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自分の翼で大空へ飛び立つ若者を増やす/税理士法人エンパワージャパン/穂坂光紀

若者応援企業を巡るスタディツアー、今回は税理士法人エンパワージャパンを訪問。代表の穂坂さんにお話を伺いました。


税理士法人エンパワージャパンの紹介

税理士法人エンパワージャパンは、神奈川県横浜市に拠点を置く、社会養育の実現を目指す日本で唯一の税理士事務所です。2014年2月に設立され、現在23名のスタッフが在籍。地域社会に根ざし、中小企業のパートナーとして信頼されており多くの企業から高い評価を受けています。

鬱々とした時代と家族の愛

―こんにちは!本日はよろしくお願いいたします。まずは穂坂さんご自身のことについてお聞かせください。幼少期はどんな環境で育ったのですか?

こんにちは!穂坂光紀(ほさかみつのり)です。1981年神奈川県の小田原市で生まれました。生まれも育ちも小田原で、三人兄弟の末っ子として育ちました。実家は資源回収業を営んでまして、幼少期から商売をする親の姿を見てきたので、中小企業が経営を続けていく大変さも子供ながらに感じていました。現在こうして税理士になり地域の中小企業を専門にサポートさせていただいているのも、実家が商売をしていたことが影響していると思います。

―そうなのですね。学生時代の話を聞いてもいいですか?

もちろんです。実は、高校時代にうつ病を経験しています。ある日突然、電車に乗れなくなりました。電車に乗ると心臓がバクバクして、その場にいられないんです。密閉された空間にいることが耐えられなくなり、学校では朝のホームルームが始まるまでは何ともないのですが、ホームルームが始まって教室のドアが閉まるともうその場にいられなくなり、保健室に駆け込み、家に帰らざるを得ないのです。親には心配と迷惑をかけましたね。電車に乗ることができないので、毎日車で学校まで送ってもらうのですが、ホームルームが始まった途端、教室にいられなくなり、保健室から親を呼んでもらって再度迎えに来てもらう。そんな生活を1か月くらい、毎日続けました。

このあと拒食症にもなってしまいます。体重が激減し、ネガティブ思考が極限の状態に達し、どうやったら親に迷惑をかけずに死ねるのかということをずっと考えていました。あるとき、「このままでは親に迷惑をかけてつらいから死にたい」と父に言いました。夜の10時ごろ、食事が終わって父と私の2人きりの状況でした。

息子がうつ状態だということは知っていたと思いますが、改めてそんなことを言われて父はショックを受けたのでしょう。今まで父が泣いているところを見たことがありませんでしたが、そのときの父は涙を流しながら「どんな状況であったとしても、お前は俺の息子だから、頼むから死にたいとか言わないでくれ」と言ってくれました。生きていてほしい。そう言ってもらえて、すごく嬉しかったことを覚えています。このときの父の言葉がきっかけとなり、立ち直ることができました。

恩師の存在

それと当時の担任の先生の存在も大きいですね。私の場合は、通学できない期間が4ヶ月間で済んだからまだ良かったんですけど、実際4ヶ月間学校に行けないとどういうことになるかというと、出席日数が足りないので留年ですって話になって、2年生に上がれないと言われたんです。その時に担任だった田中先生が、学年主任と教頭先生に直談判してくれて、「やっと学校に戻ってこれた保坂くんが、これからまた1年生やり直しっていうのは可哀想だ」「2年生になっても引き続き私が担任として責任を持つから2年生に上げさせてくれ」って言ってくれて、私は2年生に進級することができたんです。それがなかったら多分高校辞めてたと思うし、本当に先生の支えは大きかったですね。

ただ、2年生に上がったものの授業に追いつけないんですよ。しかも100日以上欠席してるから、内申点も非常に低くて、もう大学行けませんねって話だったんです。どうしようかなって考えて、じゃあ大学行くのはやめて手に職をつけるべきだなと。当時はバンドブームで、周りもバンドや音楽やっていたし、私も音楽が好きだったので、ミュージシャンになろうと決めました。

アルバイト先の店長の言葉

―ミュージシャンを目指すのですね。そこからはどんな生活を送るのですか?

「俺はミュージシャンになる」って決めてからは、もう授業は受けない、とにかく学校に行ったら寝る。寝て体力を温存して、学校終わったらバイトして、スタジオに入って練習するっていう生活になりました。そのままミュージシャンで食っていくつもりでいたのですが、高校3年生の時にアルバイトしていたコンビニの店長にこう言われたんです。

