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図面に対する問題の未然防止|トヨタ流開発ノウハウ 第7回

設計者にとってのITツールとは?

設計者の皆さんは、機械設計者であればCADを開いて、ソフトウェア設計者であればソースコードを書くためのエディタを開いて、電気・電子設計者であれば回路CADを毎日開いているでしょう。

もちろん、仕事をするうえで効率的に活動するためのITツールは非常に重要ですし、活用しない手はありません。また、効率的だけではなく、品質を確保するための仕組みもツールの中に含まれているため、「使用しなければならない」という時代になってきています(手書き図面で出図していることはもうないでしょう)。

設計者の本来の仕事

重要な点は「CADを使うこと」にあるわけではありません。
過去の図面を参考にしながら、必要な部分を流用し、新たな付加価値を創造するために新たな部位を設計していくことにあるのです。

ここで重要な考え方は、過去の図面のどの部分を流用するかという点にあり、その部分を流用する≒図面を描かないことにあるのです。

できるだけ図面を描かずに、顧客が満足する仕様を検討していくことが、設計者の重要な役割で、過去の製品の仕様や機能を十分に理解したうえで、様々な部位(以降、ユニットと呼びます)を選択していくのです。
その選択は、先ほど述べたように過去の製品の仕様や機能を十分に理解している設計者しかできないのです。

その結果、顧客が満足するような製品の仕様や機能を構築し、図面の組み合わせで様々な付加価値を創造していく。さらに、過去の製品の組み合わせだけでは、顧客の要求に満足できないため、新規ユニットを設計し、図面を描いていきます。

設計者の業務の質をあげるための考え方

このように設計者は過去の製品の仕様を選択しながら、適切な図面を選択していくことで、結果、余計な図面を描かなくなり、図面の品質は確実に向上します。

皆さんの会社の図面には仕様や機能はほぼ同一にもかかわらず、少し形状が異なる図面がたくさん存在していませんか?

これは過去の製品を十分に理解していない設計者が、探すのに時間を要したり、他の設計者が描いた図面をよく理解できなかった結果、同じような図面を描いてしまったことにあるのです。

機械設計の図面だけではありません。電気設計もまったく同じですし、ソフトウェア設計に関しても同様です。
特にソフトウェア設計は他の設計者が作成したソフトウェア全内容を完全に理解することは非常に難しく、ソフトウェアの仕様書や設計書が残っておらず、ソースコードから読み解くしかない場合も多く存在します。

このような場合、機械設計と同様にソフトウェアの内容を解読できない以上、性能や品質が担保できているかわからないため、設計者が一からソフトウェアを作成していくのです。
このようなことをすると、間違いが起きやすいですし、品質を担保するために多くの時間を費やさなければなりません。

本来の設計の仕事をするために…

前述のような状態は多くの企業で起きています。
問題の未然防止を図るためには、方法は1つしかありません。

「図面、ソフトを描かないこと」です。

正確にお伝えするのであれば、余計な図面、ソフトを描かないことです。
本来、その企業にある製品の図面、ソフトは、過去に設計者が工数をかけて作成したものです。同じ内容の仕様の製品を新たに設計する必要はまったくないのです。

ここで重要なのは、過去にどのような図面、ソフトが作成され、その図面、ソフトはどのような仕様、機能になっているかを視える化することです。
よくモジュール化や標準化で失敗するのは、上記の部分です。モジュール化、標準化し、余計な図面を描かなくてもよい仕組みを構築したが、構築したモジュール、標準がどのような仕様、機能になっているのかがよく分からず、結局、過去に自分自身が設計した製品の図面を引っ張ってきてしまうのです。これでは意味がありません。

設計部門に必要な仕組み

まず実施すべき内容は、モジュール、標準の仕様、機能を明確にし、どのような設計者でも理解ができるような状態にすることです。 

このように書いていると設計者からこのような声が聞こえてきそうです。「そんなこと分かりきっている!」「当たり前のことだ!」と。

しかし、皆さんの企業では、本当に全ての製品の仕様、機能が明確になっている仕組みやドキュメントが存在しますか?また、その仕様や仕組みは設計者の誰もが使用できる状態になっていますか?

私は様々な企業にコンサルタントとして訪問していますが、ほとんどの企業ができていませんし、私がいた前職の自動車メーカーも完ぺきに出来ていたかと言われるとそうではないと感じています。ベテランのごく一部のメンバーしかわからない内容の仕様や仕組みでは意味がありません。重要なのは全ての設計者が同じレベルで使用できる状態にあることなのです。 
しつこいようですが、「誰でも理解できるモジュール、標準の仕様、仕組み」が最も重要です。

ここまで読んでいただいた方あれば、どのような仕様や仕組みが必要かはなんとなく理解できているでしょう。

顧客からの要求に対して、どのように過去の製品の仕様を選べばいいのかを選択できる状態にあることです。これを私は仕様モジュールと呼んでいます。この仕様モジュールが出来れば、あとはその仕様に従って、図面を選択すればいいだけです。また、顧客からの要求に合致する仕様がない場合は新たに図面を作成する必要があるため、そのユニットのみ新規設計すればよいのです。

その結果、過去の仕様は選択するだけで出図が出来る(余計な図面を描いていない)、また、余計な図面を描いていた工数を新たな図面を作成するために使用でき、様々な問題を未然に防ぐ手立ても考えることができます。

まとめ

このように図面を描かないことにより、多くのメリットがあり、QCDの全ての要素を高めることができるのです。
もし、皆さんが仕様や図面を選択するのに時間を要しているのであれば、このような仕組みを構築してみてはいかがでしょうか。

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