物語と落語。
2022年の2月の終わりにロシアがウクライナに侵攻したってニュースが出た頃から、私の周りでよろしくない出来事がいくつか重なり、あまり良く眠れずメンタル的にきつい時期を過ごしていたんですが、酒を飲む以外に救いになったのは、村上春樹の「騎士団長殺し」を読むことでした。
眠れないので、積ん読しておいたその作品を手にしたんですが、それを読んでいると他のことは完全に忘れられた。
それは正に「物語の力」でした。
現実とは違う世界線を持つ物語のお話の中に没入していくことで、現実の中にあった「私」という存在も、「私を苦しめるアレコレ」もどこかへ行ってしまう。
世の中には様々な物語がエンタメとして存在します。
本、映画、ドラマ、漫画、演劇などなど・・・。
私は映画は嫌いじゃないというか、好きな方ではあるんですが、当たり前ですが作品によって当たり外れがあるじゃないですか?
最近、その「面白いんだかつまらないんだかわからないものを、3時間見る」ってのが相当に辛くなってきました。
連続ドラマに至っては10数時間とかにもなるし、そもそも、かなり前からテレビを見なくなっていたんですが、デジタル化してからテレビ自体がないことも加わって15年以上は完全に見ていません。
連続ドラマは記憶にないくらい見てないんですが、少し前に記憶とデータをたどって見たら、最後に生で全部見た連続ドラマは「古畑任三郎第2シーズン」でした。
古っ!
連続ドラマじゃねえしw
映像が嫌いなわけじゃないんですが、とにかく私は「長い」エンタメが苦手なんですね。
映画もドラマも長過ぎる。
そんな中、この数年ではまった落語は、見事に短い。
寄席なら12、3分のお話ですし、ホール落語で1席20分~30分くらい。どれだけ長くても45分程度であって、他の映像系エンタメより圧倒的に短時間。
そして、私が好きな、
柳家三三
柳家喬太郎
桃月庵白酒
春風亭一之輔
神田伯山
桂宮治
なんかの人たちが紡ぎ上げる物語を聞いてると、本当にその世界に没入していくことができるわけです。
もちろん、毎回ではないですよ。
上の人達の高座を聞いて笑わないことは皆無に近いですが、その日の出来や演目にもよりますが、毎回物語世界に入り込めるわけでは全然ないです。
不思議なことに、同じ人の同じ話を聞いても、「今日はそれほどでもねえな」ってなることが当たり前にあるわけですが、たまに、本当に見事にその物語の世界に立っているような感覚を得ることがあります。
で、私がそういう感覚になるのは、ほぼ”古典”と呼ばれる、昔から長いこと継承されてきた演目による。
新作落語を否定する気は全く無いんですが、申し訳ないんですが、面白い!見事!って感じで無条件に拍手できる高座には出会ったことがない。
三遊亭圓朝が作り上げた新作の数々は、今では多くの落語家が演じる”古典”になっていますが、あれも最初は誰もやっていない新作落語だったわけで、落語の世界も常なるアップデイトが必要。
ですが、新作というのは難しいです。
いわゆる「漫才」や「コント」の世界はほぼ全部が新作であるわけですが、私が見てきたドリフ、とんねるず、ダウンタウン、ナインティナイン・・・っていうお笑いの歴史の中で、誰がやっても面白い型を持つであろうコントとか漫才って、ドリフのいくつかのコントや、サンドウィッチマンのコント漫才くらいじゃないですかね?
M-1の漫才でも、「別の人間が全く同じ漫才をやっても、普通に面白くなる」のって、サンドの漫才とミルクボーイの、あの「型」があるやつだけな気がします。
他はね、漫才師のキャラと笑いのセンス、その時代性に思いっきり影響するので、誰がやっても面白くはならないし、いつやってもウケる構成にはなりにくい。
それくらい、長く愛される力のある物語というのは作り上げるのが難しい。
多分、多くの日本人があらすじを普通に言える昔ばなしは「桃太郎」くらいだと思いますが、あれね、物語に凄まじい強度があるわけです。
「金太郎」と言われても、変な赤い服とおかっぱ頭が浮かぶだけで、物語とか全然わかりませんが、桃太郎なら話せる。
それが物語の持つ力。
落語の世界に関して全然素人に近い私ですが、古典になる可能性のある新作落語は、柳家喬太郎の「ハワイの雪」くらいしか浮かびません。
立川志の輔の「歓喜の歌」も素晴らしいけど、長いのと難易度が高すぎるし、「みどりの窓口」は素晴らしくわかりやすくて面白いんだけど、時代が変わるのが速すぎて「みどりの窓口に並んで切符を買う」というシチュエーションがほぼなくなってしまっている。から、若者にはわかりにくい。
その点、喬太郎のハワイの雪には普遍性があるし、その証拠に喬太郎に教わって同じ噺をやっている落語家がそこそこいるので、古典化していく可能性は相当高いと思う次第です。
まあね、それくらい長く、多くの人の心に残る物語というのは稀有な存在であるわけですが、だからこそ、そういう物語が持つ力というのは素晴らしい。
そして、落語や講談なんかの面白いところは、そんな力のある物語ですら、つまらない人間が演じると考えられないレベルでつまらなくなり、上手い人がやると涙が出るくらいの上質な物語になるというところです。
私は上にあげた落語家・講談師はみんな大好きなんですが、特に柳家三三が好きで、時々、なぜか無性に柳家三三の噺を聞きたくなります。
笑いたいとかってことより、三三の物語を聞きたいっていう気持ち。
で、柳家三三も喬太郎の「ハワイの雪」をやっているらしいので、それを聞くのが今後の楽しみの1つです♪
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