【エコーの男】
ホテル勤務時代に同僚の男から聞いた話である。
彼は煙草を喫う男であった。
ある日、いつも喫っている〈マイルドセブン〉を切らしたので、近くの煙草屋に買いに行ったという。当時はまだ結構「煙草屋」が残っていたのだ。
ところが、全くの金欠状態だった彼は、¥150―の〈マイルドセブン〉を買うお金すら持ち合わせていかったので、仕方なく¥70―の〈エコー〉を買うことにしたのであった。
〈エコー〉は、フィルター付き紙巻き煙草の中では、最も安価な20本入りの2級品煙草である。
彼は店番をしているおばさんに言った。
「おばさん、エコーひとつちょうだい」
すると、おばさんが訊き返す・・
「ひとつですぅ❓️」
瞬間ムッ❗️とした彼が返した。
「いけんのん❗️」
・・・・・・・
「いけんのん❗️」は広島弁だ。「ダメなんかい❗️」という意味であり、彼は(エコーひとつじやぁ)「ダメなんかい❗️」と憤慨したのだ。
当時、安物の〈エコー〉を喫うのは高齢者くらいのもので、〈エコー〉を買う時は1カートン単位(10個)で買うのが常識だったのだ。¥70―の〈エコー〉を1個だけ買うなんて恥ずかしいことだったのである。
それもいい若いもんが〈エコー〉ひとつちょうだいなんて有り得ないことだったのだ。
(尚、〈わかば〉〈エコー〉〈ゴールデンバット〉の3銘柄は、2019年10月から1級品の紙巻きタバコと同じ税率になることから、販売が終了した)