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Untitled Fantasy(仮題)破6

登場人物

マーティ・ハガード(18) 便利屋、元孤児
セレナ・ウィリアムズ(18) ウィリアムズ王国現第二王女
ジョニー・ダグラス(18) 薬剤師、元孤児
エマ・クラーク(17) 機織り、元孤児

グレアム(283) 天界の若手官僚

初回

前回

〇砦内の部屋

男の声「入るぜ。武器は握ったままでいいが、斬り捨てるのは敵かどうか見極めてからにしてくれよ」

マーティ、剣を握ったまま待つ。
セレナ、一歩後ろに下がる。
ドアが開く。
三十代くらいの髭面の男が現れる。

髭面の男「はじめまして、だな。俺の名はグレアム。天界人だ。お前らの世界で言うところの若手官僚ってところだが、歳は二百八十三歳だ」
マーティ「そういう設定か何かか?」
グレアム「よせよ。俺は大まじめだぜ。時間がない。単刀直入に言うぜ」

グレアム、真剣な表情になる。

グレアム「今回の魔族による人界への侵略は、人間だけの問題じゃない。魔族は人界を手中に収めたら、次は天界を侵略するだろう。それを指をくわえて見ているわけにはいかない。だからお前らに手を貸そうってわけだ」
マーティ「自分たちのためか」
グレアム「そうだ。不服かい? あなた方のために善意で手助けしにきました、なんて言われるよりよっぽど信用できるんじゃないか?」
マーティ「……」
グレアム「まあいい。見てな」

グレアム、柔らかい光に包まれる。
マーティ、セレナ、警戒する。
光が収まり、白い服に本物の羽を付けたグレアムが現れる。

グレアム「これが俺の本来の姿だ。そして面倒だから端折らせてもらうが、お前らは俺たち天界人の血を引いている」
セレナ「なんですって!? そんな話、一度も聞いたことないわ!」
グレアム「そりゃそうだ。天界人の血が混じったのはもう大昔の話だからな」
マーティ「そんな馬鹿な……」
グレアム「ウィリアムズ王家は天界人の流れを汲む一族。そしてお前とジョニー、エマの三人は、ウィリアムズ王国成立前に枝分かれした分家の末裔だ」
セレナ「じゃあマーティのルーツは私と同じ……」
マーティ「いや、おかしい。それなら他にも天界人の末裔は大勢いるはずだ。あえて俺たち四人を選ぶ理由がない」
グレアム「才能ってもんがあるだろう? 天界人の血を引く人間でも、その才能には大きな差がある。この国で魔族に対抗し得る才能を有していたのが、お前ら四人ってだけの話さ」
マーティ「そんなうまい話、信じられるか!」
グレアム「信じられるにせよ、信じられないにせよ、今のままじゃ魔族に勝てないのはわかってるだろう?」
マーティ「ぐっ……」
グレアム「時間がない。まずはお前ら二人の才能を引き出すぞ」
マーティ「何!?」

グレアム、両手をかざす。
グレアムの手から放たれた柔らかい光がマーティとセレナを包む。

セレナ「きゃっ! 何よこの光!」
マーティ「何も見えないぞ!?」
グレアム「安心しな。すぐに終わる」

光が収まる。

グレアム「気分はどうだ?」
マーティ「変わったと言われればそうかも、くらいの違いしかないぞ。やっぱり何か企んで……」
セレナ「待って、マーティ」
マーティ「セレナ?」
セレナ「体内の魔力がさっきとは全然違う。今ならさっきの数倍……いえ、数十倍の威力の魔法剣が使える気がする」
グレアム「魔力だけでなく膂力も上がってるはずだ。特にマーティ、お前は力が数段増している。ちょっと床に手を当てて、軽く力んでみろ。軽くだぞ」

マーティ、怪訝な顔をしてしゃがみ、床に手を当てる。
衝撃音とともに床に敷き詰められた石が激しくひび割れる。

セレナ「すごい……」
マーティ「うそだろ? 軽く力を入れただけだぞ?」
グレアム「まあそういうわけだ。信用したか?」

マーティ、立ち上がる。

マーティ「まだお前が味方だと決まったわけじゃない」
グレアム「強情な奴だな」
マーティ「だがお前の言う通り、元の俺たちの力じゃ勝ち目は無い。この力、ありがたく使わせてもらう」
グレアム「ほう、そうきたか。いいだろう、利害一致だ。あとはジョニーとエマをここに呼び出して……」

