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ポスト・ムービー・トレイル〈4〉──チエコさんのおうちへ

私たちは、どんな時代を生きているのか──。

私(わたくし)の記録と記憶の価値に着目するアーカイブ・プロジェクトAHA!は、東京・世田谷の各戸から提供された8ミリフィルムのアーカイブサイト「世田谷クロニクル1936-83」の利活用に取り組んでいます。

家族の団らん、レジャー、社員旅行といった昭和のホームムービーには、「現在」という時代の価値観をくっきりと浮かび上がらせてくれます。世田谷を中心に地域での暮らしや在宅医療の現場でリサーチに取り組む神野真実さんに聞きました。

「このホームムービー、どんなふうに使えますか?」

連載第4回(全6回)

文=神野真実(デザインリサーチャー)
1994年生まれ。祖父の死をきっかけに、耳の不自由な祖母(当時86歳)が引きこもる姿を目の当たりにし、人の死からはじまる新しい生活への移行と地域社会のあり方に関心をもつ。「かつて暮らしの延長にあった老いや死を、どのように日常に取り戻していけるのか」という問いのもと、ケアの現場の内と外をつなぐデザインプロジェクトを実施。世田谷区を中心に在宅医療を提供する医療機関の運営にも携わる。

2022年10月7日 10:00-11:00
チエコさん宅にて

坂詰さんが担当看護師を務めるチエコさん(昭和4年生まれ、94歳)のお家に訪問。雨がふっていて寒い日だった。

月桂樹の生垣を抜け、お家に入ると、息子さん夫婦と猫たちが迎えてくれた。手を洗ってアルコール消毒をした後、中庭を横目にチエコさんのお部屋へ。坂詰さんから部屋に入り、尾山さん、神野と続く。横になっているチエコさんに握手とともに挨拶をした。

チエコさんが寝ている位置からよく見える場所には、大きなテレビとデジタル時計があり、戸棚の上には人形や折り紙、掛け軸などがたくさん飾られていた。肩のあたりの位置には体を良い位置に保てるよう猫の形をした枕が置かれ、ベッド脇にはポータブルトイレ、テーブル、車椅子がコンパクトに配置されている。それぞれのものが、チエコさんが立ち上がる際の支えになり、移動距離が少なく済むよう配置されている。

坂詰 こっちに移れるかな。今日チエコさんのお話、いっぱい聞きたいなと思って。

チエコ (ベッドから少しずつ起き上がり、車椅子へと向かう)

チエコ 美人ふたりも連れて。

尾山・神野 はっはっは。

坂詰 彼女じゃないよ〜。

尾山 チエコさん私、ほら、この写真撮ったの。(以前尾山さんが撮影したチエコさんのポートレートを指差しながら)

チエコ そうなの?

尾山 うん、そう。

坂詰 ここで撮ってくれたんだよ。

チエコ ここで。

尾山 そうそう! ありがとうございます。すごくよかったから。また来ちゃった。

チエコ ありがとう。

坂詰 こっち来れる?

チエコ (ベッドから少しずつ起き上がる)

目の前にいる人の「日常」や「普通」がどんなものなのか分からない。言葉を選ばず書くならば「大丈夫かな」と思った。映像を見ることや話すことがチエコさんにとってどのくらい負荷がかかるものなのか見積もることができず、尾山さんから言われた「映像を見るには工夫がいる」という言葉の意味を体感する。私がどのように関われるのかを見極めるべく、チエコさん、坂詰さん、尾山さんの動きや会話に意識を向ける。

坂詰 ずっと雨だし、ずっとここに居るだけじゃツマンナイでしょう。いろんな人と会ったりするとさ、元気が出るよ。

チエコ デイサービス行きたいけどさ、体が言うこときかない。

坂詰 ね。でも貧血だいぶ良くなってきたよ。心配したんだよ。

尾山 したねぇ。本当に。

チエコ (脇を開いて待つ)ああ、体温計かと思った。

尾山 ははは。

坂詰 体温計より先にね。(指にクリップをつけて酸素濃度を測り始める)

坂詰 首(のサポーター)はつけといた方がいい? お熱測ってね。健康チェックだけしちゃおうかな。体調、気になるところはある?

