【柿】
近所に独り暮らしをしているおばあちゃんがいる。もう80歳を越えているのに大変に元気なおばあちゃんで、毎朝の散歩を欠かしたことがない。
その散歩のコース沿いにはおばあちゃんの友達の家があって、必ず顔を出しては世間話のひとつもして帰るというのが日課になっている。
さて、そのお友達の家の庭には立派な柿ノ木があって、枝々には柿の実がたわわに生っていた。今年は柿の豊作年なのだ。
おばあちゃんはその柿の実を毎朝貰って帰るのだが、独り暮らしのおばあちゃんにはとても食べ切れないということで、ある日、僕の家にお裾分けをして下さったのである。
「沢山の柿をありがとうございます。ウチには3人いますから大丈夫ですよ」
と、そんな社交辞令を言ったのが運の尽きだった。以来、毎日柿を持ってきて下さるようになったのだ。
それが1週間も続いている。3日目からは、枝付きの柿を玄関先に黙って置いて帰られるようになっていた。
毎日の柿攻めに、ウチの中が柿だらけになってしまった。
せっかく善意で持って来て下さるので断ることも難しい。
「もぉ~・・これどうするん?」
大量の柿の前で家内が溜め息をついた。
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