【完結】『あなたの知らない永遠』第八話「マナホールの所在」

登場人物

ステラ(16):とある村に住むごく普通の少女。ニナの生まれ変わり。
サラ(5,119):魔法使いの女性。元人間。ニナと両想いだった。
ニナ(享年64):人間の女性。サラと両想いだった。
ジェシカ(10,099):魔法使いの女性。不老不死。サラに好意を抱いている。サラ、ニナと仲が良かったが、無断で不老不死の魔法をかけたことでサラに酷く嫌われる。

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本文

 三人が出会ってから一か月が経った。この一ヶ月、ステラは生まれて初めて真面目に勉強に励み、ついに不老不死を解除する魔法を身につけた。
「よく頑張ったわね、ステラ。上出来よ」
「ジェシカさんの教え方が良かったからだよ。ありがとう。これと同じポンチョも作れたし」
 ステラは身につけている赤いポンチョに触れた。ジェシカに裁縫を教わり一から自分で縫ったポンチョは、此岸の世界にいるときいつも身につけている。ジェシカの作ったそれに比べるとまだまだ見劣りするが、それでもステラにとって一番のお気に入りになった。
 ステラはこの狭間の世界で、これまでの人生で得たより大きなものを手に入れた。魔法の知識、お気に入りの赤いポンチョ、親友以上の関係、首に巻いた大切な思い出……。そしてついに時は来た。最愛の人、サラを永遠から解放し、新たな始まりを迎えるときが。
「それじゃあ、サラに会いに行きましょう」
「うん!」
 ステラとジェシカはサラの家へと向かった。

 瞬間移動の魔法で、二人はサラの家の前まで来た。二人は互いに顔を見合わせて頷いた。そしてドアの方へ向き直り、揃って深呼吸をした。
「サラ、私よ。ジェシカよ。ステラもいるわ」
「サラー、起きてるー?」
 二人が呼ぶと、家の奥から足音が聞こえて来た。そしてドアが開き、サラが現れた。彼女の顔には一か月前の刺々しさは微塵もなかったが、ジェシカに対するわだかまりが無くなったわけではなさそうだった。
「ステラ、おはよう」
「おはよう、サラ。いよいよだね」
「うん。そうだね」
 サラとステラはすっかり親密な仲になっていた。二人はいつも会うたびにハグをしていたが、ジェシカの前ではさすがにばつが悪いのでしなかった。ジェシカも薄々感づいているようだったが、二人の仲に介入することはなかった。何せ彼女は、それで五千年前に大きな過ちを犯したのだから。
「サラ、私たちの準備はできてる。あとはあなたの心の準備だけ」
「大丈夫、もう気持ちは固まってる」
「わかったわ。それじゃあ行きましょう」
 ジェシカの表情には前向きで力強い決意の色が見られた。そしてサラの顔にも。
(サラ、今ちょっとだけ口角が上がったような……)
 ステラは見逃さなかった。サラが、ジェシカに向かって一瞬笑みを浮かべたのを。サラの心情は確実に変化している。憎しみはもうほとんど晴れているのかもしれない。

 それから三人は歩いてマナホールのある場所へ向かった。歩き始めて五分ほどで、三人は深い林道に入った。
「ジェシカさん」
「なに?」
「今まで教えてくれなかったけど、不老不死の魔法を吸い込ませる、そのマナホールってどこにあるの?」
「もう少ししたらわかるわ。あなたも知ってる場所よ」
「あたしが知ってる場所?」
 ステラは不思議に思った。初めて訪れるのにどこだかわかるような場所。そんな矛盾した場所があるのだろうか。全く想像もつかなかったが、どのみち行けばわかるのでそれ以上は聞かなかった。
「ところでステラ。私も結構前から気になってたことがあるんだけど」
「なに?」
「私のこともジェシカさんじゃなくて、ジェシカって呼んでもらえない?」
 ジェシカもステラの呼び方に距離を感じていたのだろう。ステラはニナの生まれ変わり。ニナはジェシカにとって親友であり、恋敵であり、恩人でもある大切な人。姿形までそっくりなステラにさん付けで呼ばれるのが、ちょっぴり寂しかったのかもしれない。
「そっか。そうだよね。じゃあこれからはジェシカって呼ぶね」
「ありがとう。ずっとタイミングを探してたのよ。サラがいるときに確認しなきゃと思って」
 ジェシカはそう言って横眼でサラの方を見た。するとサラは、恥ずかしそうにぷいと目を逸らした。
「変な気を遣わないでよ、まったく。調子狂うなー」
「ふふ、ごめんなさい」
 サラとジェシカの間を流れる空気は悪くなかった。あと少し。きっかけさえ逃さなければ二人は仲直りできるはず。ステラの頭にはあるイメージが浮かんでいた。今日、サラの不老不死を解除するときに……。

 それから五分ほどが経過した。脇道に入り、手入れのされていない雑木林の中に入ったとき、サラが口を開いた。
「ジェシカ、さっきからずっと思ってたんだけど、この道って……」
「ええ、そうよ。私たちがよく知ってる場所に続いてる。そしてステラ、あなたは誰よりもその場所をよく知ってるはずよ」
 ジェシカの言う通り、ステラもその場所を知っていた。というより、思い出したと言った方が正しい。
「うん。あたし、もうわかった。この先にあるのは、ニナさんが住んでいた家」
 サラにかかった不老不死の魔法を吸い込ませる強大なマナホール。その所在はかつてニナが住んでいた家だった。

次回


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