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弾力とゴム

弾力とは?
強く押しても元の形に戻ることや、
一定の高さから落として弾む物体が思い浮かびますね。
なんとなくイメージは出来ますが、具体的にはどういうことでしょうか?

「外力が加わって変形した物体が、もとの形に戻ろうとする力。」
引用元:デジタル大辞泉

最もシンプルで分かり易い定義ですね。

「弾性体がもっている、ひずみを与える外力をはね返そうとする力。」
引用元:Oxford Languages

こちらの方がより厳密ですが、専門的ですね。

「弾性(だんせい、英: elasticity)とは、応力を加えるとひずみが生じるが、除荷すれば元の寸法に戻る性質をいう」
引用元:Wikipedia

少し表現が違いますが、Oxford Languagesと同じことを言っています。
ちなみに、弾性と弾力は同じものと考えて差し支えありません
むしろ、専門的には弾性と呼ぶのが一般的ですね。
弾性を持つ物質のことを弾性体と呼びます。

気体や液体に弾性がないわけではありませんが、一般的には固体に対して使われます

弾性(弾力)の説明に出てきた応力とは、物体の内部に生じる力のことです。
そして「ひずみ」とは、物体の変形度合いのことです。
*応力とひずみは、分野によって意味が異なります。
本記事の説明は、弾性体に関するものです。

弾性にはエネルギー弾性エントロピー弾性があり、
天然ゴムはエントロピー弾性を示します。
エントロピー弾性とは、外から加えられた力によって規則正しく並んだ分子が、乱雑な状態に戻ろうとする性質です。
輪ゴムを引っ張ると、ゴムを構成する分子鎖は引っ張った方向に伸びて配列します。
しかし、元の乱雑な状態に戻ろうとします。乱雑な状態の方が安定だからです。
そのため、天然ゴムは引っ張っても元の長さに戻るわけです。
熱力学におけるエントロピー増大則によるものですね。

一方、エネルギー弾性は、外から加えられた力により、分子間の距離や角度などが変化し、そのため分子が元に戻ろうとする性質のことです。
エントロピー弾性とは全く違うものです。
一般的に、エネルギー弾性は硬い物質。
エントロピー弾性は柔らかい物質に見られます。
そして、両方の性質を持っていることが多いです。
大きく伸縮する弾性体は、ほぼエントロピー弾性だと思って間違いありません。

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実は、輪ゴムを使ってエントロピーの変化を体感することが出来ます。
輪ゴムを引っ張ると熱が放出されてエントロピーは小さくなります。

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一方、引っ張るのをやめると元の状態に戻り、周囲の熱を吸収してエントロピーは大きくなります。。
つまり、輪ゴムを手の甲やほっぺたなどにあてると、引っ張ったときは放出された熱で温かく、元に戻したときは熱が奪われて冷たく感じるんです。
ただし、輪ゴムの温度変化は僅かなため、細い輪ゴム一つだと分り難いです。出来る限り太い輪ゴムが良いです。
唇が一番温度を感じやすいので、抵抗が無い方は唇に輪ゴムをあててみて下さい。

エントロピーを一言で表すのは難しく、熱力学においては、「乱雑さの度合い」と表現されることが多いです。
輪ゴムの場合、自由度で表現することもできます。
輪ゴムはイソプレンを橋架けした高分子です。

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通常、高分子の網目は乱雑な状態で、自由に動くことが出来ます。
ところが、引っ張ると高分子の網目は引き伸ばされ、動けなくなります。
自由度が大幅に減少するわけです。
元の状態に戻すと再び自由に動ける状態になります。
私たちと同じで、束縛された不自由な状態を嫌うので、力を加えて伸ばしても直ぐに元に戻るんですねw

ゲルはどうでしょうか?
ゲルはゴム弾性と同じだと考えられてきましたが、
数年前にそうではないことが判明しました。
詳しくは過去記事で解説しています(*有料記事です)。

ただ、ゴム弾性に似通った性質を持っているのは間違いありません。
ゲルもある程度エントロピー弾性に従っていると考えて差支えありません。
ただ、ゲルは水などの溶媒を含んでいるため、柔らかくて弾むゲルを作るのはゴムより難しいです。

もちろん、柔らかくて大きく伸縮するゲルは存在します。
ここでは、一般的に入手可能なもので、それなりに弾んで柔らかいゲルを作ってみます。
作り方は、蒟蒻粉とカラギーナンを1: 1.5の比率で熱湯に溶かし、冷やすだけです。
濃度は約1.2%です。
シンプルですが、綺麗に溶かすのが難しいため、簡単ではありません。
最初に砂糖を少量、熱湯に溶かしておくと粉のカタマリが出来難く、比較的溶かし易くなります。
ただ、砂糖を入れるとベタベタしたゲルになります...

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出来たゲルは弾力があり、変形させても元に戻ります。
そして、そこそこ弾みます。
こんにゃくよりも気持ち弾むくらいですね。
ただ、こちらの方が透明で(砂糖を使わなければ)滑らかなため、触り心地は良いですね。

強固で柔軟なネットワークで出来ていることはもちろんですが、
ゲル化させる水溶液の濃度も重要です。
あまりにも薄いと柔らかすぎたり、ゲル化しなかったりします。
かと言って、濃すぎると硬くて脆いゲルになり、溶け残りも発生します。
この辺りは使う材料によって異なります。

柔らかく、よく弾むゲルを作るなら、やはり化学合成で精密に網目構造をデザインする必要がありますね。
ちなみに、吸水ポリマー(高吸水性樹脂)はそこそこ弾みますが、硬くて脆いので柔らかさはありません。

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指で強く押しただけでボロボロに崩れてしまいます。
でも、単に弾むゲルなら、吸水ポリマーで十分ですね。

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