アートの楽しみ方をもっと広げたい。「ドローイングTシャツ」の4つの可能性
上野のちいさなギャラリー「藝大アートプラザ」。2022年の空間リニューアルから、まもなく2年になります。
最近はじまった「Tシャツミュージアム」は作家の描いたTシャツを展示販売するプロジェクトですが、一体なぜここにきてTシャツなのか気になり、アートプラザの編集長に話を聞きに行ったところ、トークが止まらなくなってしまったので、noteにまとめてみました。
どうやってアートを楽しんだらよいのだろう?
2年間、アートギャラリーの運営を続けるうちに、編集長が気がついたことがあるそうです。
それは、美術館でアートを見るのは身近なことなのにギャラリーでアートを購入するのは、多くの人にとってハードルが高いということ。たしかにアートと聞くと、少し特別な、遠い世界に感じます。特に作品購入は、一部の知識とお金のある人でないと、踏み込めないような気も。
そしてもうひとつ、日本におけるアートの楽しみ方は、海外から輸入したフォーマットをそのまま提案しているから、なかなか裾野が広がらないのではないのか、ということ。
そもそも明治以前、日本には「ART」の概念がなかった
明治維新で「ART」という概念が輸入される以前、日本の絵画も金工も漆工も、すべてが実用的な装飾物として扱われてきました。
そして時は流れ、現代におけるアートの楽しみ方も、「ART」と同じように海外から輸入した型をそのまま展開しているから、なかなか広がらないのかもしれないと、編集長は考えました。
アートを特別な存在から、日常の中にアートに
日本ならではの、どんな人でも楽しめるアートの楽しみ方ってなんだろう?
これを考えることこそ、アートプラザの使命のひとつかもしれない。そしてその手がかりのひとつが「浮世絵」かもしれない、と編集長は語ります。
江戸時代、浮世絵はアートではなくエンターテインメントのひとつとして、ありとあらゆる階層の人たちが、自由に楽しんでいました。これをヒントに、エンタメや装飾としての楽しみ方、日常の中のアートを、アートプラザで提案してみるのはどうだろうか、と言うのです。
ドローイングTシャツの可能性
そんないきさつで始まったのが、新しいアートの楽しみ方提案である「Tシャツミュージアム」(やっと本題です!)。ここでは常時3〜10人の作家によるドローイングTシャツ(通称:ドロT)を、展示販売しています。
アートというと、大きな部屋でどっしりした椅子に座って、レコードをかけながら壁に展示した作品に酔うような楽しみを想像しますが、Tシャツなら気軽に、自分の生活をちょっと豊かにしてくれる存在になります。
編集長は、このドロTを展示販売することには4つの意味があると言います。
1.アートを購入するハードルを下げる
ドロTなら、1点ものでありながら価格帯も手頃で手に取りやすく、アートの購入に対する意識を変えられそうです。日本の市場では、本作は1度つけた値段から下げられないことが多いですが、ドローイングTシャツであれば、上げ下げも柔軟にできます。
2.Tシャツなら10作品だって所持できる
いくら作品サイズが小さくなったとしても、アートを所有できる数には制限があります。それがTシャツであれば10枚も、15枚も持てます。一人が所持できるアートの数が増えていくという意味でも、ドロTはアートの裾野を広げる力になりそうです。
3.作家の頭の中を、自分のものにできる
「ドローイング」という点も重要です。ドローイング、つまり線画は、ノートやクロッキー帳に作家が四六時中描いているもので、作家の頭の中そのものでもあるのです。つまりドロTを購入することは、作家の頭の中を所有できることでもあるのです。
4.若手アーティストの支援も
ドロTには、もしかするとゴミ箱に捨てられるかもしれなかったアイデアに、価値を与えられる可能性があります。ドロTがこれからどんどん広がるにつれ、若いアーティストたちのちいさな支援にもつながりそうです。
次回予告 謎の単位「BF値」
そんなわけで、Tシャツミュージアムのことを聞くつもりが、日本のアートの楽しみ方提案にまで話が広がってしまった今回。「なぜTシャツなのか」が解き明かされたところで、次回は編集長の気になるツイートについて掘り下げてみたいと思います。
「美しき愚かさ」って一体何……? ちょっぴり怪しげな推進委員会も気になります。次回をお楽しみに。
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