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あのな、穂坂。お前がミュージシャンになりたいっていうのはいい。別にやりたいんだったら好きにすればいい。ただ、学校に行って寝てるだけの時間がすごい無駄だ。例えば、お前が高校卒業してミュージシャンになるために東京に出たとしよう。でも、音楽で食っていける人間なんてたかが知れてるぞ。才能があっても、どれだけ努力してもうまくいくかどうかなんてわかんない。例えば10年くらい音楽活動やったけどやっぱ無理だったとして小田原に帰ってきたとしよう。その時に、高卒でまともに働いたことがないお前がそれからどうやって生きていくんだ?だったら、学校に行って何にもしてない時間を使ってなんか資格でも取ったらいいんじゃないか。資格があれば、それからでも雇ってくれる会社があんじゃないのか。例えば、簿記なんかどうだ?
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その時に、「確かにな」と思ったんですね。で、高校3年生の春に本屋に行って、簿記3級の問題集を買って、授業中にずっと簿記の問題を解いてたんです。そしたら、たまたまうまくはまったのか、簿記の3級と2級が高校3年生の時に取れたんですね。それが嬉しくてさらに簿記に興味が出てきて、簿記専門学校に進学しました。専門学校を卒業後はそのまま税理士事務所に就職し、実務経験を積みながら税理士資格を取得、その後独立して2014年に税理士法人エンパワージャパンを設立しました。

地域で中小企業が担う役割

―なるほど、恩師の支えと店長の言葉が今に繋がっているのですね。独立後の話を伺ってもいいですか?

もちろんです。先ほどお話したように実家は商売をしています。今は、兄が会社を継いでいるんですが、中小企業の経営者の方を取り巻く環境は、全然良くなるどころか、年々厳しさが増していると感じます。これを自分たちが少しでも支えたいんです。

今の日本の各地域の風土や地域性を作ってるのは、その地域で商売をされてる方だと思うんです。例えば町の飲食店や花屋さんであったり美容室であったりとかがその地域の生活を支えている。そうやってそれぞれの地域にいるそれぞれの人たちの思いがそれぞれの街を作っていってると。そう考えた時に、これ以上中小企業の数が減少し、働く場所が失われていったら、子供たちが大人になっていった時にどこで働くのって、私はそんな未来にしたくない。

なので、それぞれの企業が強い財務体質を作り、しっかりと成長して雇用を生み出す、そして次の世代に引き継いでいくということが大切なんです。そのために私たち税理士がしっかりとバックアップしていきたいなと考えて、うちは中小企業の財務支援に特化した税理士事務所になろうと決めたんです。行っているのは、資金調達や財務改善のアドバイス、それに関わる税務的なサポートなど。地域の中小企業と共に成長することを大切にしています。

大空への翼プロジェクト

―素晴らしいですね。児童養護施設との関わりもあると伺いました。その話も詳しく聞かせていただけますか?

はい。知り合いを通じて神奈川の児童養護施設の職員さんと繋がりができ、そこで児童養護施設の子どもたちがどんな状況にあるのかを知りました。特に私が注目したのは施設を退所した後のキャリアの部分です。退所後に大学に進学するケースはまだまだ少なく、多くが就職をしていくのですが、その際の選択肢が少ないんです。特に資格が必要な専門職になると高校を卒業して目指す道が少ない。

そこで、児童養護施設から地域を支援する税理士を創り出すための「大空への翼プロジェクト」を始めました。このプロジェクトのコンセプトは、どんな環境にいても、どんなに辛くて苦しい時でも、上を見上げれば無限に広がる大空がある。子どもたちに笑顔でどこまでも自由に羽ばたく翼を与えられたらとの思いでやっています。具体的には、児童養護施設にいる学生のうちからアルバイトとして働き、退所後は社員として働きながら税理士の資格を取得、ゆくゆくは、彼らが地域の企業を支援する税理士として活躍できるように育成しています。

プロジェクトを通じて入社したスタッフ


―このプロジェクトを通じて御社で活躍されている方もいるんですよね?

そうです。先ほどの繋がりができた児童養護施設で育った女性で、施設にいる高校生の頃からうちでアルバイトをして経験を積み、今は社員として働いています。入社から3年ほど経ちますが、順調に仕事も覚えていますし、お客様とのやり取りも少しずつできるようになってきました。私に同行して経営者の集まりにもよく参加するので、そこで顔も覚えてもらってきて将来が楽しみです。

さらに嬉しいことがありまして、彼女が頑張る姿を見た施設にいる後輩が、「一緒に生活していたお姉ちゃんが、税理士事務所に就職して、税理士になるって言ってる。もしかしたら私にもできるかも」と施設の職員さんに相談して、高校1年生からうちでアルバイトを始めたんです。やっぱり身近な人が頑張っている姿って周りに勇気を与えるんだなと思いますね。


―山梨でお米づくりも行っていると聞きました。こちらの話も聞かせてください。

「エンパワーファーム」ですね。これは養護施設の子どもたちに田舎のような帰れる場所を作りたいと2020年から始めたプロジェクトです。山梨県南アルプス市の耕作放棄地になった田んぼを地元のお米農家さんと一緒に復活させて、そこで施設の子どもたちとお米づくりをしています。山梨から種を持ってきて横浜にある児童養護施設で子どもたちが苗を作り、それを山梨に持っていって自分たちで植えます。できたお米を収穫したら、児童養護施設に寄付して、施設の子どもたちが食べて成長する。山梨県と施設をつなげて循環させる取り組みです。

言葉が人を傷つけることもあれば救うこともある

―こうした活動を続けているのは、穂坂さんの経験も関係しているのでしょうか?

