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山水郷チャンネル #09 ゲスト:加藤紗栄さん(岩手県西和賀町/ユキノチカラプロジェクトブランドマネージャー)[前編]

第9回目のゲストは、加藤紗栄さんです。

Profile: 加藤紗栄 岩手県西和賀町/ユキノチカラプロジェクトブランドマネージャー
1977年東京生まれ。日本デザイン振興会にてグッドデザイン賞事務局や広報を担当ののち、国内地域振興事業を担当。東日本大震災被災地域の経済と産業の復興を応援する「復興支援デザインセンター」、中小企業とデザイナーのマッチング事業「東京ビジネスデザインアワード」、デザインを活用した全国の地域活動をリサーチし紹介する「地域×デザイン展」などの企画運営をおこなう。2015年から開始した地域ブランドづくり「ユキノチカラ」プロジェクトをきっかけに岩手県西和賀町を訪れ、仕事で通ううち沼にハマる。
2018年に振興会退職後、出産を経て、2019年4月に岩手県西和賀町へ移住。産休明けの今年5月よりユキノチカラプロジェクト事務局に復帰。

東京で生まれ育ち、デザイン振興会での仕事をきっかけに東北と出会い、岩手県西和賀町へと移住された加藤さん。
前編では、ユキノチカラプロジェクトが始まるまでのお話を中心に聞いていきます。

「地域とデザイン」に取り組むきっかけ

私は日本デザイン振興会に17年間勤務していたのですが、後半は国内の地域振興の仕事をしていて、きっかけは2011年の東日本大震災だったんです。
“グッドデザイン賞で東北の被災地域の経済と産業を応援しよう“という取り組みのなかで、グッドデザイン賞に、東北の良い物を応募して受賞してもらう事でプロモーションをしていこうという事業を担当していたんですね。
それで私は初めて東北に足を踏み入れまして、そこでまず東北の人と景色とお
酒にハマりました。
東北全県をまわっていたんですけれども、秋田に行けば曲げわっぱの職人さんと話してその後は飲み会。そこでいろんな話を聞いたり、昔からの親戚のおじさんみたいにいろいろ心配してくれて。作っているものも本当に素晴らしいんですけれども、人も素晴らしくて。
私は東京生まれでずっと東京にいたんですけれども、東北地方に行くとこれまで感じなかったような懐かしさみたいなものを感じて、私のふるさとを見つけたような気持ちが徐々に募ってきました。
地域で活動している人達とお話をしていく中で、自分もこれまでの経験をいかして地域社会のために役立つような仕事がしたいと考え、今西和賀に根付いているんじゃないかなと思っています。


ユキノチカラプロジェクトまでの道のり

日本デザイン振興会では2011年の東北の地域振興の事業と同時に、東京の町工場の技術とデザイナーをマッチングして、新しい商品やビジネスの開発を支援する”東京ビジネスデザインアワード”という事業を担当していました。その中で課題に感じていたのは、良い技術があって、良いデザインとアイデアがあって、とても良いマッチングなのに商品化が成立しない事がとても多くて。
それは、お金や資金繰りの問題が非常に大きかった。その問題点があって、金融機関とデザインとものづくりと、三者で商品開発ができないかなっていうのはずっと心に思っていたんです。
ある日、私が企画していたビジネスとデザインのセミナーに、信用金庫にお勤めの方が受講されていたんです。信用金庫の店舗って、小さな農村漁村にも全国津々浦々にあって、全国に7,200店以上あるんです。それ全国の信金のメインバンクの役割をもつ信金中央金庫の方が来られて、デザインと金融のマッチングについてすごく興味を持ってくれました。
地域に根付いた金融機関である信金にも課題があって、例えば中小企業から新しい商品を作りたいと融資の相談をされて見に行ったけど、ちょっと格好良くない、という時、デザインの評価や良し悪しを考えられる人が金融機関の中にはいない。そういう問題を一緒に解決できないかと提案をいただきました。
それで、都内の中小企業のデザイン相談を受けたり、バイヤーさんを紹介したりと、個別相談を受けていたんですけど、もうちょっと踏み込んだプロジェクトに展開していこうということで作ったのがいまの”ユキノチカラプロジェクト“の事業の最初の枠組みなんです。


