見出し画像

ミンツバーグの組織論――7つの類型と力学、そしてその先へ(著:ヘンリー・ミンツバーグ、訳:池村 千秋、ダイヤモンド社)

本書におけるミンツバーグのメッセージ:組織は複雑であり、固有性を持つ

ヘンリー・ミンツバーグは理論家らしからぬ経営理論家であり、独創的な経営学者である。ミンツバーグについては以下の記事で簡単に触れたので読んでみてほしい。

そんなミンツバーグによる「組織論の教科書」が邦訳されたものが本書である。本書もミンツバーグ節とも言えるようなウィットに富んだ解説と示唆が満載の1冊だ。

上の記事でも書いたが、ミンツバーグの特徴の1つに「俯瞰的に経営理論を捉えたうえで持論を展開する」というものがある。本書でミンツバーグ本人も、世の中には「ランバー(一括派)」と「スプリッター(細分派)」の双方がいるが、自分は「無類のランバー」であると自認している。

本書にもその精神は色濃く映し出されている。本書においても組織論にかかるあらゆる説が取り上げられ、いくつもの角度で組織を分析していくが、そのどれにも完全には依拠しない。全てを統合的に捉え、1つの組織に様々な角度から光を当てることで、組織の複雑性と固有性を映し出す。これがミンツバーグの真骨頂だ。

理論というものは、あまりに複雑すぎる現実を人間の脳で処理可能なレベルに単純化するための手段である。それはつまり、現実は理論では捉えられない複雑性を抱えているということだ。

そして理論は再現・反復が可能であっても、現実はそうではない。毎度起きること、発生するものが固有性を持っており、組織についても似ているように見えるものがあっても全く同一な組織などこの世には存在し得ない。

そういった複雑性、固有性を前提としながら、決して理論の単純さをそのまま受け入れない。これこそがミンツバーグのスタンスである。

分析と統合:分解した要素を見つめても組織そのものは見えてこない

本書では、「牛の部位と生きた牛は異なる」というアナロジーが出てくる。肩ロース、バラ、モモ、レバーのような牛の部位を理解しても、生きた牛を理解したことにはならないという意味だ。

経営理論は、このアナロジーでいえば「牛の部位」に分解して牛の一部を理解しようとする方法と言える。「牛」という総体がわからない時、その一部を取り上げてどのようなものなのかを観察することは有効な手段だ。

しかし、牛そのものを総体として捉えなおすことをしないと、生きた牛を理解することはできない。部分の寄せ集めは総体ではない。部分を観察したうえで、それが組み合わさって1つのものとして機能したときに、総体としてはまた別の動きをするという点を理解する必要がある。

ミンツバーグは、本書において組織に対してそのアプローチをとっている。本書の前半では、部分への分解と観察を行う。中盤に入ってそれらを統合して総体としての組織を組織類型の観点から捉えようとし、後半に入るとその組織類型すらも部分であることを示しながら、より実態的な組織把握を行う。

単純化することが目的ではなく、モデル化することで組織をよりよく理解することを目的にする

こうしたアプローチの本書から得られる重要な示唆は、理論によるモデル化は、そのモデル自体が本質を表わしているのではなく、モデル化を通じて対象の組織の本質を探り当てることが目的であるということだ。

モデル化された対象は理解しやすいので、ついついモデルそのものを本質だと思い込んでしまう。しかし、本質は常に対象の中にある。そんな重要な視点が本書から学び取れる。

いいなと思ったら応援しよう!