世界最高の経営思想家:ヘンリー・ミンツバーグ
経営学者による本や論文のうち、私が抜群に面白いと感じ、また信頼を置いているのはヘンリー・ミンツバーグ氏のものである。ミンツバーグ氏の論考の面白さは3つに集約される。
①経営の実践と、そこに根差すアート的側面を重視する
一番はこれだ。以下の動画では、ミンツバーグ氏がインタビューに答える形で「マネジメントは実践であり、よく想像されるような計画的なものではない」という旨を語っているので、見てみてほしい。「マネジメントは科学や専門職ではなく、実践です。実践は根本的に変わりません。何を扱うかによって変わるだけです」
ミンツバーグ氏のこの視点は、1973年に出版された「マネジャーの仕事」ですでに色濃く出ている。これはミンツバーグ氏の博士論文をもとに出版された本で、その名の通りマネジャーの仕事を丁寧に観察し、記述し、分析したものだ。それまではマネジャーは計画や統制が業務の主であり、計画的なスケジュールを送っているはず、もしくはそうすべきと考えられていたが、ミンツバーグ氏はマネジャーの実態をそのまま記述することでその考え方に風穴を開けた。
②俯瞰的に経営理論を捉えたうえで持論を展開する
ミンツバーグ氏は、経営学における無数の理論を俯瞰し、それぞれのメリットやデメリット、ポジショニングを整理したうえで、持論をその中に位置づけて展開するという能力において抜きん出ている。そのため、ミンツバーグ氏の著書を読むと関連する経営理論をクリアに整理していくことができる。
この特色が遺憾なく発揮されているのは、「戦略サファリ」だろう。まるでサファリパークを抜けるかのように、多様な戦略論を紹介しながら関連付け、最後には読者を新たな地平線へと導く1冊だ。
他にも、6月に日本語訳が出版された「ミンツバーグの組織論」も、同様の性質を帯びている。
③ウィットに富んだ文体
読者を飽きさせないウィットがある。経営の一側面しか捉えていない言説に対してはやや毒舌調の批判を浴びせるが、なぜかクスリと笑わせられるような語り口だ。そして持論を展開するときには独特のアナロジーと明快な説明、統合的かつ独自の視点で切り込む。
その根底にあるのは、「当たり前と言われていることを、当たり前と思わない」という時には天邪鬼とさえ思えるようなゼロベースの観察と思考だ。経営学ではこういわれているよね、ということをミンツバーグ氏がそのまま受け入れて持論としているものを、あまり見ないくらい徹底している。
エクセレント・カンパニーの著者、トム・ピーターズ、ロバート・ウォーターマンが「世界最高の経営思想家」とまで呼んだ(*1)ヘンリー・ミンツバーグ。日本ではポーターやドラッガーほど名前が知られていないが、一般にももっと読まれるべきだと考えている。
*1 H.ミンツバーグ経営論「はじめに」を参照