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【ハイフェッツのレコード】

あれは中学生の時だった。

僕には3つ歳上の兄貴がいたのだが、当時の兄貴の彼女が、弟の僕に〈レコード〉をプレゼントしてくれたことがあった。

それは、胡瓜きゅうりのような顔をしたヴァイオリニスト、「ヤッシャ・ハイフェッツ」が弾く「ヴァイオリン曲」が収められた〈LPレコード〉だった。

当時は〈ソノシート〉という、鉛筆でノートに何かを書く時に、紙の下に敷く、下敷きみたいなペラペラのレコードを聴いていた頃で、高価な〈LPレコード〉なんて、中学生の僕に手が届くような代物ではなかった。

現在では、〈レコード〉は愚か、〈カセットテープ〉や、つい数年前までは主流であった〈CD〉までもが、太古の遺物になってしまった感が否めない。技術の進歩は目覚ましいのだ。

ところで、〈レコード〉には〈EP盤〉や〈SP盤〉や〈LP盤〉などの幾つかの種類があったが、LongPlay用の〈LP盤〉は、直径が30cm程の大きな〈レコード〉で、A面とB面とを加えると、クラシック楽曲でも、数曲を収めることが出来た長尺の〈レコード〉である。

そして、貰った〈LPレコード〉には以下の楽曲が収められていた。

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「サラサーテ:チゴイネルワイゼン」

「メンデルスゾーン:ヴァイオリン協奏曲ホ短調」

「チャイコフスキー:ヴァイオリン協奏曲ニ長調」

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僕は、うちにあった安物の〈ステレオプレーヤー〉にそれを掛けては、何度も何度も聴いたものである。そして人の声にも似たような〈ハイフェッツ〉のヴァイオリンの音色に痺れてしまって、当時フルートを齧っていた僕が、弾けもしないくせにヴァイオリンを買って貰ったくらいであった。

そんな訳で、ヴァイオリンの虜になってしまった僕なのである。そして「チゴイネルワイゼン」「メンデルスゾーンの協奏曲」「チャイコフスキーの協奏曲」が大好きになったのだ。

ところが、以後どんな演奏家の「チゴイネルワイゼン」「メンデルスゾーンの協奏曲」「チャイコフスキーの協奏曲」を聴いても、決して満足することがなかったのである。

後になって知ったのだが、〈ヤッシャ・ハイフェッツ〉が如何に偉大なヴァイオリニストであったかということだ。知らなかったとは言え、そんな彼と比較された他のヴァイオリニストは堪ったもんじゃないのである。そりゃ殆んどのヴァイオリニストの演奏がしっくりこなかったのも頷けるというものだ。

あの巨匠、「ダヴィッド・オイストラフ」のヴァイオリンですら違和感を感じたくらいに「ハイフェッツ脳」になっていたのである。

幸か不幸か、僕は初っ端から最高峰のヴァイオリンを聴かされていたのであった。

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(ヤッシャ・ハイフェッツロシア語: Ио́сиф ("Яша") Ру́вимович Хе́йфец, ラテン文字転写: Iosif (Yasha) Ruvimovich Heifetz,リトアニア語: Jascha Heifetzas、1901年2月2日 - 1987年12月10日) は、20世紀を代表するヴァイオリニストであり、「ヴァイオリニストの王」と称された。ジム・ホイル(Jim Hoyle)名義で作曲活動も行っていた。〔Wikipedia〕)

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