そうですね。私は父親に「お前は俺の息子だ。生きてるだけでいいんだ。だから2度と死にたいなんて言わないでくれ。」と言われて、生きてていいんだって思えた。そこから時間はかかりましたけど、少しずつ少しずつ立ち直っていって、その後もいろいろな人の支えがあって今がある。

一方で、虐待を受けたり育児放棄を受けて「あんたなんて産むんじゃなかった」と言われてきた子どもがいる。やっぱり、生きてていいんだよって言われて歩んでいく人生と、あなたなんて産むんじゃなかったって言われて歩む人生だと当然その後が変わっていくに決まってるじゃないですか。本当に人ってたった一言、出会う人からの言葉で命が救われることもあるし、逆に心ない言葉で崩れてしまう人生がある。だったら、私は生かしてもらったから、今関わらせてもらってる子どもたちの力になりたい。あなたのことを応援するよって言ってくれる大人たちがいるんだよってことを伝えたいんです。


―こうした活動は御社のビジネスにとってはどのような影響があるのでしょうか?

うちは税理士事務所なので、慈善活動やボランティアで支援活動を行うつもりはないんです。しかし、それを実現させるために、ちゃんと事業化しながら支援活動を行う必要がある。そこで、一般の顧問契約と支援型の顧問契約の2種類の顧問契約制度をつくりました。どちらもサービス内容や顧問料は全く同じ。違いは、支援型を選んでいただいた場合、通常の顧問契約は1年契約で自動更新ですが、支援型の場合は2年契約になります。

この2年間にいただく顧問料はすべて「大空の翼プロジェクト」と「エンパワーファーム」の取り組みに使われます。2年間契約期間が満了した後、一般の顧問契約に移行するという仕組みです。おかげさまで、特に集客や宣伝にお金をかけていないにもかかわらず、多くのお客様にご賛同いただいています。いろいろな場でこの話をしていることで、多くの方々に理解していただけるようになりました。

可能性を広げ、自らの翼で羽ばたけるように

―この先の展望についてもお話を伺えますか?

はい。1年遅れにはなってしまいましたが、現在NPO法人を立ち上げようとしています。このNPO法人は、社会養育を推進するために企業の皆さんと一緒に子供たちを見守りましょうという目的で設立します。このNPO法人を「エンパワーファミリー」と呼んでいて、企業の方々を対象に会員を募集しています。

エンパワーファミリーに参加いただいた方々には、主に3つのことをお願いします。まず1つ目は、1年間に1か月もしくは1日だけでもいいので社内で「社会養育推進月間」を設けていただきたいということです。私たち社会養育に関わる者が企業を訪問、もしくはオンラインで、社員の皆さんに社会的養護の実情や自分たちができることについてお話しする機会を設けてほしいのです。この期間中には、企業のウェブサイトや広報活動で、社会養育に貢献している企業として紹介させていただきます。

また、可能であれば、社内や社員の家庭内で使わなくなった物品、例えば服や家電などをNPO法人に寄付していただきたいのです。その寄付された物品をネットオークションやリサイクルショップで換金し、その資金を各施設の子供たちが必要としているものに充てます。ちゃんと寄付いただいた物品がいくらになり、どの施設の子供たちのために使われたかを企業に報告します。これにより、支援者と受益者が具体的に繋がり、遠い親戚のような存在として子供たちを支援する関係が築ければと思っています。


―とても具体的な支援方法ですね。他にどのような取り組みがありますか?

関係性が築けた企業や子供たちと次のステップとして、「大空への翼」プロジェクトに参加していただくことを考えています。例えば、会社見学やインターンシップ、進路相談、アルバイトの機会を提供することで、子供たちが将来の選択肢として自分の将来を考える手助けをしてほしいと思っています。このプロジェクトを通じて、子供たちが自由に羽ばたける翼を得られるようにしたいと考えています。


―本当に素晴らしいプロジェクトですね。最後に、穂坂さんのこのプロジェクトにかける思いを聞かせてください。

どんな環境にいても、どんなに辛くて苦しい時でも、上を見上げれば無限に広がる大空があります。今いる場所から飛び立ち、笑顔でどこまでも自由に羽ばたく、そんな翼を子供たちに与えたい。そのために、このNPO法人「エンパワーファミリー」と「大空への翼プロジェクト」を通じて、子供たちの可能性を広げ、夢を持つことの大切さ、チャレンジすることの尊さ、達成することの喜びを知ってもらいたいのです。

―私も穂坂さんの活動を応援します!本日はありがとうございました!

今回のスタディツアーの学び

ご自身の経験から社会にある課題に目を向け、児童養護施設の子どもたちの支援を行っている。その一つひとつの活動が具体的で実際に自社に就職して活躍している人が生まれている。今後はさらに多くの企業や地域も巻き込んで支援の輪を広げようとされている。そんなエンパワージャパンの活動にとても共感しました。
主催:ボーダレスキャリア株式会社

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