The Shock of the New
一般的な共通認識を作るのは局所的にしか読まれない学術書ではなく、大衆が見るテレビなどのメディアというのは美術史の世界でもおそらく正解かと思われます。ただあまり美術史系テレビドキュメンタリーを知らないので有名なものを紹介いたします。
英米圏で西洋美術史の通史として、ゴンブリッチの書いた『美術の物語』は1950年に出版されて以来、まだ売れて読まれています。それはあまりにも普及したので、一般のレベルでは西洋美術史の正典かのように振る舞うことになります。
ゴンブリッチに負けず劣らず、英米圏の美術史観に影響を与えたものが『The Shock of the New』というはドキュメンタリーテレビシリーズです。1980年に英国BBCで、翌年アメリカのPBSで放映された全8話のドキュメンタリーは大反響をおこしました。
カラー放送の進歩によって、美術をテレビで味わうことができるようになると、美術史のドキュメンタリーが撮られるようになります。これはまさに時代の申し子です。1969年には美術史家ケネス・クラークもやっていますが、古めかしいものです。
ゴンブリッチが古代ギリシャから網羅しているのに対し、こちらは印象派以降と20世紀美術の話になりますが、平気でルネサンス美術などにも飛ぶので単純な時系列で進むものではありません。それができるのもテレビの編集の妙かもしれません。
監修者はオーストラリア出身の美術評論家ロバート・ヒューズ。彼はこの企画によって一躍名を轟かせ、20世紀後半の有名な美術評論家になりましたが、テレビドキュメンタリーという新興の媒体で喋ったり、本人の書き振りが詩的で文学のようだったこともあり、大学にいる美術史家らからは嫌われていたようです。
よくある話ですね。ヒューズの功績はこれとあとはアボリジニのアートを評価して復権させたことが挙げられます。
『The Shock of the New』の成功はまさにヒューズの手によるもので、今でも大変刺激的です。生前の芸術家のインタビューを挿入したり、時間を一旦古代や中世に置いたりと、本では読者が混乱するところをテレビならではのフットワークで鋭く切り込みます。
その新しさがウケたようで、英米の美術に関心のある多くの人が観ており、彼らの20世紀美術史観の根底を形成しているように思います。
なぜかYouTubeに上がっているので、倍速でも流し見でもいいので、チェックしてみてください。
1 機械の楽園 技術の発展が芸術に与えた影響 キュビスムと未来派 最後にデュシャンが出てきます。
2 権力 現代美術と権威の関係 ダダ・構成主義・ナチスやアメリカの現代建築
階級としての亡命者や知識人という観点が貫かれています。
3 喜びの風景 自然と芸術の関係1870〜1950 印象派 ポスト印象派 フォービズム
近代と言っておきながら、ティツィアーノやジョルジョーネ、ロココ絵画から始まっていきます。モネから後期マティスまで。
4ユートピアの問題 アール・ヌーヴォーから現代都市計画 ここでも18世紀フランスの話が出てきますが、シリーズを通じて一番好きなところです。バウハウスやニーマイヤーまで。
5自由の閾値 シュルレアリスムの話ですが1968年の五月革命から遡る形で進みます。
ブルトンからベトナム戦争までてんこ盛り。
6崖からの視点 岩山や内なる精神世界から描いたいわゆる表現主義の面々 ゴッホからロスコまで。ホロコーストの証拠写真もここに出てきます。
7自然としての文化 ポップアートからセレブリティ アンディ・ウォーホルやリキテンシュタインなどアメリカが舞台になります。
8The Future That Was(翻訳うーん) 現代美術が商業主義になってしまったり、もはや作品という形になってない展開に移行して…という締めくくり。ランドアートやインスタレーション系の作家が取り上げられています。
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