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2020年上半期に読んで良かった本6冊+α

2020年も半分が終わり、折返し地点になりました。

今年の上半期に自分が読んだ本は、102冊でした。読書家の方々に良本をたくさん教えていただき、読書体験を充実したものにすることができました。いつもありがとうございます。

今回は、自分が上半期に読んだ本の中から、読んで良かったと思える本を6冊+αご紹介します。まず本のなかからワンフレーズ引用し、そのあと要約と感想を書いていきます。

読んで良かった本6冊

■禁酒法―「酒のない社会」の実験

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「高貴な動機と遠大な目的をもった社会的、経済的実験」

1920年代のアメリカで実施された「禁酒法」について、なぜそんな法律ができ、どんな結果をもたらしたのかを丹念に追う一冊です。かんたんに要約します。

禁酒法の実施前、アメリカ国民の飲酒量は過去最高でした。高度に工業化されつつあるこの時代に、しらふの労働者を求める企業の思惑と、第一次世界大戦が産んだ禁欲的な世論が噛み合って禁酒法が成立しました。

酒の密造・密輸を巡るいたちごっこやギャングの台頭を経て、酒に関する仕事をする人びとの失業、酒に関する税収の激減、そして大恐慌がとどめとなり、禁酒法は廃止されました。酒の密輸・密造のくだりはギャグとしか思えない事例がいっぱいあって笑えます。一方で、この法律がアメリカ人の飲酒量を半減させ、高度に機械化された現代に適応させたという論は興味深いものです。

「国民から酒を取り上げたらどうなるか?」という社会実験を、壮大な規模でおこなったのが禁酒法だったと言えるでしょう。

■いつも「時間がない」あなたに 欠乏の行動経済学

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欠乏は、処理能力のあらゆる要素を弱めることがわかっている ─ ─ 人は洞察 力が衰え、前向きな考え方ができなくなり、コントロールが効かなくなる

欠乏(=お金や時間がない状態)が人間に与える影響を研究する一冊です。著者は様々な研究結果をもとに、以下の内容を説明しています。

・欠乏状態の人間は、ひとつの物事に集中できるけれど、他のことはほったらかしにされてしまう。たとえば締切が近く、時間がない仕事は集中して片付けることができるけど、同時に仕事以外のこと(健康や家族など)は視野に入らず、後回しにされてしまう。

・欠乏によって人間の処理能力は落ちる。これは、人間の思考の容量が欠乏によって「占拠」されてしまうから。たとえば、お金がない人は常にお金が心配で、ふとした時にお金のことに思考のリソースを割いてしまい、他のことを考える余裕がなくなる。PCで言えば、重たいプログラムが常時稼働しているようなもの。

お金や時間がないときの自分自身の行動を振り返ると、この本の内容が怖いくらいに当てはまります。お金や時間がない状態(=欠乏)に陥らないような仕組みづくりが肝心と思えた一冊でした。

■マレ・サカチのたったひとつの贈物

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「出会いは神様の意思。再開は人間の意思」

小説も1冊ご紹介します。

自らの意思と関係なく世界をワープし続ける「量子病」を発症した主人公の旅を描く小説です。彼女は、いつ、どこに飛ぶとも分からないままに飛び続けます。

舞台は近未来、世界経済が破綻して、デモとテロが横行する時代です。資本主義はとっくに成立しなくなっていますが、為政者たちは「祝祭資本主義」なる考え方を持ち、頻繁にお祭り騒ぎを起こして、貧困にあえぐ人々の不満を紛らわせようとしています。そんな混乱した世界を主人公はワープで飛び回り、日常を生きる人々、世論を操作しようと暗躍する者たち、懸命に生きる人々、テロリストたち、喧騒と孤独のなかに生きる人たちと対話を重ねていきます。

多層的に折り重なるストーリーやウィットに富む会話もお見事ですが、それ以上に、彼女の出会う人々のディテールが強く印象に残っています。彼女と、世界中の人々との出会い、対話、別れの繰り返しを見ていたい、この世界観にずっと浸っていたいような気分になります。

意図して誰かと出会うことも、再開の約束もできずに、それでも出会い続ける彼女の姿を見て、人とのよすがを大事にしようと思える作品でした。

■日本社会のしくみ

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「日本社会のしくみ」としか表現のしようのないもの、つまり雇用や教育や福祉、政党や地域社会、さらには「生き方」までを規定している「慣習の束」がどんな歴史的経緯を経て成立したのかを書きたい