チエコ 何もない。

坂詰 何もない。

チエコ ダメなのはこれだけ。(顔を指す)

坂詰 ははは。お風呂入れた?

チエコ 入れた。気持ちよかったよ。

坂詰 (血圧を測りながら、机の上の本に目をやる)また、この本ね。どうして、この本...?

尾山・神野 知らぬが半兵衛手控帖(机の上の本のタイトル)。

神野 時代小説...?

尾山 チエコさん、結構本読むんですか? 時代物、結構好き?

チエコ 時代物のほうが面白い。

坂詰 (単行本の小さな文字が読めるので)目がいいのね。

尾山 面白いですよねぇ。この字読めるんですもんね。目、いいですね。

チエコ まあまあね。

坂詰 老眼でもないし。

チエコ あっかんべ。

尾山・神野 はっはっはっは。

坂詰 (酸素濃度)98%。

尾山 はい、98。(ケアに関わる人と情報共有するための連携ノートに数値を書き込む)

3人の動きにはムダがなく、「健康チェック」という言葉が似合わないほどなめらかで、自然だった。視力検査、という形式でなくても「生活の中で目がどこまで見えているのか」をこの会話の中から理解している。今この瞬間が“大丈夫”であることを少しずつ理解しながら、チエコさんの日常にお邪魔する。

坂詰 前にチエコさんに、二子玉川とか、三軒茶屋とか玉川電車で行ってたって話聞いたでしょ? 玉川電車が最後って、なんかお花いっぱい飾ってたの知ってる?

チエコ 知ってる。

尾山 やっぱ知ってるんだ〜。

チエコ あれはよかったよ。乗ればさ、渋谷まで連れてってくれるしさ、三軒茶屋もさ、行けた。

坂詰 行けたね。

尾山 この近く通ってました?

チエコ うん。交番の向こう側の広い通り。

尾山 じゃあ駅は近かったんですか。

チエコ 駅は近いよねえ。(聴診器を当てられる)...冷たい。

坂詰 冷たいね。ごめんね。

尾山 冷やこい季節がやってきましたね。私も手が冷たい。

チエコ (お腹に聴診器をあてられる)赤ちゃんいた?

坂詰 赤ちゃんいない。赤ちゃんいたらね、お社からお父さん怒って出てくるよ。

チエコ (呼吸音とともに、小さく「んーんー」と声が漏れる)

坂詰 (iPhoneをテレビに接続し、世田谷クロニクルのサイトを表示する)

尾山 チエコさん、世田谷線なくなっちゃった時あるじゃない? 玉電。玉電がお花で飾られて走ってたの?

チエコ 綺麗だったよ。

尾山 それのね、映像があったから、一緒に見ようと思って。

チエコ あ、本当。

尾山 懐かしい? 見に行った?

チエコ 懐かしいよね。

No.65『消え行く玉電』00:04

チエコ (画面を見て)あんじゃん。消え行く玉電だって。なに、最終電車の時の?

坂詰 (映像を再生する)

尾山 そうそう、そうそう。これ乗った? 渋谷から。

チエコ 普段乗ってた。

尾山 玉電乗っていた頃、何歳だった?

チエコ 忘れちゃったよ。

尾山 娘でした?

チエコ うん。

尾山 何年前かな?

チエコ でも、ここのうちに来てさ。

尾山 ここのうちに来たのは?

チエコ ジュウサンナナツ。

尾山 ん?

チエコ 十三、七つ。

尾山 ジュウサンナナツ。

チエコ まだ年は若い頃。

坂詰 十三七つ、若い頃、みたいな言い方ね。

No.65『消え行く玉電』01:34

坂詰 (本棚を探す)

チエコ 何を探してんの?

