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第2回 視覚障害のある教員として、小学生が社会に出る基礎を築く~片平考美さん~【後編】|マイノリティのハローワーク|現代書館

前編では、片平さんが視覚特別支援学校教員として働くまでを中心に見てきました。後編では、視覚特別支援学校の教員をするなかで見えてきた課題や進路選択をどう支援するかについて伺いました。

小学生から始まるキャリア教育

片平さんによると、障害の有無を問わず、キャリア教育は小学生から始まっています。クラスの仕事としての係活動に始まり、家のお手伝い、調べ学習を通し、働くことを考えていくのです。小学校高学年になると、将来の夢を見つけられるよう、授業を組み立てていきます。中高生になれば、内容はより現実的になり、給与明細を見て学ぶこともあります。

視覚障害のある小学生も仕事をする人について調べる学習をしています。「『13歳のハローワーク』(村上龍著、幻冬舎、2003年)は定番の本ではあるけれど、そこには障害者向けの情報は載っていません。その意味で、この連載が障害者向けのキャリア教育に使える本になってくれたら嬉しいです」と、障害のある児童生徒に向けた情報の少なさを指摘しました。

「案外、いろいろな職業に就けるんです」と片平さんは知り合いの視覚障害者の職業を挙げていきます。公立の小中学校教員、IT企業勤務、法学を学んで市役所勤務、大学を卒業して福祉職と書ききれないほど多くの職業に就いている視覚障害者がいました。視覚障害者であれば、音楽、もしくは三療、視覚特別支援学校の理療科教員と限定して進路を語る人も少なくありません。しかし、実際にはそれ以外の職業にも就けると片平さんは現状を教えてくれました。

多様な経験が選択肢を増やす

進路選択で多くの選択肢を持つためにできることを尋ねると、「いろいろやってみることです。合わなかったら続けなくてもいいので、あれこれやってみる経験が将来の選択肢を広げます」と片平さんは経験の機会を増やす重要性を語りました。

片平さん自身も、私立の小学校で障害を理由に活動を制限されずに、放課後も多くの習い事を経験しました。バイオリン、英語、日本舞踊、水泳、習字、バレエ、ピアノなどあれこれやってみるなかで、これは向かない、これはやり方を工夫すればできる、と気づいていきました。そのなかで好きなものや得意なものも見つけたのです。

友人と遊びに行って、止められていたのにラフティングに参加し、眼の手術になってしまったこともあります。「さすがに代償が大きすぎましたね」と笑う片平さんですが、そういった経験から自分の安全な範囲やできることを掴んでいったのです。

やってみて初めて気づくことは多く、だからこそ経験の機会は大事です。経験の積み重ねが就職に際して障害のことを問われたときのイメージしやすい説明にもつながります。

アニメやドラマの視聴、クラブハウスでのおしゃべりを楽しむ

視覚特別支援学校で小学生を教える日々を送る片平さんは、日視連の青年協議会の会長もつとめています。青年協議会の会長として、音声SNSのクラブハウスを使った視覚障害のある若者の交流の場作りや日視連の様々な会合での議論を通し、視覚障害者、特に若者の現状を変えるべく積極的に活動しています。

そんな片平さんの最近の楽しみの一つが配信サービスで観るアニメやドラマです。アニメ『わたしの幸せな結婚』や『無職転生』、ドラマ『最高の教師』を楽しんでいます。

クラブハウスで視覚障害のある若者と話すのも、青年協議会の会長の役割を越えて、楽しい時間になっています。

取材後記

インタビューの最中、小さな頃は障害の認識が薄かったことについて、片平さんは「生まれつきその状態だから疑問の持ちようがない」と話してくださいました。それは、私自身の感覚とも一致します。自分の障害を捉えきれないままに迷うことも少なくありません。

しかし、将来の選択肢を広げるために多様な経験をし、障害開示を覚えていくなかで、周囲との違いを認識し、自分なりのやり方や特性を知り身の処し方を考えていくことになります。障害があると、健常者と同じ方法では無理が出てくるからです。

「自分は他と違う」とネガティブな意味で自覚するのは、つらいことです。障害があるからこそ、そのつらさに強くぶつかる環境にあり、そして生きていくためにはそれを乗り越える必要があります。そんな現状に問題は多いですが、生存のために、そして、自分だからできることを見つけるには欠かせない局面なのです。

多様な経験、障害開示の練習とやることは多いです。それらの実現には、マイノリティ性のある学生が多様な経験をし、試行錯誤できる環境を作ることが大事です。

興味のあることには少し手を出してみる。合わなかったらやめていいし、続けたければ方法を考えてみる。小さなことですが、それは将来の選択肢を広げてくれます。

雁屋優(かりや・ゆう)………1995年、東京都生まれ。生後数ヶ月でアルビノと診断される。高校までを北海道の普通校で過ごし、茨城大学理学部に進学、卒業する。卒業とほぼ同時期に発達障害の一つ、自閉スペクトラム症(ASD)とうつ病と診断され、治療しながら就職活動をする。病院勤務、行政機関勤務を経て、現在はフリーランスのライターとして活動。科学、障害に関するインタビュー記事、ジェンダー、障害、セクシュアルマイノリティに関するコラムの他、さまざまな執筆業務を手がけている。障害やセクシュアリティをはじめとしたマイノリティ性のある当事者が職業選択の幅を狭められている現状を、執筆活動を通して変えようと動いている。日本アルビニズムネットワーク(JAN)スタッフ。視覚障害者手帳4級、精神障害保健福祉手帳2級。


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