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田中さんと田中君。

会社で名前を呼ばれるときに、だいたいの場合苗字にさんを付けるパターンが多いと思う。
関西では割と職場でも、親しい間の場合、苗字をちゃん付けすることが多く、例えば上司が可愛がっている部下の田中さんを呼ぶときに「田中ちゃん」と呼び、呼ばれる方も自分との信頼関係がすでにあるからそこに異議を唱えず、はいはいとなる。

もちろん上司と部下にも相性はあるので、関係性がそこまでではない場合は「ちゃん付け」などはしない。

ある週のこと、パワハラの相談をしたいと一人の人がやってきた。ハラスメント相談員の担当はすでに終了していたから(社内で教育を受けた人が順番に担当になっていくシステムなので)、
私はその人が話そうとしているのをとどめて、新しい担当者に話すように促すと、いやいやこれはどうしても聞いてほしいといきなり話し始めた。

聞きながら顔の表情は変えていないつもりだったけれど、瞳孔は普段の1.3倍くらいになっていたかと思う。
それは、いわゆるハラスメント相談の内容で言うとトップ10に入るというものではなかった。

彼の訴えは、上司がメールで自分を「君付け」するのが納得いかないということだった。高卒の僕を見下している。話すときに「君」と言われるのも不快感が消えない。上から目線で我慢ならないなどなど。
個人的に「あなた」「君」という呼びかけには好感を持っていたから、その呼びかけに対して
彼が会社に本気で訴えたいという考えを聞いて、本質はそこではないのでしょ?ということは分かった。

そういえば、言葉は違うけれど似たような事例はある。「お前」という単語は小学生時代に同級生の男子がケンカするときに使うかTVや映画で言うものと思っていたけれど、思春期にBFにそう呼ばれてイヤな気はしない、という女性が多いということに違和感があった。
大学生のある日、友人が新しいBFを紹介したいと言われてカフェに行くと、その彼が彼女に話しかけるたびに「お前」と言う単語を使っていて、あまりにも嫌気がして途中で帰ったことがあった。
彼女はその呼び方は親しみがあっていいと言っていたし、こちらがどうこう意見することでないのはわかっていたけれど「お前」と言う呼び方はあまりにも乱暴で、その二人の関係性を如実に表していたと思う。

とまぁ少々脱線したけれど、この自分と相手との関係性次第で言葉の持つ意味や受け止め方は
変化する。

彼が訴えた上司は関東の人だったから、関西ではよくある距離感を見誤った言葉は基本的には全く使わない人だった。
だから、「さん」と「君」の差を意識して意図的に深い嫌がらせとして言っているようには思えなかった。
実際、仕事終わりに一緒に飲みに行っているくらいなので関係性は悪くない、誰もがそう思っていたはず。

ようするに訴えた人は、言葉尻うんぬんではなく、上司のパーソナリティそのものが気に食わなかったのだ。坊主憎けりゃ袈裟まで憎いというもので、彼を悪者にするにはなにか落ち度がないか調べまくったら、このメールの書き方や呼び方がパワハラに値するとの結論に至ったようだった。

検索すると、それはトップに上がってきたからそう思ってる人は意外に多いということなんだろう。

去年からうちの部に来た20代男子に君付けしていたことにふと気付く。信頼関係あると思ってるけど、大丈夫かな。ちょっとドキドキしてきた。

温かいお気持ち、ありがとうございます。 そんな優しい貴方の1日はきっと素敵なものになるでしょう。