尾山 お、すごい。『昭和30年代の世田谷』って本があるの。

神野 すごい、これ玉電だ。

チエコ よく(本があることを坂詰さんが)知ってんね。

尾山 ほんとね。何を探してるのかと思ったらね。

神野 なんでも知ってる!

チエコ あなたの家じゃないのに。

尾山 ほんとだわ。

チエコ んーんー...。(呼吸音とともに声が漏れる)

患者さんと同じ言葉遣いになると、会話はスムーズになる。「娘」や「十三七つ」という表現や、本人ならではの言い回しは、看護師らのボキャブラリーに追加され、その後の会話に取り込まれていく。

坂詰さんは、戸棚に触れることを許されるほど信頼されていて、チエコさんの暮らしに関わるさまざまな情報は自然な流れの中で託されていっている。翻って自分は、祖母の家の戸棚のどこに何が入っているかなんて知らない、と思った。

尾山 これ、チエコさんの本?

チエコ もう、ずいぶん前に買ったの。

尾山 ああ、そうですか。親しみのある場所ばっかりだ。こういう本があるんですね。これ多摩川線でしょ? ここに瀬田って駅がある。

チエコ これは上の方。

尾山 これが瀬田って駅だったんですね。

No.65『消え行く玉電』04:42

坂詰 (再び玉電の車体が画面に映る)あれに乗ってたの?

チエコ 首が痛い。

坂詰 首が痛い?

チエコ お金がないから。

坂詰 また〜三茶でいっぱい使っちゃったの?

チエコ うん。

坂詰 はっはっは。

チエコ なんかいろんなもの買うのにね。衣料品でもそうだけどね。三軒茶屋の方が良かった。

坂詰 二子玉川より?

チエコ 二子玉川はね、高い。三軒茶屋のほうが安い。

尾山 髙島屋だから?

チエコ うん。髙島屋はね。だから三軒茶屋行って、まあ、一個だけ買うんだったら髙島屋でいいけどね。たくさん買うんだったらね、三軒茶屋行った方がいい。

坂詰 三軒茶屋にいっぱい買って、荷物いっぱいで帰ってくるなんて大変じゃない?

チエコ 担いできた。リュックもってった。

尾山 リュック持ってったんだ。

坂詰 あれは懐かしい? あの中に乗ってるかもしれないんだよねチエコさんが。

世田谷クロニクル1936-83

チエコ (映像が世田谷クロニクルの目次に切り替わり、画面に映る上野動物園の記録映像の表記を見て)昭和11年だって。

尾山 上野動物園、行った事ある?

チエコ 上野動物園、あるよ。

尾山 あ、本当? いつ行きました?

チエコ 昔まだ若い頃。

尾山 おっ、じゃあ、もしかしたらチエコさんが行った頃かもしれない。

チエコ パンダが来た頃。パンダ見に行った。

尾山 パンダって珍しかったの? その時。

チエコ 日本にいなかった。

尾山 へえ、すごい並んだんじゃない?

チエコ うん、並んだ。並んでましたよ。

尾山 どうでした?初めて見た時。

チエコ 別に、ね。

尾山・神野 はっはっはっは。

尾山 あ、そうですか〜。まあ、別にって感じでした?

チエコ んーんー(呼吸音とともに)

チエコさんは、挨拶を交わしたころよりも、言葉や声の出し方にハリが出てきている。身体を起こし、語り出したことや、それに紐づき会話が展開されていくことで、この調子は引き出されているように見えた。

だんだんとチエコさんの視線がテレビから外れ、ここから看護師たちの質問の仕方も変わっていく。

No.2『上野動物園』00:36

尾山 昭和11年のころって、ああやってみんなまだ着物着てたんですか?

チエコ 着てたよ。洋服の人の方が少なかったよ。

尾山 本当? チエコさんは着物着てた?

