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セコイアキャピタルの上陸が私たちに問う覚悟

こんにちは、GCP Xの堀江(@RH_nage)です!

少し前にシリコンバレーの名門VC、セコイアキャピタルの日本参入の話題がスタートアップ・VC界隈にて、賑わっていたような印象です。あのシリコンバレーの名門VCがついに日本へ参入するというのですから、日本のスタートアップ・エコシステムにとって、とても好ましいニュースだったのではないでしょうか。

ちなみにこのセコイアですが、日本との接点という観点では、(正確には日本企業ではないですが)KonMari Media, Incに投資したことがちょっと前に話題に?なりましたね。

実際のところ、日本のスタートアップにおいては、IPO直前のレイターステージで海外の機関投資家から調達するケースを除けば、海外VCからのグロース資金の調達は、ほとんど例がないと思われます。


僕自身の話で恐縮ですが、昨年まではとあるスタートアップにて勤務していたのですが、まとまった資金を調達する際に、一部某アジア圏の海外VCさんからの調達を検討したことがあります。

最初はいいなと思ったんですよね。海外の投資家もウチに注目してくれてるなんて、嬉しいなと。でも、その数日後そこには「これは、大変なことになってしまった」と頭をかかえる僕がいました。

次々と迫ってくる壁

さて、そのアジアVCからのデューデリジェンス(DD)がはじまりました。DDでは大体以下のような資料を一式求められるのですが、当然僕の手元にある資料は全部日本語です。

よくある資金調達のDD時に必要な資料セット(一例/優先度はまちまち)
■会社概要
・会社紹介のピッチ資料
・最新の定款・登記簿謄本

■株主関連
・過去の投資契約・株主間契約
・タームシート・種類株式の条件サマリー等
・株主名簿、資本政策表(過去の推移も含む)

■経理・会計関連
・税務申告書(決算)、直近残高試算表、前期・前々期末時点のBS/PL、借入金台帳

■事業計画・企業価値関連
・過去の予実比較関連資料(月次)
・数年分の事業計画書(PL・CF(資金繰り表)・BSもあれば尚可)
・バリュエーションの算定根拠、引受株価算定書
・主要KPI推移関連データ

■組織関連
・最新の組織図、従業員リスト、役員概要、関係会社リストおよび決算書(直近三期分)

■営業関連
・販売先_仕入先_上位10位リスト、クライアントインタビューアーリスト、直近の見込み/パイプライン状況、顧客向け営業関連資料

■その他
・監査法人ショートレビュー結果資料、証券会社提案資料
・重要な契約書(例:業務提携、代理店契約等)
・知財管理表・保有特許関連資料、過去の取締役会資料

長くなってすみません。でも、沢山あるってことが言いたかったんです。

腹をくくった僕は、完全なものを提出するのは無理と割り切り、yarakuzenという、ファイルそのものを機械翻訳してくれるサービスを使いました。これで翻訳されたものを、少々手直しして提出。重たい事業計画の財務モデルも機械翻訳してくれるので重宝しましたが、時間もリソースも限られる中、かなりやっつけ作業だったことは否めません。

さらに、仮に無事にDDを経て、投資が実行され、その海外VCに経営関与して頂く(社外取締役になって頂く等)ケースを想像してみたのですが、はたして、この言葉の壁を組織として乗り切るのか、想像するだけで不安になってしまったことを覚えています。

・株主総会・取締役会などの機関運営とか、日常的な情報提供とか、どうやって回していこうか・・・?
・会議は英語?通訳を入れる?
・資料はどうする?社内資料が英語だったら楽だけど、そんなのは非現実的で、日本語ベースで作成して資料を翻訳するのが落としどころかな?

こんなことを想像して不安になったことを覚えています。

組織ケイパビリティへの意味合い

このように、一定のシェアで海外投資家を株主に加えることを想定するならば、間違いなくそこには、非連続な組織ケイパビリティ強化が求められることになります。

一言で言語の壁といっても、文章・口頭コミュニケーションの英語化、提供する社内資料の英語化など、ただ単に言葉を変換すれば済むという話ではありません。それは、もっと本質的な経営の話なのです。

例えば数字は世界の共有言語であり、KPIベースでのコミュニケーションは言語の壁を越えやすいです。それだけで海外投資家が納得するくらいに、経営状況を定量的に可視化する社内体制整備やData Drivenなカルチャーを醸成することが重要でしょう。

言い換えると、早期に海外投資家から資金調達するのであれば、それをむしろドライバーとして、言語・人材・カルチャー・制度・拠点などの組織運営の在り方を、グローバルモードにシフトする覚悟を持つべきかもしれません。

非連続的で痛みを伴う変革ですが、未上場で組織が大規模化する前だからこそできるチャレンジだと思います。

一方で、そこまで振り切ったスタートアップはまだまだ多くありません。また、海外へスコープをシフトすることが成長戦略として正しいとも限りません。

たとえ、早期海外展開が理に適っていたとしても、創業者や経営陣が腹を括って、自らを大胆に変化させてゆくことを実行できないのであれば、海外投資家からの(早期からの)資金調達はデメリットも大きく慎重な判断が必要、とも言えるのではないでしょうか。

海外投資家を積極的に取り込んだ成功例

それでは、これまで全く成功例がなかったかというと、そうではありません。freeeの資本政策を見てみると、シリーズCから純粋な海外投資家(日本に拠点がない・日本人がいない)が入っています。

このケースでは、海外投資家対応にかかるコストよりも、彼らから資金調達するメリットが上回ったものと推察されます。その要因として考えらるのは以下3点です。

1 当時の日本における調達環境が厳しかった
 当時の日本はまだ、SaaS黎明期。SaaSビジネスへの土地勘がある投資家がまだ少なく、まとまった金額の資金調達が難しかった

2 定量的コミュニケーションで言語の壁を越えやすかった
事業モデルが SaaSなので 業界やメトリクスの研究が世界的に進んでおり、(当時の海外投資家目線で)どう評価されるかの共通理解が明確で、定量的コミュニケーションで言語の壁を越えやすかった

3 経営陣がグローバル環境に慣れていた
freeeの経営陣はgoogleなど外資系企業での企業勤務をお持ちの方々で形成されており、グローバルビジネスの感覚、能力を備えていた

日本のスタートアップエコシステムにとっての、大きな挑戦

冒頭のセコイアキャピタルの日本参入のような流れを受けて、これからfreeeのような、グローバルモードで資金調達にも挑戦する気概を持つ、スケールの大きなスタートアップが増えていくことが望まれます。

スタートアップの経営において、非連続の成長が求められる局面は、多岐に渡ります。そのたびに、事業の成長を実現するため、これまでとは異なる組織ケイパビリティが求められることになります。

ここでいう組織ケイパビリティ構築とは、必ずしも「人材採用」だけに留まりません。経営の優先順位の変化、実行力の段違いの強化、プロセスの整備構築、外部エキスパートの活用などなど。

実際のところ、アメリカや中国のスタートアップシーンと比較するならば、まだまだ日本のスタートアップは、こういった組織ケイパビリティの飛躍的なジャンプに対して、大胆になりきれていないところがあるのではないでしょうか。

非連続な組織の変革を伴ったとしても、どれだけ貪欲に成長に向き合えるか。

今回のセコイア上陸を契機として、日本の起業家や投資家は、今一度その覚悟を問われている、と捉えるべきかもしれません。

GCP X堀江

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