数人が走る足音が聞こえてくる。

兵士の声「敵襲! 敵襲! 北西に魔族の部隊を確認! その数二百前後! ただちに迎撃の準備をせよ!」
セレナ「そんな! こんなに早く攻めてくるなんて!」
グレアム「ちょうどいい。お前たちの新たな力を試してみろ」
マーティ「何がちょうどいいだ! セレナ、お前はここに隠れてろ! 俺一人で行ってくる!」
セレナ「だめよ! 最後まで一緒に戦うって言ったじゃない!」
グレアム「待て待て。マーティ、今のお前の腕力じゃあその業物の剣でも長くは持たない。今から俺が武器を出してやるから、その剣はお姫様に譲んな」
マーティ「何?」

グレアム、柔らかい光とともに大剣をその場に現出させる。

グレアム「天界にある大剣の中でもまあまあの代物だ。魔族の尖兵を力でねじ伏せるには十分だろう」

マーティ、長剣をセレナに渡し、大剣を拾い上げる。

マーティ「礼は魔族を倒し終わってから言う」
グレアム「へーへー、お好きにどうぞ」
セレナ「マーティ、私も戦う! 来るなって言われても絶対について行くから!」
マーティ「しかたねぇ。行くぞ!」
セレナ「うん!」


〇砦内、市民の待機場所

ジョニー、エマ、他の市民たちと地べたに座って待機している。

砦の兵士A「みなさん、落ち着いて聞いてください! 魔族の部隊が今、こちらに向かって進軍しています!」

市民たち、ざわつきだす。

砦の兵士A「今からこの砦に籠城し、魔族の軍を迎撃します! 不安でしょうが、みなさんは余計な体力を使わず、じっと待っていてください!」
市民I「そんなんでどうにかなるのかよ!」
市民J「そうよ! 魔族の軍を退けるなんて、あなたたちにできるの!?」
分隊長B「市民のみなさん、落ち着いてください! 大丈夫ですから!」

市民たち、騒がしくなる。
ジョニー、黙ってその様子を見ている。

ジョニー、モノローグ(まずいな。攻めてこられたらみんな冷静ではいられない。かといって、ここにいる部隊だけで魔族を撃退できるとも思えない)
エマ「ジョニー、どうしよう? あたしたち、みんな殺されちゃうのかな?」

エマ、不安そうな顔をする。

ジョニー「エマ、気を確かに」
エマ「でも……」

 *   *   *

セレナとマーティが現れる。

セレナ「みなさん、落ち着いて! こちらに攻めてきた魔族は私たちが倒します! だから少し待っていて!」
分隊長B「そうだ! 魔族の下郎どもは殿下が直々に撃退してくださる……って、ダメです! 殿下! 何を仰いますか!」
セレナ「言葉通りの意味です。私たち二人が先陣を切ります。あなたたちは市民を守ることに専念しなさい」
分隊長B「ダメですダメです! いくら殿下といえども、その命令には従いかねます! 中でお待ちください!」
セレナ「いいえ、行きます。マーティ!」

マーティ、頷く。
セレナ、マーティ、門の方へ走り出す。

分隊長B「あ! 殿下! くそっ! 絶対に門を開けるな! 殿下を行かせてはならん!」

セレナ「マーティ、あの壁、飛び越えられると思う?」
マーティ「ああ、今ならいける気がするぜ」
セレナ「じゃあ、行こ」
マーティ「オーケー」

セレナ、マーティ、ジャンプして七メートルほどの城壁の上に飛び乗る。
市民と兵士、ざわつきだす。

市民K「おい! 今の見たか!? 殿下とあの護衛の男、城壁の上まで飛んだぞ!」

市民たち、どよめきだす。

エマ「ジョニー、マーティもセレナちゃんも、どうしちゃったの?」
ジョニー「僕にもわからない。ただ、明らかにさっきとは違う。いったい何があったんだ?」

次回


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