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化学ニュースピックアップ Vol.9 ~海のごみ問題とマイクロプラスチック~

(前半無料です)海洋汚染の主因の一つであるプラスチックごみ。
中でも、マイクロプラスチックと呼ばれる微細なプラスチック片が、海洋生物に悪影響を及ぼしているのではないかとされ、問題となっています。
しかし、世間で騒がれているほど、マイクロプラスチック問題は単純ではありません。
高分子化学の観点から見ると、マイクロプラスチックには不明点もあり、より詳細な調査が必要だと言えます。

マイクロプラスチックとリサイクル

プラスチックは、加熱して成型加工できる樹脂の事を指します。
ポリエチレン(PE)やポリプロピレン(PP)がそうですね。
以前から、大きなプラスチック片を誤食した海鳥の死亡などが問題とされていましたが、ここ数年、5mm以下の微細になったプラスチック片が頻繁に取り上げられるようになりました。
レジ袋や食品保存容器などに使われるポリエチレンやポリプロピレンは、紫外線や気温の変化などで劣化し、波にもまれる・海岸や岸壁にぶつかることで粉々になります(砂との摩擦もある)。海洋生物や鳥が食いつくことも原因の一つと考えられます。
そういった要因により粉々になり、細かいプラスチック片になります。

やっかいなのがタバコの吸い殻です。
海岸に捨てられるプラスチックゴミの中で最も多いのがタバコで、大きな問題になっています。

タバコのフィルターにはセルロースアセテートという樹脂が使われており、この樹脂の繊維が海に流出し、マイクロプラスチックとなります
しかも、側溝や道端に捨てられた吸い殻も雨で流され、川や海に流出します。プラスチックの繊維だけでなく、タバコに含まれる有害物質も流出するんです。
ストローやプラカップ、ポリ袋などのごみを削減しても、タバコを放置していれば何も解決しません。
タバコは有害物質を含んだプラスチックごみであることを、広く周知する必要があると思います。

全世界で廃棄されるプラスチックは年間3千万トンで、そのうち100~200万トンが海洋流出していると試算されています。
そして、海に漂流するゴミの約7割がプラスチックごみと言われています(参考資料
 ・東京都環境局「プラスチックと海洋汚染」
 ・函館市HP:https://www.city.hakodate.hokkaido.jp/docs/2020022000015/
 ・日本財団HP:https://www.nippon-foundation.or.jp/journal/2020/43293


分解し難いものは長期間漂流を続けることになり、ごみの削減だけでなく、回収も課題になっています。
ちなみに、プラスチックごみは軽いために遠くまで運ばれやすく、人の生活圏から遠く離れた北極海や南極海でも大量のごみが確認されています
世界中に流出したプラスチックごみが漂っているんです。

では、リサイクルはどうかというと、ほとんどのプラごみはリサイクルが困難です。
例えば、ポリエチレンとポリプロピレン、PETなど、異種の高分子を均一に混ぜるのは容易ではなく、混ぜて再利用できたとしても、強度などが著しく低下します。
そして、僅かな汚れが障害になるため、綺麗に洗浄する必要があります。
樹脂を種類毎に完全に分別し、洗浄・乾燥するのには膨大なコストと時間を要し、現実的ではありません。
焼却時の燃料として使うのが一番合理的になります。
PETボトルはPETのみで回収され、多くの人が洗って出しているからリサイクル出来ているんです。もとより、あまり汚れないので洗浄し易いんですよね。

大切なのは3Rです。
Reduce(リデュース)、Reuse(リユース)、Recycle(リサイクル)
基本はリデュース(ごみの削減・ごみを出さない)です。
修理をしながら長く使う、シェアやレンタルを利用する、簡易包装のものを購入するなどが考えられます。
その次がリユース、再利用ですね。
フリーマーケットなどで必要な人に渡したり、部品の再利用をしたりと、やり方は色々あります。
リサイクルは3番手です。しかも、必ずしもリサイクル出来るとは限りません。
私たちが心掛けるのは、リデュースとリユースなんです。

今回は、マイクロプラスチックの実態について詳細に解説します。

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