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薄青、薄紫、薄ピンク

一月二十一日(月) 晴れ 南緯六九度、東経四〇度
 今日もご機嫌な空模様。青空と雪原がどこまでも広がって地球の丸さを感じる。内陸からカタバ風が吹き続ける。ドーム隊が使用した橇を整理。橇と雪上車をワイヤーで連結して引っ張り、一定の間隔を橇を並べる。クラクションを三回鳴らして雪上車をバックさせて位置を微調整。
「オーライ! オーライ! オーライ! あと二メートル、あと一メートル、……はいストップ!」合図に合わせて雪上車を移動させる。内陸調査で使用した観測機器を整理して撤収作業は順調に進んだ。
 晩飯を食べながら、ドーム隊の野外観測支援担当である山田さんと雑談した。唐突に言った山田さんの
「俺がやらなきゃ誰がやる、きっと誰かがやるだろう」という言葉が印象的だった。少し話しただけだが、山田さんが無責任な人でないことはわかる。きっと状況が厳しければ厳しいほど率先して働くタイプの人だろう。どんな状況であっても、絶望しない、自分を追い込まない、そんな精神術が過酷な南極で生きていくには必要なのだと思う。山田さんは一年以上賞味期限が切れた缶ビールを飲みまくってべろべろに酩酊しているので、真相は不明だけれども。
 明日はS一六を離れる。私はひとり雪上車の外に出て景色を眺める。沈んでしまいそうな太陽。太陽の反対側の空は水平線から上にいくほど薄い青、薄紫、薄ピンクと色が変わっていく。月が異様に大きい。南極に来て良かった。こんな景色を今後の人生でもう見ることは無いかもしれない。忘れないように目に焼き付ける。もし、もう一度南極に来ることができるなら、今度は越冬したいな。

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