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Untitled Fantasy(仮題)序1

あらすじ
とある大陸の北西にある海洋国家ウィリアムズ王国は、建国二百周年の節目を迎えようとしていた。そんな折、王都の城外にある林では魔物の数が不自然に増えていた。便利屋として生計を立てる元孤児の青年マーティは、林の所有者の依頼で魔物退治に出かけるが、その裏には想像を遥かに超える陰謀が絡んでいた。

作品概要

ポートフォリオの一つとして、また各種賞に応募するために用意した作品。

ジャンル:ファンタジー
世界観:近代以前の欧州風(具体的な時代設定は明言しない)。魔界、天界、魔法などの要素はあるものの、ファンタジー色は控えめ。
作品傾向:シリアス。登場人物の関係性を主軸にオーソドックスな要素を組み合わせて構築。
字数:10万字程度を予定


登場人物

マーティ・ハガード(18) 便利屋、元孤児
セレナ・ウィリアムズ(18) ウィリアムズ王国現第二王女
ジョニー・ダグラス(18) 薬剤師、元孤児

フレデリック・ウィリアムズ二世(55) ウィリアムズ王国現国王
メアリー・ウィリアムズ(3年前に死亡、享年47) ウィリアムズ王国第一王妃、皇太子と第一王女とセレナを生む
ドウェイン・ウォーカー(52) ウィリアムズ王国現宰相

テイラー(62) 王国の老兵、マーティとセレナの剣術の師
ラリー(20) 王都の城門を守る門番、元孤児
ダンカン(58) 金持ちの材木屋


本編


○導入

天界、人界、魔界の様相

ナレーション
「遥か昔。魔界の軍勢が突如人界に攻め入り、人類は滅亡の危機に陥った」
「世界の裁定者を自負する天界人たちはこの有事に際し、魔族に制裁を加えるべく人界へと降り立った」
「人界は戦場となり、いくつもの国が滅び、死屍累々の地獄と化した」

「しかし人間たちは諦めず、天界人と協力し、多くの犠牲を払いながらも魔族との戦いに勝利した

「人間と天界人により魔界と人界を結ぶチャネルはすべて塞がれ、天界人たちは天界に戻り、人類は再び自分たちの歴史を歩むこととなった」

「そうして数百年が過ぎ、人々が魔界のことなど気にもかけなくなったころ。ある男の企てにより、再び人界に異変が起きようとしていた」


○城下町・大通り(夕方)

日暮れ前、帰路に着く人々が通りを歩いている。
マーティ、長剣とメイスを携え、人の流れと逆方向に歩いている。

中年の町人(ジェイムズ)「よう、マーティ。こんな時間にどこ行くんだ? 家はあっちだろ?」

マーティ、立ち止まる。

マーティ「ジェイムズのおっちゃん。これから仕事さ」
ジェイムズ「へぇ、こんな時間から仕事たぁ大変だな。何を頼まれたんだ?」
マーティ「魔物退治さ。最近ダンカンの旦那の林によく出るらしい。なんでかわからねーけど、国が対応してくれないからなんとかしてくれって」
ジェイムズ「ダンカンってあの材木屋のか? 金離れがいいって噂の」
マーティ「ああ、気前のいい人だよ。今回はリスクが高いからって、結構な額を提示してくれたぜ」
ジェイムズ「そりゃよかったな。じゃあ、がんばってな。くれぐれも死なないように」
マーティ「ありがとう。おっちゃんも気をつけなよ。まっすぐ帰んなきゃ、おばさん、おかんむりだぜ」
ジェイムズ「おう、そうだな。早く帰らないと女房にどやされちまう。じゃあな、マーティ」
マーティ「じゃあな、おっちゃん」

ジェイムズ、民家の建ち並ぶ方へ去る。
マーティ、城門の見える方へ歩き出す。


○城門前、内側(夕方)

二人の門番が立っている。
門番A、マーティが歩いてくるのに気付く。

門番A(ラリー)「ようマーティ。どうしたんだ、こんな時間に?」
マーティ「ようラリー。ちょっと魔物退治を頼まれてな」
ラリー「そうか。じゃあ許可証を」
マーティ「わかった」

マーティ、腰に携えた鞄からカードを出してラリーに見せる。

ラリー「よし。夜番に伝えておくから、零時を回る前には戻って来いよ」
マーティ「ああ、わかった」

ラリー、城壁の上にいる兵士に合図する。
城門が開く。

マーティ、城門を出ようとする。

ラリー「そうだ、マーティ」

マーティ、振り返る。

ラリー「原因はわからないが最近魔物の活動が活発化してる。危険を感じたら迷わず逃げろよ。金で命は買えないからな」
マーティ「オーケー。忠告ありがとうな。まあ、無茶はしないから大丈夫だ」
ラリー「ああ、気をつけて行ってこい」

マーティ、城門の外へ出る。

マーティ、モノローグ(そういやダンカンの旦那も言ってたな。急に魔物が増えだしたって。悪いことの予兆じゃなきゃいいが)


○林の中(夜)

マーティ、ランタンを片手に林道を進む。

マーティ、モノローグ(今のところ目立った気配はなしか)

脇にある茂みでかさかさと音が鳴る。
マーティ、音のした方を向いて身構える。

マーティ、モノローグ(来るか!?)

