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なぜ儲からないのか|トヨタ流開発ノウハウ 第3回

原価企画で利益をつくる

受注生産の企業では、顧客から要求された仕様を満足させるために、自社の標準製品(カタログに掲載しているような標準品のこと)をカスタマイズし設計をしていると思います。その時の見積もり金額算出方法の多くは、カスタマイズを考慮した積み上げ原価に利益を上乗せした上で、製品価格としていることが多いのです。

この製品価格の算出方法で、顧客からの減額要求があった場合に、何によって減額を認めているのかというと、多くの場合は利益を削っています。理由は簡単です。減額の要求に見合う製品のコストダウンを営業部門が検討できていないからです。とりあえず利益を削って受注した上で、設計部門に受注内容(要求仕様内容)をインプットします。
設計は利益が減少しているからといって、コストダウンを検討するわけでありません。多くの設計案件をこなすのに精一杯で、なんとか納期に間に合わせるしかない状況です。設計がコストダウンできなければ、その後の購買部門のモノの買い方や製造の加工方法などで、なんとか挽回しようと思っても時すでに遅しです。購買や製造でコストダウンできる幅は狭く、コストダウンの可能性を100とするのであれば、せいぜい20程度でしょう。80は設計段階でしかコストダウンできない内容です。

このようにして、企業に残るはずの利益が徐々に削られていきます。もちろんメーカーだけが悪いわけではありません。顧客側にも問題があります。購入したい製品の相場以上に減額を要求してはいけません。要求した結果、その企業が継続できなくなると、発注側の顧客も他の企業を探して依頼しなければならなくなりますし、その際には元々発注していた金額で生産してくれる保証はありません。

顧客の言いなりにならないことも重要です。その点をふまえた上で、企業に利益が残る状態を作り出さなければなりません。その仕組みが「原価企画」です。

まず原価を固定する

多くの企業では(特に受注生産の企業)、原価管理の部門やシステムはありますが、原価企画の部門やシステムはほとんどありません。顧客からの要求を受けつつ、コストダウンを効率的に設計段階で進めていくためには原価企画の仕組みが必要なのです。

見込み生産企業(自動車のような製品を製造販売しているメーカー)では、原価企画は存在するでしょう。市場へどれぐらいの価格で製品を投入すべきか、検討しなければならないからです。要は販売価格をメーカーが決めなければならないからです。しかし、受注生産企業の場合は、価格は顧客が決めていたり、競合他社と同等の金額にしなければならなかったり、価格決定権が小さいのです。そのために原価を「企画」するということはほとんどない状態です。しかし、価格決定権が小さいからといって成り行きの原価で進んでしまうと先ほど述べたように企業に残る利益はほとんどないでしょう。場合によっては赤字の製品も存在するかもしれません。
このような状態にならないためにも、受注する段階で原価企画により、目標となる原価を定めなければなりません。価格決定権が小さい以上は、価格は固定値として考えるべきです。また、利益も企業が存続するために必要なコストなので、固定値なのです。残る原価しか変動させられるコストはないのです。

この方式が原価企画のもっとも重要な考え方です。しかし、この目標原価を定めたらかといって、設計部門が目標原価を実現できるわけではありません。あくまで目標を決めただけなので、この目標を実現するための具体的な手段の検討が必要になります。

機能でコストダウンを図る

コストダウンを検討する際に皆さんは、材料や加工方法など闇雲にコストダウンできる方法を列挙していませんか?この方法だとベテランで知識がある設計者であれば、目標に到達可能かもしれませんが、設計者全員が実行できる方法ではありません。ベテラン設計者であったとしても、ムラが出てしまうでしょう。そうならないためには、「機能」を考えたコストダウンを検討していくのです。

顧客からの要求仕様があります。その要求仕様を満足する「機能」の実現は絶対です。その「機能」を実現するための方法を変更していくのです。具体的な製品で考えましょう。

例えば「おしピン」で考えてみましょう(ポスターを壁に固定させるためのおしピンです)。現在のおしピンは、取っ手が付いています。その取っ手によって、簡単におしピンを壁から抜くことが可能です。

この「壁から抜く」という機能を考えてください。押しピンには壁から抜くという機能を実現するために、取っ手が付いています。よって、壁から抜くという機能を別の方法で実現することができれば、コストダウンが可能となります。

昔の押しピン=画鋲は取っ手がなく、壁との隙間に爪をねじ込むようにしながら抜いていたと思います。これは抜くという機能が不足しているのです。そのため、取っ手のついた画鋲=押しピンがこの世に登場しました。

では、取っ手が最善策なのでしょうか?取っ手の代わりになる「てこの原理を使ったヘラ」のようなものが開発できれば、壁から抜くという機能を実現することができますし、画鋲1つ1つにヘラは必要ありませんので、ある程度のロットに1つ存在すればいいと考えると大きなコストダウンが可能になるでしょう。

1例でしたが、「機能」を考えて、その機能を「実現する方法」を変更すれば大きなコストダウンにつなげることが可能となります。

このコストダウンの考え方を設計インプット段階の最初に検討し、対応策を設計に組み込んでいくことにより、目標原価の達成が可能になるでしょう。

みなさん、いかがでしょうか。少ない利益に苦しんでいる企業はぜひ、原価企画の仕組みと機能を考えたコストダウンの仕組みを構築してみてください。
この方法によって、利益を確保でき、次の投資(戦略的な投資)が実現していくことでしょう。

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