マギュパイキ

 顎の長さまでの赤毛の髪。右目の上にある大きな傷痕を隠すように髪の毛に油を付けてセットするのが私の朝の日課だ。
ある日私は目を覚ますと何も覚えていなかった。
鏡に映る自分は傷だらけで、身体中が痛かったのを覚えている。
目を覚ました私に気付いて駆け寄ってきた母 ( 当時は誰かわからなかったけれど ) にキツく抱き締められたのを覚えている。
何もかもに動揺していた私を見て、全てを察したように号泣する母を覚えている。
" お前が生きていてくれたならそれだけで良い " と母の隣で静かに微笑む父を覚えている。

村のみんなは私の事を " ヴィト " と呼ぶけれど、どれが本当でどれが嘘か……全部夢なのかもしれない……そんな事を考えてしまう自分がいる。
ごめんなさい。
私、何も覚えていないの。
私はどうやって生きていたの?
私はどうやって笑っていたの?

私は……ヴィトなの?

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1,850字
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