引き金

 私は今目の前にいる男に銃口を向けている。手が震える。胸に耳を当てているのではないか? と錯覚する程に自分の心臓の音が大きく聞こえる。
「ちょっと待てって……一回落ち着こう……銃をおろせって」
怯えた顔で両手を上げている男はそういうと腰が抜けたのかストンと床に座り込んだ。
私は大きく息を吸い込んで引き金に指をかけた。この人差し指を引けばそれで終わり。

 ──撃って良いのは撃たれる覚悟のある奴だけだ
昔何かのアニメで聞いた事のあるそんなセリフを思い出した。そして命の重さについて思いが巡る。男は目の前で怯えて震えているが私だって今の現状に怯えているし、今後の事を考えると不安で仕方がないのだ。
「絶対に他の解決方法があるはずだって! 二人でずっとやってきたじゃないか……もう一度探そう! きっと何か良い方法があるはずだ……少しおかしくなっちゃっただけだよな? お前らしくないって……」
男は震えながら私の説得を試みている。その姿を見ていると、以前食べた鹿も同じような気持ちだったのかもしれないなと思った。

 もしも狩猟をしている時、罠に鹿が引っかかっていて
「私を助けてください」
なんて命乞いをしてきたら狩猟者はどう思うのだろうか? 命乞いをする鹿を可哀想だと見逃すのだろうか? 捕まえた獲物だからそんな事は関係ないと命を奪うのだろうか?
こうして考えてみると助ける場合も助けない場合も命の重さの選択をしている。
喋ったから逃す、喋ったとしても殺す。喋る鹿だから可哀想になる。喋ったとしても獲物は獲物だ。
そう、人間は物心がついた頃には無意識に命の選択を、命の選別をしているのだ。
牛や豚や鶏は食べて良いもの。でも綺麗な鳥は食べなかったり、ミニブタという飼育用の豚まで作り出した。
蟻を踏み潰しても何とも思わなかったり、ゴキブリ等の害虫と呼ばれるものは全て駆除対象。
狩猟によって捕られる熊や鹿、猪等はジビエと呼ばれ国によってはゲームにもなっている。
そして”人間は食べてはいけない”と誰からも教わった事がないのに誰しもが”当たり前”として感覚で思っている。
そう。当たり前なのだ。DNAがそう言っているのだ。

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