妖狩りの侍と魔剣『斬妖丸』 : 「未知なる者再び… (陸)" 大団円 "」
「よくやった、『神隠し』よ」
拙者はこの忌まわしい妖を今回ばかりは
ちょっぴり好もしく思った
思えば、この異界(?)の円盤も『神隠し』も
人を密かに拉致するという意味では
同類と言えるのかも知れなかった…
今回は『神隠し』のお陰で
拉致されし人々を奪い返す事が出来たが…
しかし…
この異界の円盤をこのままにしてはおけぬな…
この日本の何処かの土地で
また同じ事をしでかすやも知れぬ…
拙者のおらぬ土地では
決して人々を助け出す事は叶わぬであろう
追い返しても
こ奴らが二度と来ぬという保証は無い…
罪なき人々を連れ去るなど絶対に許せぬ
この人攫いの円盤を壊してしまおう
しかし…
このギヤマン製の檻だけでも壊せぬというのに
如何にして…?
そうか!
この円盤は金属で出来ておる…
金属ならば雷を使えば…
雷は金気の物に落ちおる
この円盤の内部で特大の雷を何発も放ち
外からは壊せずとも中から破壊すれば
円盤は二度と空を飛べなくなるであろう
「よし、やるぞ!
『雷獣』よ、出ませい!」
拙者は魔剣『斬妖丸』の切っ先で空中に円を描いた
すると小さな稲妻を全身から発しながら
仔犬ほどの大きさの『雷獣』が
空中からポンッと姿を現した
『雷獣』は体長二尺(約60cm)程度で
姿形は狼に似ておる
前脚は二本だが後脚は四本で鋭い爪を持つ
尻尾は狐よりも太い尾が二股に分かれておる
何よりも『雷獣』は雷を自在に操る事が出来る
「『雷獣』よ… この場所にて
お前の最大最強の稲妻を思う存分に放つがよい!
拙者は一度外に出るが
必ずお前を迎えに来るゆえ
日ごろの鬱憤を晴らし
思いっ切り暴れ回るのじゃ!」
拙者はそう言い残して『神隠し』と共に
円盤の床をすり抜けた
『雷獣』の雷を受ければ拙者とて只では済まぬ…
床に潜る間際に拙者の目に映ったものは…
視界いっぱいに広がる真っ白な輝きを放つ雷と
「キュィーン!」
鳴き声を上げながら身体中の体毛を逆立てて
拙者の言いつけ通りに
嬉々として強烈な電撃を放つ『雷獣』の姿だった…
地上へ出た拙者は
すでに地面で目を覚まし
座ったり立ち上がっている村人達に向かって叫んだ
「何をしておる! ここから早く逃げよっ!
お前達も巻き添えを喰らうぞっ!」
立てる者達は自分で
立てないものは何人かで担ぐようにして
麓の村を目指して村人達は逃げ出した
拙者も少し離れて円盤を見上げた
見ると円盤の銀色に輝く表面からは
時おり小さな稲妻が走っていた
「もういいだろう…
『神隠し』よ、『雷獣』を連れに参るぞ!」
拙者は『神隠し』と共に今一度
円盤の中へと戻った
中はもうもうと漂う白煙と
雷が落ちた後の空気中に匂う
きな臭い鼻を突く匂いが充満していた
『雷獣』は円盤の中を駆け回って
拙者の言いつけ通りに
そこここで特大級の稲妻を何発も
お見舞いしたらしい…
中はさながら雷地獄の様相を呈していた
いまだに壁と言わず天井と言わず
帯電しているようであった
迂闊に触れると
とんでもない事になりそうだった
拙者は『斬妖丸』を引き抜き
白刃に『雷獣』を収めた
「よし、長居は無用じゃ
『神隠し』よ、引き上げるぞ」
どうしても『神隠し』に包み込まれる心地だけは
遠慮したい所だが、この場は我慢して
拙者は円盤の外へ出た
外観上は変わりなく見えるが
内部は『雷獣』により手ひどい有様じゃ
もう空を飛べはしまい…
だが、飛び立てないにしても
山上にこのまま放置してはおけぬ
何とかせねば…
異界の円盤を見つめているうちに
拙者にまた妙案が浮かんだ…
「『斬妖丸』、『大鯰』を使うぞ!」
そう言い放ちつつ
拙者は『斬妖丸』を地面に突き刺した
『大鯰』は地下に住みし巨大な鯰の姿をした妖である
身体を揺する事によって地震を引き起こす
怒らせると凄まじい大地震を起こすので
拙者と『斬妖丸』は苦心の末に退治致した
地下に住む『大鯰』は地上には出せぬ故
地面に突き刺した『斬妖丸』を使い
地下に『大鯰』を放った
拙者は『斬妖丸』を通じて『大鯰』に命令を下し
自分は大木の根っこに身を伏せた
「来るぞ…」
拙者がそう言った数秒後…
大きな地鳴りと供に凄まじい地震が起こった
「グラグラグラッ!」
「ゴゴゴゴゴゴーッ!」
物凄い揺れである…
揺れると同時に山上の地面に地割れが走った
大きな地割れは銀色の円盤の周囲に達し
円盤の突き刺さった地面が陥没した
やがて陥没は放射状に広がって行き
巨大な陥没は異界の円盤を飲み込み始めた
異界より飛来した円盤が地面に沈んで行く…
「ゴゴゴゴゴゴーッ!」
数十秒とかからぬ内に
円盤は山上の地面に全体を飲み込まれ
やがて巨大な地割れは口を開けた時と同様急激に
その開いた地面の裂け目を
中に円盤を飲み込んだまま閉じ始めた
あの銀色の円盤がどんなに頑丈でも
もう二度と地上に姿を現す事はあるまい…
拙者は地震によって形を変えてしまった地面に
ゆっくりと立ち上がり
地面に突き刺していた魔剣『斬妖丸』を引き抜いた
『斬妖丸』の刃には
刃こぼれ一つ生じてはいなかった
それにしても…
『斬妖丸』の操りし妖どもは
頼もしいやら…
恐ろしいやら…
しかし、拙者の気分は悪くは無かった
自分の頬に自然と笑みがこぼれるのを
拙者は止められなかった…
拙者は両手にそれぞれ
『斬妖丸』と『時雨丸』を握りしめ
空を見上げて口笛を吹いた
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