この枠組みは、その町の物を作る事業者と地域のデザイナーを掛け合わせる事で魅力のある商品をつくり、その商品とともに町のPRをして地域おこしをしていく。そこにサポーターがいて、日本デザイン振興会のようなプロモーションやPRが得意なところは企画を考えて、地域の信用金庫さんは金融関係のご相談や、資金繰りの相談、営業や販路開拓のサポートをする。あと各県の工業技術センターがサポートしてデザイナーの紹介だったり知財に関する相談事をサポートすると。
事業者があって、デザイナーがあって、そのマッチングをいろんな機関がサポートする、まずはそういう枠組みを作ったんです。その枠組みで、全国の信金さんにお声がけしてもらって、一番最初に手を挙げてくださったのが北上信金さんと西和賀町でした。

逆境をプラスに変えるのも“雪の力”

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最初は手探り状態で、まずは2015年の春にはじめて西和賀町にリサーチに行きました。東北屈指の豪雪地と言われている場所で、雄大な自然に感動するとともに、こんな秘境のまちに来たことがなかったのでいろいろな面でカルチャーショックを受けました。
それまで私がまわっていた東北のまちは、工業や伝統工芸があるところだったので、街並みもあればコンビニも本屋もいろいろあるんですけど、西和賀町はまずコンビニがないんです。今はそこが良いところだと思っています。

ユキノチカラweb_top

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「ユキノチカラプロジェクト」は、西和賀町内の事業者さんの商品をリデザインしたり、“雪の力”というテーマで岩手県内のデザイナーさんと協同して商品作りをしています。豪雪って住んでいる方にとっては不便だしネガティブに思われがちなのですが、この雪があるからこそ、牛乳やワラビやお米が雪解け水によってたっぷり栄養を蓄えて美味しいものが育ちます。それが「雪の力」なんだと、逆境をプラスに変えていく、そういうコンセプトでつくってきたブランドです。

最初は「ユキノチカラ」と言っても地元の方はピンと来なくて、おじいさんと話していると除雪の仕事で来た人だと思われて(笑)。雪は厄介なものっていう目で見ているので。それでも町内に広報活動とか啓蒙活動をしていく事で、ブランドの意味もわかってきていただいたかなと思っています。
最初は町役場主導で町から参加してみたい事業者さんを募って、集めていただいて。信用金庫さんと地域の事業者さんはいろいろな関わりがありますので、お店の状況などもよく知っているんですよ。だからここにも声かけてみたらとか、役場と金融機関と一緒に地域の掘り起こしをしていきました。

疫病を払う藁人形

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産休で2年ほどブランクの後に、2020年の5月からまたユキノチカラプロジェクト事務局に復帰したんですけど、最初に企画したのが、対コロナをイメージしたキャンペーンです。
西和賀町に200年以上前から続く“人形送り“という伝統行事がありまして。お侍さんの形をした藁人形が疫病から守ってくれるという言い伝えの行事で、地域で藁人形を作り、村の境の木まで運んで行ってくくりつける。
この藁人形をモチーフにしたポストカードです。下には “Against COVID-19”と書いてあります。

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大きい藁人形は身長5メートルくらいあって、町の湯田牛乳公社の販売店の前にどんと立っています。2015年に初めて行った時も役場の方にこちらにご案内いただいたんですけど、その時にすごくびっくりしたんです。現代社会にこういう行事を続けてやられているっていうところに感動して。
町の無形文化遺産にもなっているんですけど。昔は豪雪と飢餓で亡くなる方も多かったし、疫病も、豪雪の中で治療を受けられずに亡くなられる方も非常に多かった地域だと思います。こういったものを祀る事でみんなの気持ちを合わせるとか、協力して逆境を乗り越えていこうっていう気持ちの現れたデザインだと思うんです。それが脈々とこの地で受け継がれていて、さらに地域の皆さんがすごくこの藁人形を愛しているんですよね。そういう事にもとても感動しまして。これを活用して、岩手県外の方々への応援の機会にならないかなと思って作ったのがこのポストカードです。
これをふるさと納税の返礼品とか、町内の事業者さんのオンラインショップで買っていただいた商品に同梱してプレゼントしたり、町内で全戸配布もしていて。このカードを使って、西和賀の美味しいものを町外のお知り合いや家族に送って、エールを送り合おうというキャンペーンを実施しました。

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この他にも、プロジェクトを進めるにあたり、デザインセミナーを始める事からデザインリテラシーを育んでいった話など、地域とデザインを掛け合わせる中でのお話を中心にお聞きしました。
ぜひYouTubeでご覧ください。


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