茂みから野うさぎが顔を出す。

マーティ「なんだ、うさぎか」

うさぎの背後の林がざわめきだす。
身の丈3メートルのオーク、木をへし折って姿を現す。

マーティ「なに!」
オーク「うがあああああ!」

オーク、腕を振り上げ、マーティの頭めがけて振り下ろす。
マーティ、右に飛んで避ける。

マーティ「でけぇ! こんな奴、見たことねぇぞ!」

オーク、近くの岩を両手で持ち上げて頭上に上げる。

オーク「うごおおおおお!」
マーティ「ヤバい!」

オーク、マーティめがけて岩を投げつける。
マーティ、左に飛んで避ける。

マーティ「危ねえ。……だが動きは単純だ。避けて反撃すれば勝てる」
オーク「うがあああああ!」

オーク、再び岩を持ち上げ、マーティめがけて投げつける。
マーティ、斜め右前方に飛んでオークの懐に入り、長剣を抜く。
すぐに刃先をオークの首筋に突き刺す。

オーク「ぎゃあああああ!」

マーティ、返り血を飛び避けてオークから離れる。
オーク、前方に倒れて動かなくなる。

マーティ「よし! やった!」

マーティ、少し離れたところに先程の野うさぎがいるのを確認する。

マーティ、モノローグ(この野うさぎもだが、魔物が増えたわりに動物たちが林から逃げていない。人間だけを狙ってるのか?)

マーティ「やっぱり妙だな。今日はいったん戻ってダンカンの旦那に報告するか」

マーティ、来た道を引き返す。


○ダンカンの屋敷の外(朝)

ナレーション「翌日」

屋敷の入り口の前に立つマーティ。

マーティ「ダンカンの旦那ー! 俺だ! マーティだ!」
ダンカン「おお! マーティ! いま行く!」

 *   *   *

ダンカン、玄関を開けて現れる。

ダンカン「おはようマーティ。よく来たな。魔物退治は上手く行ったか?」
マーティ「そのことなんだけどよ、ちょっと話があるんだ」
ダンカン「なんだ。何か問題でもあったのか?」
マーティ「そうだな。ちょっとここじゃ話しにくい」
ダンカン「そうか。じゃあ中に入りなさい」
マーティ「ああ。お邪魔するぜ」


○ダンカンの屋敷の中、応接間

マーティ、ダンカン、応接間の椅子に腰掛けている。

ダンカン「なるほど。魔物が妙に強く、意識的に人間を襲っているように見えたとな」
マーティ「そうなんだ。あんな大型の魔物が出るのも珍しいし、やっぱりお上にお願いした方がいいと思う」
ダンカン「うむ、そうだな。凶事の前触れなら国に対処してもらうのが適切だろう。ただ……」
マーティ「ただ?」
ダンカン「新たに宰相になったドウェインを知っているだろう。ドウェイン・ウォーカー」
マーティ「あの何を考えてるかわからない元官僚のか?」
ダンカン「そうだ。気のせいかもしれないが、奴が宰相になってから急に魔物が増えだしたんだ。それでうちの従業員にけが人が出て、このままではいつ死人が出るかわからないからと国に助けを求めたんだが……」
マーティ「にべもなく突っぱねられたわけか」
ダンカン「そうだ。国は調査すらしたくない様子だった。それでお前に頼んだんだが、すまなかった。そんな大型の魔物が出た例はなかったから、お前ならいけるだろうと思ったんだ」
マーティ「いいさ。そんなことより、その感じだとまた断られそうだな」
ダンカン「おそらくな。まあ仕方ない。どのみちお前で無理なら国に頼むしかない。もう一度かけ合ってみるよ」

ダンカン、席を立ち、ドアの方へ歩く。

ダンカン「依頼は未完了だが報酬は支払おう」
マーティ「いいよ、オーク一匹倒しただけだし。またいい仕事を振ってくれれば十分だ」
ダンカン「危険な目に遭わせたのだから、そういうわけにも行くまい」
マーティ「じゃあ三割だ。それ以上はもらわないぜ」
ダンカン「仕方ないな。まあこっちは助かるが」

ダンカン、部屋を出ていく。

マーティ、モノローグ(ドウェインか。確かに怪しい奴だよな。……セレナは大丈夫かな?)


