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【蒲鉾工の恩返し①】

ある男が蒲鉾かまぼこを製造する会社に勤務していた。ところが、不景気の煽りを喰らって会社が倒産してしまう。

他の従業員が新しい就職口を探して右往左往する中、何をやらせても手のろいその男だけが就職口が見つからないのであった。

困り果てたその男は、ある宗教家の元を訪ねて救いを乞うことにしたのである。

・・・・・・・

男は話し始めた。

「・・あのぉ~・・会社が倒産しました・・」

そして、一部始終を話し終えた後にこう言った。

「先生、私、どうしたらいいんでしょう・・」

「どうしたらいいって・・あんた次の仕事はないのかね❓️」

「ないんです・・どうしたらいいんでしょう」

「どうしたらいいんですって・・私は神様が喜ぶような話しか出来ないよ」

「はぁ・・」

「私がハローワークの担当者のようなことを言うと思ったら大間違い。神様の喜ぶような話しか出来ないよ。それで良かったら言うけどね。あんた、聞いてくれなきゃ困るよ」

「・・・そうですか・・じゃぁ、なんなりと仰って下さい」

「じゃぁ言いましょう・・あなたが今日まで生きてこられたのは会社があったからです。会社があったから、そこへ就職出来た。就職出来たから、チャンとした給料も貰え、仕事を持っているから女房も嫁に来てくれた」

「はぁ・・」

「女房が嫁に来てくれたから子供も授かった。そして、女房子供が路頭に迷わずに、喰うに困らず今日までこれたのは会社のお陰です」

「・・・・・」

「だから、今までの長い間、会社のお陰で女房子供を養えた。こういうふうに考えるとね。会社の恩というものが分かるんですよ」

「・・・・・」

「・・どうかね、新しい就職口が見つかるまで、毎日弁当を持って会社に行って、窓ガラスを拭いて掃き掃除をして、蒲鉾なんかを作る機械はすぐ錆びちゃうから油を差して、そして事務所のテーブルの上を一生懸命に拭いて、そして便所掃除をして、そして帰る。それが、あなたが長年お世話になった会社に対しての、せめてもの恩返しだと思いますから、どうかそう思って、毎日弁当を持って、新しい就職口が見つかるまで、御恩報じだと思ってかよってくれませんか❓️」

「・・・はぁ~~分かりました。仰る通りやらして頂きます」

奥さんにも納得してもらったその男は、毎日会社に行って掃除することを決めたのであった。(つづく)


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