【完結】『あなたの知らない永遠』第十話「新たな始まり」

登場人物

ステラ(16):とある村に住むごく普通の少女。ニナの生まれ変わり。
サラ(5,119):魔法使いの女性。元人間。ニナと両想いだった。
ニナ(享年64):人間の女性。サラと両想いだった。
ジェシカ(10,099):魔法使いの女性。不老不死。サラに好意を抱いている。サラ、ニナと仲が良かったが、無断で不老不死の魔法をかけたことでサラに酷く嫌われる。その後、五千年の時を経てサラと和解した。

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 ニナとジェシカが五千年前に整備した入口部分を過ぎると、そこから先は鍾乳洞が続いていた。空間は広く、水の滴り落ちる音が断続的に響いていた。
 三人はジェシカの作り出した発光体の灯りを頼りに、蝙蝠一匹いない洞窟の中を歩き続けた。歩きながら、ステラは一か月前のことを思い出していた。歳をとるのが嫌で不満を漏らしていた自分。みんな若いままでいられればいいのにと、心から思っていた。サラがステラに不老不死の魔法をかければ、少なくともこの三人は揃って若いままでいられる。そうすればずっとサラと一緒にいられるし、ジェシカも独りぼっちにならなくて済む。二人と親密になった今ならそれもありかもしれない。
 しかしステラは此岸の世界に家族がいるため、不老不死になるわけにはいかない。そして何より、ニナだったころから五千年をまたいで繋いだ思いを無駄にしたくなかった。ステラは人間として、サラと一緒に限りある時間を大切に生きたかった。

 それから三十分ほど歩いただろうか。
「そろそろだよ」
 先頭を歩くステラがそう言った。先には大きな空洞があるようだ。
 ほどなくして、三人はひときわ広い場所に出た。その中心には巨大な黒い球体があった。
「これが、マナホール……」
 サラは初めて見るマナホールの大きさに驚愕していた。
「そうよ。これがマナを吸い、適度に外に放出することで狭間の世界は均衡を保っている。他所にもあるらしいけど、私が知ってるのはここだけ。普通は五万年かけても見つからないものよ。それがニナの家のほぼ真下にあったなんて、ほとんど奇跡と言っていいわ」
 ジェシカは感慨深げにその漆黒の物体を眺めていた。
「いよいよだね」
 ステラの言葉には強い決意がこもっていた。
「ええ、長かったわね。さあ、ステラ。サラから不老不死の魔法を抜き取って、マナホールに移してちょうだい」
「うん、わかった」
 ステラは頷き、サラの方を向いた。
「サラ、こっち向いて」
「あ、うん」
 サラもステラの方を向いた。彼女は緊張と気恥ずかしさの入り混じった表情で、最愛の人と向き合った。そしていよいよ、ステラは不老不死を解除する魔法を唱え始める。彼女が詠唱を始めると、サラの腹部からマナホールとよく似た、人の頭くらいの大きさの球体が姿を現した。
「これが、私の中にあった不老不死の魔法……」
 球体は少しずつサラの体から抜け、やがて全て外に出た。そしてそのままステラの体に吸い込まれそうになったが、四分の一ほどめり込んだところで止まった。狭間の世界にいるときのステラは半実体のため、不老不死の魔法を受け付けないのだ。
「さあ、いくよ!」
 ステラは受け止めた不老不死の魔法をマナホールに向かって勢いよく放った。するとそれは何の音もなく、あっけなくマナホールに吸い込まれてしまった。五千年もの間サラを苦しめた禍々しい魔法は、拍子抜けするほどあっさりと消え失せた。
「サラ、これで私があなたにかけた不老不死の魔法は、ただの魔力に還元された。そしてステラ、お疲れ様」
 ステラは何も言わずマナホールを見つめていた。
「ステラ、大丈夫?」
 ジェシカは心配そうに尋ねた。
「え? あ、うん。大丈夫。なんか全部終わったと思ったら、いろいろ思い出しちゃって」
 三人は共に沈黙した。ここまでの道のりは長い長い回り道だった。それがやっと元の道に合流したのだ。しかしそれは無駄な道のりではなかった。これが、三人の新たな始まり。

 道はまだ先へと続いている。

「サラ、ジェシカ、帰ろう!」
「うん、帰ろう」
「ええ、そうしましょう」
 三人はその場を後にした。もう二度と、この場所に戻ってくることはないだろう。

 その後、マナホールへと続く洞窟は再び封印された。

 サラとジェシカの間にあったわだかまりは、サラの許しを契機として徐々に修復されていった。昔と全く同じではなかったものの、その後二人はお互いの家を行き来する仲であり続けた。
 ステラはジェシカのはからいで、此岸の世界と狭間の世界を自由に行き来できるようになった。新たな転送先として、かつてニナの家だった場所に家も建てた。それから彼女は、生涯二人の親友であり続けた。

 そして、サラの不老不死が解かれてから数十年の時が過ぎた。

次回


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