○王宮内、廊下(朝)

不機嫌そうな顔をしたセレナ王女と、困り顔の侍従と、近衛兵二人が歩いている。

セレナ「まったくもう、来る日も来る日も会食、会食、パーティ、会食……。食事ぐらい周りを気にせず落ち着いて食べたいわ」
侍従「殿下、お気持ち、お察し申し上げます」
セレナ「そう言って、結局私の言い分なんて聞いてくれないじゃない。今夜もよくわからない貴族と会食でしょう?」
侍従「よくわからないなどと、そのようなことを申されては困ります。社交界での殿下の評判は国王陛下の立場にも影響しますゆえ」
セレナ「そんなことわかってるわよ。わかってるから従ってるんでしょう? 愚痴ぐらい言わせてよね」
侍従「はい、申し訳ございません」

セレナ、何かを閃いた様子で、笑顔になって侍従の方を振り返る。

セレナ「そうだわ、テイラーはどうしてる? 明日は予定もないし、気分転換に付き合ってもらえないかしら?」
侍従「テイラー殿でしたら、明日の午後は時間を作れるはずですが……」
セレナ「ですが……なに?」

セレナ、不機嫌な顔になる。

侍従「いえ、その……。殿下は近い将来ご結婚されるわけですから、もう少し女性らしいご趣味を嗜まれたほうが、国王陛下もお喜びになるかと……」
セレナ「王女が剣術を嗜んで何が悪いの? いざというとき戦力になった方が足手まといになるよりいいじゃない。それに私の魔法剣の腕前はあなたも知ってるでしょう?」
侍従「ええ、ええ、存じておりますとも。ですが……」
セレナ「じゃあテイラーに明日の午後都合をつけられないか聞いてきて。たまに稽古を受けなきゃ腕がなまるわ。これは命令よ」
侍従「はは、かしこまりました」

侍従、速やかにその場を去る。


○王宮内、稽古場(昼)

ナレーション「翌日」

セレナ、テイラー、侍従、数名の近衛兵が稽古場に集まる。

セレナ「さあテイラー、稽古をつけてちょうだい」
テイラー「いやはや、姫様のお転婆ぶりは困ったものですなあ」

セレナ、テイラー、嬉しそうな顔をする。

侍従「殿下、くれぐれもお怪我のないよう」
セレナ「もう、わかってるわよ。ちゃんと防具を付けてるし、模造刀なんだから大丈夫よ」

セレナとテイラー、稽古場の中心に立って構える。

テイラー「では姫様、まずは打ち込みからいきましょう。いつも通り全力でお願いします」
セレナ「わかったわ」

テイラー、頭を守る形で頭上に剣を挙げる。
セレナ、剣を縦に振り下ろす。
テイラー、剣の鍔《つば》でそれを止める。

両者、位置を変えながらしばらく打ち込みを続ける。

近衛兵A「殿下の太刀筋のしなやかさ、速さもさることながら、テイラー殿のぶれのなさもただ事ではないな」
近衛兵B「ああ。我々もこの機会に見て学ばねばな」

 *   *   *

テイラー「いいでしょう。次は掛かり稽古に移りましょう。お好きなところに打ち込んでください」
セレナ「ええ。じゃあいくわよ!」

セレナ、袈裟斬りの形で剣を振り下ろす。
テイラー、それを剣で受けつついなす。

セレナ、打ち込みを続ける。
テイラー、それを防御し続ける。

 *   *   *

セレナ「隙あり!」

セレナの模造刀がテイラーの肩当てに当たる。
セレナ、テイラー、構えを解く。

テイラー「お見事です、姫様。強くなられましたな」
セレナ「いいえ、まだまだよ。模擬戦ではあなたに勝てないもの」
テイラー「しかし確実に成長しておりますから、じきにこの老いぼれを抜くことでしょう」
セレナ「もちろん、そのつもりよ」

セレナ、テイラー、お互いに笑みを浮かべる。

テイラー「では、少し休んでからひと勝負いきましょうか」
セレナ「ええ、そうしましょう」


○稽古場の隅

セレナ、テイラー、近衛兵たちから離れて話す。

セレナ「やっぱり、ストレス発散には身体を動かすのが一番ね」
テイラー「今は亡き皇后陛下も病に倒れられる前は常に動いておられました。姫様はそれをよく受け継いでおりますな」
セレナ「そうかもしれないわね。お母様は病床に伏せられてからも快活な人だった。マーティたちと仲良くなれたのも、お母様のお許しがあったから……」

