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思想のことば【0005】

バケモノがないと思うのはかえってほんとうの迷信である。宇宙は永久に怪異に満ちている。あらゆる科学の書物は百鬼夜行絵巻物である。それをひもといてその怪異に戦慄する心持ちがなくなれば、もう科学は死んでしまうのである。

〜寺田寅彦「化け物の進化」より〜

近代の人間中心主義、あるいは理性中心主義。そしてその権化たる科学という知の営みは、人類にはかりしれぬほどの恩恵をもたらし、そして、輝かしき地平を開いてくれた。
けれどもそれは同時に、人類を破滅に導くほどの凶器をも産み落としてしまった。
その脅威は、少しも減ずることなく、いまなお僕たちの存在を危機に晒している。そしてもちろん、次世代や、さらにその次の世代をも。
このまま人間の傲慢が肥大していけば、破滅は、そう遠い未来のことではないのかもしれない。
そしておそらく、自然や宇宙に遍在する「怪異」を虚心に直視し、「戦慄する」ことは、そうした傲慢の鼻をへし折るための、とても大切な契機なのだ。
寺田は、それをせねば「科学は死んでしまう」と言う。
科学を救うことは、おそらく、人間を救うことと同義なのである。
そして…「怪異」に「戦慄」を覚えるそのまなざしは、古今東西の優れた科学者たちの著した書物のなかに、しっかりと書かれていたはずだ。僕たちは、まず、その真摯な言葉に目を向けようではないか。


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