泣いた昼 その夜(14日目)
いつもの練習場所に行くと、いつもトランペットを練習してるグループの1人に呼ばれた。
「おーい!こっちに来いよ!また変なやつに絡まれるぞ」
匿って?くれるようだ。
キューバのミュージシャンは本当に人が良い。
「日本人だ!エリックミヤシーロは知り合いか!?彼はまだ生きてるのか!?俺習いたいんだ」
「日本でNG LA BANDAは有名か?俺の甥が今あそこでアルト吹いてる」
相変わらず話が止まらない。とても嬉しい。
NG LA BANDAのアルト奏者紹介してほしい。
数時間経ち仲間が水を買いに行った間、集中してスケール練習をしてると、通りがかりのお爺さんが怒ってきた。
なにを怒っているのか分からないが、おそらく僕の音が嫌なのか、chinoが気にくわないのだと思う。
原因は定かでないが、気分を害したのは間違いない。謝って、今日は帰ることにした。
こういう日だってあるさ。
初めて罵声を浴びて、悔しくて泣いた。
日本食堂の親子丼のパサパサなご飯がえらく染みる。僕はこんな程度では負けられない。
(キューバと日本では米の種類が違う。パサパサなのは当然だ。)
夜
もはや行きつけとなったバー、la zorra y el cuervoでキューバの歌姫Daymé Arocenaのライブ。昼の出来事が少し尾を引いていたが、ものすごく楽しみにしていた。
立ち見が出るほどの大入り。
サンテリア(キューバの宗教及びその儀式に用いる音楽を指す)を、現代的な感覚でソウルフルに歌い上げる、今のキューバ音楽を知るには最高のライブだった。
相席になったブラジルからの観光客、Patricia とLucasとも意気投合した。
最後にDayméに今夜の感動を伝えに行く。
「あなた!もしかして日本から!?
やだ〜、私日本人と結婚したいのよー!」
「はじめまして、僕の奥さん」
「こちらこそ、旦那様!」
自然にコミュニケーションできたし、みんな巻き込んで冗談ばかり言って楽しかった。
そうだよ。自分からどんどん表現しないとダメなんだよな。物凄いパフォーマンスをみて、絶対に本人に伝えたいと思った。気持ちを共有するって本当に素晴らしいことだな。
引っ込み思案な自分の殻が剥けたような気がした。
だから、DayméにもPatriciaやLucasにも言った。
『次の土曜日にJanio Abreu y Aire de conciertoのメンバーとして同じステージでパフォーマンスするよ。観に来て!』
そう、次は飛び入りではなくちゃんと楽譜を準備し、師と共に二管フロントでLa zorra y el cuervoのステージに再び立つ。
正式なデビュー戦だ。
こっちで出来た大切な友達に聞いてもらいたい。
昼間は何故怒っているのか、こちらから聞くべきだったのだ。日本語でも構わなかった。反射的に謝ったのは思考が停止していたから。楽な方法を取ったのだ。それでは前に進めない。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?