セレナ、寂しそうな顔をする。

テイラー「マーティのことが気になりますかな?」
セレナ「うん、少し」

セレナ、ややうつむく。

ナレーション「十三年前。まだ幼かったセレナは、王立孤児院で歳の近い子どもたちが遊んでいるのを見て、自分も加わりたいとダダをこねた。そこにいたのがマーティだった」


○回想、孤児院の外の高台(昼)

セレナ、国王フレデリック、王妃メアリーと、テイラーを含む近衛兵数名

セレナ(5)「パパ! セレナもあの子たちとあそびたい!」
フレデリック「セレナよ、あの子たちは皆いい子だが一緒に遊ぶことはできない。お前は特別なのだ。それに歳の近い遊び相手ならちゃんといるじゃないか」
セレナ(5)「やだやだ! いっしょにあそびたい! セレナもお外で走ったりどろんここねたりしたいー!」
フレデリック「走るなら貴族のお友達と大広間で好きなだけ走って良いのだぞ。どろんこだってお前専用の大きな砂場を作ってやろう」
セレナ(5)「やだやだ! あの子たちとあそぶの!」
フレデリック「うーん、困った子だ」

フレデリック、腕を組んで困り顔をする。
メアリー、それを見て笑う。

メアリー「ふふふ」
フレデリック「何がおかしい?」
メアリー「いいじゃないですか? 孤児たちと遊ぶくらい。それに身分の低い子とも別け隔てなく遊ぶお姫様なんて、素敵じゃありませんか」
フレデリック「簡単に言ってくれるじゃないか。世間に知られたらどうするのだ」
メアリー「大丈夫ですわ。私も子どものころ、屋敷を抜け出して城下町に遊びに行っては、お父様に叱られていましたし。それはあなたもご存知ですわよね?」
フレデリック「頭の痛い話だ……。血は争えぬと申すか」
メアリー「その通りでございます」

フレデリック、頭を抱え大きなため息をつく。
メアリー、ますます楽しそうに笑う。

セレナ(5)「ねーパパー。いいでしょー」
フレデリック「……テイラー」
テイラー「はっ!」
フレデリック「お前、娘が三人とも嫁いで寂しかろう。セレナの守役となって、あの子たちと遊ぶのを見守るがよい」
テイラー「私が……でありますか?」
フレデリック「そうだ。ついでに孤児の男子たちに剣術でも教えてやれ。将来、我が国を守る立派な兵士になるやもしれん」
テイラー「はっ! 仰せのままに!」
セレナ(5)「やったー! セレナもチャンバラごっこするー!」
フレデリック「こらこら。チャンバラは男子の遊びなのだぞ。もっと女の子らしい遊びをだな……」

セレナ、テイラーの足にしがみつく。

セレナ(5)「やだ。セレナにもチャンバラ教えてくれないと、テイラーの足、放さない」

テイラー、苦笑いする。
フレデリック、空を見上げてうなだれる。
メアリー、それを見て笑いをこらえる。

フレデリック「わかった! わかった! ただし、怪我をしないよう万全を期すのだぞ」
セレナ(5)「やったー!」

 *   *   *


◯回想、孤児院の広間(昼)

孤児院の先生(男)とテイラーとセレナが、マーティたち孤児の前に立っている。

先生「え、えー。そういうわけで、セレナ王女殿下がー、そのー、みなさんとお友だちになりたいと仰っています。えー、みなさん、仲良くしてくださいね」

孤児たち、きょとんとした顔で黙る。

セレナ(5)「わたしのなまえはセレナ! セレナ・ウィリアムズよ! よろしくね!」

孤児たち、ひそひそ話を始める。

孤児男A(おうじょだってよ。どうする?)
孤児男B(おうじょさまって、えらい人だよね? えらい人にはけーごで話さないといけないって先生いってた)
孤児男A(けーごって、先生がいましゃべってたみたいな? おれわかんないぞ)
孤児男C(そんなことより、おひめさまにしつれーなことすると、くびをきられちゃうんだぞ)
孤児男A、B((ひえええ))

孤児女A(おうじょって、おひめさまでしょ?)
孤児女B(そーなの!? あたしもおひめさまになりたい!)
孤児女A(むりだよ、おひめさまはとくべつなんだもん)

