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誰に頼まれた訳でもなく、怪談話どうでしょう

夏といえば「怪談話の一つでも持ちたい」と、よく思う。披露する場なんて特にないけれど、もしその出番が来た時、何も話せなかったら嫌なのだ。

もちろん、怪談話をするなら「私が高校生の頃、家族で海に行った時の事なんだけどね・・・」と、実体験を話したい。そう思って、ある夜の出来事に思いを馳せる。

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小学生の私は、ホラーに貪欲だった。
2カ月に一度通っていた床屋(田舎だから美容室との違いなど知らず赤と白と青のグルグルが回るザ・床屋に通っていた)には、「地獄先生ぬ〜べ〜」が全巻揃っている。毎回、髪を切った後に居残ってまで読みふけり、当然私の左手はいつも疼いていた。さらに、当時テレビアニメ「学校の階段」が放送していたこともあり、ホラーに夢中なのは最早私だけではなかった。

そんなある夏、祭の夜の出来事だ。

酒を囲んでどんちゃん騒ぎをしている大人たちを傍目に、子供は子供で大いに遊び狂っていた。一通りの遊びに飽きた頃、誰が言い出したかは覚えていないが、私たちは肝試しを始めた。

ルールは、2人1組で学校の周りを一周して帰ってくるだけ。自然発生のホラーに期待を寄せる、非常にシンプルな肝試しだ。

ペアを決めるクジを引いている時、
「わ〜、みほちゃんと一緒だ〜」
なんて、色気付いている子もいたが、ホラーに貪欲な私は真剣そのものだった。初めての恋よりも初めての恐怖体験を待ち望み、高鳴る胸はそのときめきを隠せない。

さて、そんな私は一つ歳下だけどスラッと背の高い、ゆうちゃんという女の子とペアになった。私たちは、暗くてジメッとしているだけの学校の周りを歩き進める。膨らむ期待に反し、当たり前に何事もないまま、みんなの待つ校門まであと100メートルほど。

「何にもなかったね〜」
「ぜんぜん怖くなかった〜」

なんて、お互いの勇敢ぶりを称え合っていたのも束の間、背後から「ガサガサッ」という、いかにも何かが飛び出してくる音が聞こえた。

ついさっきまで勇敢だった私たちは、お互いの腕をがっしりと掴む。せーので音の正体を確認すると、何かがうごめいている。

「い、、、いやーーーーーー!!!」

私はゆうちゃんのことなど構わず、ギャン泣きで走り出す。当然ゆうちゃんも走る。

100メートル走の自己新記録を更新する勢いで走り抜け、校門で待つみんなに危険を知らせる。その日私は全身全霊をかけて走ることが、何よりも速く走る秘訣なのだと知った。

さて、明かりが灯る校門付近までくると、正体は坂ノ下のおばちゃん家で飼っている芝犬の「もっさん」だと分かった。ホッとしたような、がっかりしたような。

泣きながら走るという失態を恥じた私は、名誉挽回と言わんばかりに「あっちへお行き」と追い払い、今夜のサプライズゲストは退場した。


「おかげで疲れたよ〜」

「もう帰ろ〜」

なんて言いながら、学校を後にしようとする私たちの声に混ざって、

「追い払ってくれてありがとう」

と、見知らぬ声。

誰かがボソッと

「そういえば、そこの花壇のあたりに出るオバケって、犬が苦手なんじゃなかったっけ?」

なんて言う。

「ギャーーーーーーーーーー!!」

私たちは、今度はもっさんを追いかけるようにして走り出したのだった。

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怪談話って、こんな風に誰かがあるようなないような、曖昧なことを言い出して生まれるのかな、なんて。それでもあの時、私たちは大真面目でしたよ。

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