見出し画像

経営に活かしたい先人の知恵…その16

◆指導者に必要な「捨てる勇気」◆


 『管仲』は、指導者の役割として「決断力」(その15参照)を挙げている。逆に言えば、優柔不断は指導者には禁物ということだ。『孫子』も「軍(組織)を統率にあたっては、何より排すべきである」と指摘している。

 では、決断できる指導者と、できない指導者の違いはどこにあるのか。それは、「捨てる勇気」があるかどうかにあると言っていい。

 ユニクロとアップルを例に説明したい。ユニクロの場合、1998年の原宿店オープンまでは、「ナイキ」「アディダス」等々の有名ブランド商品も販売していた。人気商品ではあったが、仕入れて売っていたのでは、利幅も取れないし、他社も売っているので競争優位性に繋がらない。また、そうした商品に頼っていたのでは、目標の「SPA」(製造小売業)になりきれない。そこで、創業者の柳井正さんは、原宿店出店を期に、自社の商品のみの販売に舵を切り替えたのだ。

 1997年、危機に陥ったアップルの再生を託されたジョブズ氏は、15あったデスクトップ機をたった1機種に削減した。多数あったノートパソコンも1機種に絞り込み、プリンターと周辺機器はすべて切り捨て、さらに販売店も1系列にしたことで、見事再生に成功している。

 柳井さん、ジョブズ氏ともに、「捨てる」戦略をとったことで、組織を飛躍させたと言える。私の見る限り、決断のできる経営トップは、例外なく「捨てる勇気」のある人だ。

 何かを捨てる決断をすると、目先では売上が減少する可能性がある。上記の二社の場合、切り捨てた製品の売上はなくなる。この時、売上を捨てる勇気を持つことができるか。本来、決断とは二者択一の意思決定で、「何をやるのか、何をやらないか」を決めることだが、どうしても「何をやるのか」の方に、意識がいってしまう。結果として、やるべきことが増えるばかりで、決断できずにいる状態となってしまうのだ。

 決断する時に、指導者に意識してほしい言葉がある。それは「トレードオフ」だ。トレードオフとは、何かを達成するためには、何かを犠牲にしなければならないということで、何かを選ぶことは、何かを捨てることを意味している。何かを捨てようとすれば、どこかに迷惑がかかってしまうことが往々にしてある。そこを躊躇して、決断できない指導者が、多いように思われる。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?