セレナ、孤児たちの様子を見てしょんぼりする。
そこにマーティが駆け寄る。
先生、マーティを見て冷や汗をかく。

マーティ(5)「おれ、マーティ! よろしくな!」

マーティ、手を差し出す。
セレナ、目を丸くしてマーティの顔を見る。

セレナ(5)「うん! よろしく、マーティ!」

セレナ、笑顔でマーティと握手する。

テイラー、モノローグ(ほほう、この物怖じしない態度。子どもだからというのもあるだろうが、なかなか見どころがありそうだな)

テイラー、しゃがんでマーティを見る。

テイラー「マーティ君と言ったね」
マーティ(5)「うん。おじさんだれ?」
テイラー「おじさんは姫様をお守りする騎士の一人。そしてこれから君たちにチャンバラを教える先生だよ」
マーティ(5)「おじさんきしなの!? すげー! おれもきしになりたい!」
テイラー「そうかそうか。なら強くて賢くて、人に好かれる男になりなさい」
マーティ(5)「うん、なる!」

テイラー、笑顔でマーティの頭をなでる。
そこにマーティの友だち、ジョニーが駆け寄る。

ジョニー(5)「おじさん、マーティはつよいよ。チャンバラでマーティにかてる子なんて、ラリーお兄ちゃんくらいしかいないんだ」
テイラー「へえ、それは凄いねえ」

ジョニー、セレナに近づく。

ジョニー(5)「ぼくはジョニー。こいつの友だちさ。力は負けるけどぼくのほうがかしこいんだ」
マーティ(5)「ジョニーはものしりなんだぜ。こないだだって、わなをつくってカブトムシを三匹もつかまえたんだ」
セレナ(5)「そうなの? よくわかんないけど。よろしくね、ジョニー!」

 *   *   * 回想終わり

○稽古場の隅

セレナ「マーティとジョニーがいたから、私はみんなと仲良くなれた」
テイラー「そうでしょうな」
セレナ「なのに私、お礼も言えないままで……」
テイラー「姫様……」
セレナ「身分が違うんだもの、いずれ会えなくなるのは私も途中からわかってた。けれど、あんな後味の悪い別れ方になるなんて思ってなくて……」
テイラー「マーティもきっと同じ気持ちでしょう。心根の優しい男ですから、酷いことを言ってしまったと後悔しているに違いありません」
セレナ「うん……」
テイラー「姫様さえよろしければ、私が師の立場からお二人の仲を取り持つこともできますが」

セレナ、テイラーの顔を見る。

セレナ「だめよ! 私があなたを通してマーティを呼びつけたら、立場の差が余計はっきりしてしまうわ」
テイラー「ええ、わかっております。しかし差し出がましいかもしれませんが、それでも早めにわだかまりをなくした方が、今後のためにもよいのではないでしょうか」

セレナ、再びうつむく。

セレナ「わかってる。私もじき、お姉様と同じように隣国に嫁ぐことになるだろうし、未練を残したらいけない」
テイラー「ええ、その通りです」
セレナ「マーティのことも、ちゃんと区切りを付けないと」
テイラー「本当は政略結婚などしたくないのでしょう。誰だって、意に反する相手と結婚などしたくはありませんから」

セレナ、驚いた顔でテイラーを見る。

セレナ「いいのテイラー? 誰かに聞かれたら、いくら功臣のあなたでも野に下ることになるわよ?」
テイラー「誰も聞いてはいませんし、私をお呼びになったのも他の者には話せないからでしょう? そんなことをすれば、たちまち陛下のお耳に届きますから」
セレナ「すべてお見通しなのね」
テイラー「長年、姫様の守役をしてまいりましたからな」
セレナ「王の娘である以上、政略結婚は当たり前のこと。国民の税金で暮らしている身なのだから、国の平和と繁栄のために身を捧げるのは当然」
テイラー「仰る通りです」
セレナ「それはそれで、もう受け入れたわ。ただ、嫁ぐ前にマーティに一言お別れの挨拶がしたい」
テイラー「ええ、そうでしょう」

 *   *   *

セレナ「テイラー、やっぱり手伝って。マーティにもう一度会わないと」
テイラー「かしこまりました。建国記念日までは何かとお忙しいでしょうから、翌週以降で調整いたします」
セレナ「ええ、お願い」
テイラー「では段取りは私にお任せいただくとして、そろそろ稽古に戻りましょうか」
セレナ「ええ、そうしましょう。今日こそあなたを負かしてやるわ」
テイラー「では私も失礼がないよう、本気でいかせていただきます」

セレナ、テイラー、稽古場の中心に戻る。

テイラー、モノローグ(気になるのはドウェイン・ウォーカー。あの男、建国記念日に問題など起こさぬとは思うが、警戒を怠らぬようにせねば……)


第二話

第三話


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