新卒一括採用や年功序列、定年制、正社員と非正規など、法律に決まってない暗黙のルール、日本の「慣習の束」が成立した背景と、現在に至る経過を網羅的に説明する一冊です。

そうした慣習は、今見ると存在意義がわからないものも多いです。本書を読むと、日本の雇用慣行は明治時代の官庁の人事制度や、昭和の組合活動、大卒者の増による賃金コストの上昇などが複雑に影響しあって、必然的に生まれたものだということがわかります。

著者は「いったん形成された慣行は、その根拠がなくなっても継続性を持つ」と述べており、確かに現代に適しない慣習も多く残ってしまっている印象を持ちました。慣習は、慣習だからという理由だけでは存在意義を持たず、必要に応じて見直しとアップデートが必要になるでしょう。

■夕張再生市長 課題先進地で見た「人口減少ニッポン」を生き抜くヒント

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行政サービスは「空気」のようなもの。あって当たり前で、薄くなってはじめて気づく

現在、北海道知事をされている鈴木直道さんの著作です(この本の執筆時は夕張市長)。

著者の半生と、財政破綻した夕張市を立て直した記録が綴られています。

夕張市はかつては炭鉱の街、北海道第7位の都市として栄えました。しかし炭鉱がすたれたことにより、全盛期に12万人いた人口は、現在1万人を割っています。

夕張は、人口減少・少子高齢化・財政難の3つの課題を抱える「課題先進地」と言われます。夕張市は将来、日本の各地で起きるであろう課題と、現在進行系で格闘しています。市長が行った、市のコンパクトシティ化は、非常に参考になりました。いずれは、全国各地で、夕張市の改革にならう動きが出てきざるを得ないだろうと予測しています。

■デジタル・ミニマリスト 

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AppleやTwitterが巧妙にしかける依存のしくみに抗うには、もはや一時的なデジタル・デトックスじゃ足りない。これは生き方の問題で、僕らには新しい"哲学"が必要だ

現代人は、1日のうちにめちゃくちゃ長い時間、スマホやPCを眺めています。これは、人間の心理を知り尽くした開発者たちが、できるだけ長い時間、ユーザーが利用するようにSNSを設計したためです。ユーザーが長い時間をSNSに費やすほど、開発者たちは広告費などで利益を得ます。SNSの長時間利用は、人間の幸福感を下げ、疲労感を与えることが研究でわかっています。

そうならないために、デジタルデバイスをなんのために、どうやって使うかを掘り下げて考えよう、たいていの現代人はネットに時間を使いすぎだから減らそう、というのが本書の趣旨です。自分は別にミニマリストではないですが、本書の内容は実践したくなることが多かったです。

番外編 腹を抱えて笑った漫画

おまけとして、読んでさんざん笑わされた漫画を一冊ご紹介します。

インカ帝国「ラッパーに噛まれたらラッパーになる漫画」

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内容はタイトルだけですべて説明されていますが、少し説明します。

この漫画の中の世界は、ゾンビ映画のように、ラッパーに噛まれるとウィルス感染してラッパーになってしまう世界です。主人公は、ラッパーに噛まれてラッパー化してしまった父親を人間に戻すために奔走する…という筋です。

読んでいて思ったのは、良くこの題材で漫画として出版できたな、ということです。日本の漫画業界の懐の深さを思い知らされた気分です。設定だけの一発ネタ漫画かと思いきや、きちんとしたシナリオがあって、3巻まで続きました。信じがたいことに、ドラマ化もされています。

ラッパーに襲撃された避難所が、一夜のうちにクラブハウスに変貌するシーンとか、ジョン・ケージの「4分33秒」を聞いたラッパーが悶絶するシーンとか、笑いを堪えられませんでした。

自分はこういう馬鹿馬鹿しい漫画が大好きです。

まとめ

非常に雑多なジャンルでしたが、6冊+αをご紹介しました。どの本を紹介するか考えるために、上半期に読んだ本を振り返る機会にもなったので、記事を書いて良かったなと思います。下半期も読みたい本がてんこもりなので、広く深く読んでいきたいです。

「この本良かった」とか「この本が好きなら、この本もおすすめ」などといったコメントをいただけると嬉しいです。ありがとうございました。

最後までお読み頂きありがとうございました!