まりし、クオリティも上がらない傾向にある。料金を多少上げようが、クオリティが低かろうが、ユーザーが解約・離脱できないと分かっているからだ。そうした弊害を防ぐために、民間企業に関しては独占禁止法という法律まで作られている。

ちょっと極端なたとえだけど、仮に東日本政府と西日本政府に日本を2分割して、別々の税金と公共サービスを施行して、国民(ユーザー)の奪い合いをさせたら、独占体制が崩れて競争が発生し、多少はサービスが改善するんじゃないかと思う。

料金体系とサービス体系が複雑すぎる

税制や公共サービスの制度はきわめて複雑だ。自分が払っている税金の制度や算出方法について1から10まで理解している人はごく少数の専門家だけじゃないだろうか。行政サービスについても同様で、制度が多岐にわたるうえに制度改正もしょっちゅうだから、ユーザーはおろか公務員でも制度のすべてを把握できていない場合が多い。

「1000円/月で動画見放題」みたいな明朗会計のサブスクサービスとは雲泥の差がある。

申請しないとサービスが受けられないことがある

日本の公的制度には「申請主義」という原則があって、基本的に公的サービスを受ける本人が「このサービスを使いたいです」と申請をしてはじめてサービスが使えるようになる。たとえば生活保護は、市役所とか福祉事務所の窓口に行って「生活保護を受けたいです」と申請する。逆に言うと、申請しなかったらサービスが受けられない。だから「契約してるけど全然行ってないジム」みたいなことが起こりうる。

この原則にはいろいろ問題がある。まず、そのサービスを受ける人が、そのサービスのことを知っていて、かつ自分が対象だとわかっていないといけない。また、申請を受ける窓口の担当者も同様に知識がないといけない。それから、申請そのものが難しくて、申請までこぎつけられないことがある。そのせいで、本来受けるサービスを受けられない場合がある。

役所に提出する書類作成で苦労したことがある人ならわかると思うけれど、自分が対象になるサービスを調べて、窓口を探して、申請書を手に入れて、何やら呪文のような文言を解読して、過不足なく記入して申請するまでに二重三重のハードルがある。

申請主義の課題については、↓の資料に詳しい。

運営の人事の一部をユーザーが決める

公共サービスや税制の方針を決めるお偉方の一部は、選挙で決まる。だからユーザー側に人事の裁量が多少あることになる。だから選挙は、国家という独占サービスに物申す貴重な機会になる。

民間企業だったら、株主にでもなって役員の改選に票を入れたりしない限り、人事に関与できない。

現行の選挙のやり方には課題も多くあって、それは以前別の記事に書いた。

解約できない厄介なサブスクとうまく付き合っていく

そんなわけで、税金や公共サービスにはいろいろ穴がある。解約できないこの厄介なサブスクとうまく付き合っていくには「自分が使える公共サービスはちゃんと使う」とか「複雑な公的サービスと、弱い立場にある人の橋渡しをするNPOを応援する」とか「選挙に行って少しでもマシな人を運営に加えさせる」とか、そうした工夫が必要になると思う。

まぁユーザー側があれこれ工夫しないと十分なサービスが受けられないサービスって、そもそもいけてないよねって話はあるんだけど。大昔は今よりもっと野蛮で「お上の言うことは絶対」みたいな雰囲気があって、いけてない制度がたくさんあったけど、それを先人たちが悪戦苦闘のすえ少しずつ改善したり継ぎ接ぎしたりしながら今の制度にこぎ着けたんだろうと思う。なので、この奇妙奇天烈なサブスクのいちユーザーとして少しずつ改善に向かえるとよいなと思う。




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