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山水郷チャンネル #07 ゲスト:馬場未織さん(建築ライター/NPO法人南房総リパブリック)[前編]

山水郷チャンネル、第7回目のゲストは、馬場未織さんです。

Profile: 馬場未織 ライター/NPO法人南房総リパブリック理事長
1973年東京生まれ。日本女子大学大学院修了後、千葉学建築計画事務所勤務を経て建築ライターへ。2007年より「平日は東京、週末は南房総」という二地域居住を家族で実践。2012年に農家や建築家、教育関係者、造園家、ウェブデザイナー、市職員らとNPO法人南房総リパブリックを設立。里山学校、空き家・空き公共施設活用事業、農ボラ事業などを手がける。著書に『週末は田舎暮らし』(ダイヤモンド社)、『建築女子が聞く住まいの金融と税制』(学芸出版社)など。
南房総市公認プロモーター。関東学院大学、宮城大学非常勤講師。

馬場さんは、東京と南房総で二地域居住をされながら、NPO法人南房総リパブリックを設立、代表理事として活動をされています。
前編ではまず二地域居住へと至るきっかけからお話を伺っていきます。

長男の言葉が二地域居住のきっかけ

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我々を二地域居住へと誘った張本人は長男です。昔から図鑑がすごく好きで、覚えるほど読みこんでいて、図鑑の知識が物足りなくなり「本物が見たい」と言い出しました。
でも家の近くの環境では、ダンゴムシや、季節になったら蝉がいるくらいで、なかなか乏しいんですね。今、子供に本物の自然を与え損ねてしまうっていうのは、大きな欠落になるんじゃないか、っていうのが家族の中にあって。ひょっとしたら週末田舎で暮らせるんじゃない?という話を最初は洒落で始めて。そこから物件探しを始めたら突然リアリティが出てきて。
いろんな物件を見ているとだんだん目が肥えてきて、困ったな、これはなかなか落とし所がないなと思っていた時に、一目惚れをした土地に巡りあって、南房総市の中山間地に家を持って、14年目になります。画像2

この写真は家のデッキです。このデッキだけが唯一増築をした部分なんですけれど、築120年のすごく古い農家を買いました。そこにくっついてきたのが8700坪という土地。今にしてみれば、その土地をなぜ持ったのか謎なんですけど、とっても大変な思いをすると同時に、今の私をつくってくれたのが8700坪という里山の一区画です。
この景色に惚れ込んでしまいました。低い山が連なっているのが見えるんですけど、房総半島は高い山がないんですよね。その代わりすごく親密な小さな山が見えるっていう、この手元にある山々がすごく好きです。

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家には全く手を入れていません。建築に携わる仕事をしていたものの、自分に合わせてカスタマイズするというよりも、120年人が住んできた状態に寄り添ってみたいなという気持ちの方が強くて、寒いも暑いも不便も快適も全部受け止めてみたいというのが勝ちました。

徐々に変わる価値観

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写真で、手に持っているのは刈払い機です。「道普請」と言って、公共の空間の草刈りは、地元の人達が日を決めて一斉にやるんですね。それが年に5、6回あるんですけど、最初私達は「別荘扱い」されて声がかかりませんでした。
きっとできないと思われていたのもあり、「出不足金」を払う事で出たことにできると言われて。粛々と払っていたんですけれど、ふと参加できるんじゃないの?と。多少力不足ですけど出たいんです、って言ったら、じゃあ気をつけてやってみっか、と、一緒にやり始めたのが8年前。
そこから、草刈りを一緒にする時間っていうのが私にとってはすごく楽しい時間になりました。草刈りというより、終わった後にお茶を飲んだりする時間が楽しい。

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里山での暮らしを支えてもらっているのが集落の人達です。なんだかんだの自然相手にいろいろ困った事が起きる時に、手伝ってくれる近所の方にお返しするものがないんですよ。
例えば気張って三千円くらいするケーキを買っていっても、そのお礼に袋いっぱいの野菜をもらっちゃって、等価交換が全くできないというか。どうしようかな、本当にこれもらいっぱなしだなっていう時に、友達から誘われて醤油を作る事を始めたんですね。
70ℓくらいできるんですけど、それをお礼にお分けすることに今はしています。この「馬場醤油」っていう判子は消しゴム判子で、友人にもらったんです。

