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AVATAR

 「HAPPY BIRTHDAY!! 2020。一年間ご苦労様。どうだった?」
「どうだったと言われましても……統計から考える限り今年は最悪と言っても過言ではないかと……」
「そうだよね。まあ早速で悪いけれど、活動記録の報告を宜しく頼むよ」
「2020、年間活動記録を報告します。」
真っ暗闇の中、沢山の機械の隙間から漏れる光とモニターの明かりで目が痛い。ここに来るのは丁度一年ぶりになる。あの頃の僕は不安で不安で仕方がなかったが、今ここに改めて訪れた僕はやっとかという安堵に満ち溢れていた。
「一年前の十二月から話していきますね」

 僕はまず身体に馴染む事から初めた。
何もない部屋
何もない情報
兎に角この身体に馴染み、世界に順応する事だけを考えた。
十二月は一ヶ月間すごくバタバタしたのを覚えている。慣れない事ばかりで全てを零から作るというのはこんなにも大変なのだな……と身に染みて感じていた。
「兎に角大変でしたよ……家にも何もないし、色々自分で作らないとならなかったので……毎回なんですか?」
「2020みたいに最初大変な思いをするのは稀なタイプなんだよね。僕の計画ミスだ。許してくれ」
そう言って笑っているのを見て、この人は何を言ってもこうして飄飄と躱して生きてきたのだろうなと悟った。

 一月になり身体も馴染んできた頃、世界は【COVID-19】の脅威に晒されていた。
新型の未知のウィルスはこれから世界を恐怖に陥れていく事になる。
この頃はまだ只の風邪だなんだと世界中の人々が軽く見ていた。医者達が警笛を鳴らしたが、すぐに受け入れて予防等をする者は少なく、世界はいつも通り回っていくのだった。
「2020は?すぐ予防とかしたの?」
「いえ、僕はマスクがあまり好きではありませんでしたので……それにこんな事になるとは当時は僕も思いもしませんでした。すぐにおさまって数年後にそんな事もあったよね……なんて話すような事件かと」
「わかる!!本当に吃驚だよ。まだ収束していないし」
「どうなるんでしょうね。最近ワクチンの治験が始まっていますが、やはり副作用もありますし、今後どう世界が変わっていくのか……それに東京で感染者数が六百人を超えたとか……」
「まあ、なるようになるんじゃないかな。そうやって生きてきたんだしね」
「そういうものでしょうか……」

 二月は特に語る事もなかった。
【COVID-19】の脅威にまだ気付く事なく、否、気付き始めてはいるがまだ少し世界中が甘く見ていたのかもしれない。外出自粛をするべきか、マスクは必ず着用する事にするべきかとテレビで連日のように報道され始めたのは二月の末頃だっただろうか。
「特にないなんて事ないでしょ」
「いえ……特にコレといって大切な報告は」
「君ちゃんと仕事してた?サボってない?」
「……普通にしていたかと」

 三月【COVID-19】での死者の増加。日本でも有名人が亡くなった事がきっかけで恐怖が加速する。
この頃になると色々なお店がマスク着用協力願いの張り紙を出し始める。飲食店やライブハウスにてクラスターが発生した事からそれらの職業に就いている人達は困惑の渦の中心に置かれるような形になる。
もちろんクラスター発生した店やライブハウス等は営業中止。
そのせいもあり国民は恐怖し徹底的に予防等をするものとそんな危険視するものではない、メディアの取り上げ方が悪いなどと反発するものに人々は割れる事になる。
「日本人はさ、真面目だよね。こういう時」
「いえ、周りと違う事をする事を嫌うだけかと思います。一部を除いて周りと違ったり浮いた行動を取る事を嫌っているようでした。それにマイノリティを叩きたがる習性があるようにも感じました」
「まあそうなんだけどね。文句の方が大きく聞こえてくるものだしね」

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