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T-508 ファウンのトルソ

石膏像サイズ: H.101.5×W.68×D.33cm
制作年代  : 紀元前2世紀頃
収蔵美術館 : フィレンツェ・ウフィッツィ美術館
出土地・年 : ローマ 16世紀以前

このトルソは「ガッディのトルソ(Gaddi Torso)」とも呼ばれ、紀元前2世紀頃の古代ギリシャ・ヘレニズム期の作品と推定されています。ダイナミックに躍動する肉体、洗練された筋肉の表現などから、ペルガモン(エーゲ海沿岸のトルコ側にあった都市:古代ギリシャヘレニズム期の紀元前3~2世紀に繁栄した)に由来を持つ彫刻家の作品と推定されています。

過去には、このトルソはサタイア(ギリシャ神話に登場する半人半獣の精霊、ファウン)像の一部であると分析されていましたが、近年の研究ではケンタウロス(同じく神話上の半人半馬の存在)像の一部であるとする説が有力となっています。“後方から拘束されるケンタウロス”という図像は、人間の持つ下劣な性質に対しての文明の支配を象徴しており、ヘレニズム期のギリシャ彫刻には繰り返し登場するテーマです。

このトルソは15世紀にローマで発掘されたとされています。その後、初期ルネサンス期のフィレンツェで活躍した彫刻家ギベルティの所有物となったのち、フィレンツェのガッディ家へ売却され、その名称の由来ともなりました。幸いにも、1778年に神聖ローマ皇帝・トスカーナ大公のレオポルト一世に売却されるまで、このトルソには一切の修復的な作業がおこなわれなかったため、貴重なオリジナル彫像の痕跡が良好に保存される結果となりました。

ヴァティカン美術館収蔵のヴェルヴェデーレのトルソと同様に、このトルソはルネサンス期の芸術家に多大な影響を与えました。ボローニャの画家Amico Aspertiniの描いた「羊飼いの礼拝(Adoration of the Shepherds 1515)」では異教徒(キリスト世界に対しての意:古代ギリシャ・ローマ文明を指す)の残した廃墟の一部としてこのトルソが描きこまれていますし、Rosso Fiolrentino作「キリスト降架(Deposition of the Dead Christ)」では、キリストの肉体表現にあきらかにこのトルソからの影響が見て取ることができます。

ウィーン美術史美術館収蔵 「ケンタウロスのトルソ」 ガッディのトルソとの共通点が読み取れる (写真はWikimedia commonsより)


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