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何が豊かなのかというと、畑もそうですけど、プロセスが見られる。定点観測ができる喜びがあって。
画像の左上から右下まで梅の実が梅干しになるまでのプロセスなんですけど、蕾がついたところから、一連の事があった後の梅干しっていうのは、買った梅干しと味わいが違う気がします。思い込みがありつつも、食は体験というか、味だけじゃない、とてつもないストーリーを食べている
そうか、こういう楽しみを私は40年間知らなかったのかと。
後にNPOの活動にも繋がっていくんですけど、食べれる食べれないを知るだけで、見えてくる世界がガラッと変わる。漫然と見えていた山が、食べられる山菜とそうでないものにより分けて見えてくると、認識する世界の解像度が上がるんですよね。子供達がその武器を手に入れて生きていくって、なかなか得難いことかなと思っています。


人間と離れたところにある美しさ

そもそも、私が生まれ落ちた場所が非常にデザイナー寄りの環境だったんですね。母親が坂倉準三さん(建築家)の事務所で働いていて、父親が「新建築」の編集長をやっていて、たくさんの素敵な物に囲まれてはいたんですけど、人間至上主義的な、人間が作ったものに対する意識ばかり強く感じていました。
それに対して、本当にこれは根っこのある感覚なのかなってずっと疑っていたんですが、ここに来て初めて、自然の美しさはとてつもないという事に気が付きました。

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左上は雀蛾の幼虫ですね。こんな発色のものがいるわけです。結構大きくて、みんなソーセージくらいの大きさなんですけど。
次が沢蟹と、ハンミョウですね。めちゃめちゃ綺麗でハッとしますね。ハンミョウは超速で空間を瞬時に移動してしまうので幻のようなんです。こんな綺麗なものが人間に寄らないところにいるんだなって都度都度、感動しています。
右下はサンショウの卵の生みたてほやほやです。まだゼリー状の非常に良い状態で。真ん中がタマムシ。左側が育ててしまった雉なんですが…雉の卵を拾って孵化した事があって、東京で飼って南房総にまた放したんですけど。
私はこの美しさに会いに行っているなって改めて思いました。美しい場所にいたいんですね、そうは思っていなかったんですけど。目に触れるものが美しい場所にいたいからここに来てる、14年通い続けているモチベーションの一つなんだなと改めて認識しています。

南房総リパブリック設立

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里山環境を一家族だけで楽しんでいたんですけど、あまりに惜しいと友達や同業の人も交えたら、こんなすごい所があるなら何かやろうと持ちかけられて、それで始めたのが南房総リパブリックというNPO法人です。
私はその時に、子供がすごく小さくて3人もいてごちゃごちゃしていて、面倒くさいことは少ない方がいいなという感じだったんですけど、住んでもいないのにこんなに情熱的にやろうよって言ってくれる仲間がいるのなら、それは絶対生かした方がいいという気持ちに後押しされて始めました。2011年5月11日に設立総会をやりました。
メンバーは都市の人がほとんどで、私も二地域で。純粋に南房総市民なのは3人だけなんです。東京関係の人だけで南房総の事を運営するという変な団体を運営しています。

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事業で一番古くからある「里山学校」。これは川で生き物をとるという回です。定番ですぐに定員が埋まっちゃうプログラムです。
子供を遊ばせるプログラムって、子供が喜んでいる姿を見て親も喜ぶっていうのはあるんですが、私達がすごく大事にしているのは、親も一緒にやると。川も一緒に入るし、網も一人一本持って絶対に自分がとる。
親と子が一緒の目線でやると、大体お父さんが夢中になります。お父さんが子供を放って自分でとったりして、それを子供が見てるんですね、これ本気のやつだっていう感じで。親が本気なことに対して、逆に自分ものめり込んでいく。大人の本気を見るっていうのがすごく面白い現象だと思っています。
右に映っている本間先生が「名を知るは愛のはじまり」っていう言葉を教えてくれて。名前を知るっていう事で、世界が違って見えますよと。好きな人ができても名前から聞くじゃないですか。見つけたものの名前がわかると、それだけがすごく親密に見えてくる。そういうものをたくさんたくさん持つと、彩りの違う世界に足を踏み入れる事ができるよっていう事を子供達と一緒に体感しているという感じです。


NPO法人の話の導入に入ったところで時間となり、前編は終了しました。
最後に視聴者の方からいただいた質問に答えていただき、虫の話題や、コロナによって二地域居住のバランスも変わったのか?という話にも答えていただきました。
全編はぜひYouTubeでご覧ください。


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