チエコ 着物着てましたよ。まだあそこに(押し入れを指差して)着物たくさんあるよ。

尾山 ああ、そうかー。

坂詰 その棚?

チエコ 今、面倒くさくて、着ないよ。

尾山 結構大変ですもんね。着るのね。あの中に、着物、眠ってるんだ。

チエコ (戸棚から坂詰さんが出してきた箱を見て)あれはお裁縫箱。

尾山 ああ可愛い。器用なんですね。

チエコ 自分で作っちゃう。

神野 へー。

尾山 かわいい。見ていい? お裁縫箱。

チエコ いいよ。

尾山 これ自分で作ったの? めっちゃかわいい。

神野 かわいいー! これは何?

尾山 これ、(箱を包んでいる布)昔の着物の生地?

チエコ うん。

尾山 へー、写真撮っていい? すごい可愛い!

神野 しかも生地の色の合わせ方が素敵!

坂詰 上手ね。

尾山 かわいいな。チエコさん、お裁縫得意だったんですね。

チエコ これを切ってね、これを周りに貼って。

神野 着物を切って、これを貼って作るんですね。

チエコ はじめにこれ(土台となる箱を)作っておいてね。

神野 へー、じゃあ板に巻いてるんですか?

チエコ うんーうんー(呼吸音とともに)

神野 わー、すごい綺麗な糸。

坂詰 手縫いでしょ? すごいなあ。

チエコ なんか編んだのある? 編んだのないよね。編んだのない。

神野 あ、編んだりしたんですね。

チエコ セーターまで編んだよ。

神野 あ、セーター! へぇ! これもいい色ばっかりですね。

チエコ んーんー(呼吸音とともに)

坂詰 何でも自分でやってたのね。

チエコ うん、だってないんだもん。自分でやらなきゃ。んーんー(呼吸音とともに)

坂詰 お仕事終わってから、こういう編み物してた?

チエコ うん。(呼吸音とともに)

神野 これはなんの素材だろう。

チエコ 極細っていうの。

神野 へー、何に使うんですか?

チエコ これが糸でしょ、極細。3本あつめると、これと同じになるの。

神野 なんか柔らかい、絹みたいですね。

チエコ んーんー(呼吸音とともに)

尾山 この、神野さんもね、編み物するんです。

神野 私、今、編み物を勉強中なんです。

坂詰 ちょっと息苦しいんじゃない?

神野 手で編むの勉強中なんです。でもセーターはまだ編めてない。

尾山 チエコさんも結構編みましたか?

チエコ 編みましたよ。

尾山 へえ、手編みで?

チエコ (右手を左右に大きく動かす)

尾山 あ、機械で?

坂詰 機織りみたいな?

チエコ ガーッガーッガーッガーッガーッ(手を左右に動かす)こうやって、どうやって。頑張ってガーッガーッガーッガーッガーッ。

坂詰・尾山・神野 はっはっはっは!

尾山 臨場感が伝わる。

坂詰 どれくらいでできるの? 1日2日でできるの?

チエコ 早い人はね、一週間かかんないよ。こういう箱も全部自分で作ったの。

神野 へ〜! これはいいな。

チエコ 今は全然つくんない。へへへへ。

坂詰 チエコさんの昔の写真とかあるの?

チエコ どっかそこらへんにある。ない?

坂詰 どっか、あったら見たいな。

チエコ その袋は? ない?

坂詰 …これも糸だ。

尾山 これは神野さんが今やっている毛糸のじゃない?

神野 あ、本当だ。モヘアだ。これもセーターですか。ふわふわのセーター。

チエコ 子どもの編んでたの。

尾山 チエコさんいろいろやってたんですね。

チエコ ぼーっとしてんのが嫌いだった。

尾山 何か仕事してた? ずっと。

チエコ だって今みたいにテレビないもん。全然ちがう。

映像の話を起点としながらも、チエコさんの過去の生活の情景が話題の中心になる。尾山さんは、私がうまくチエコさんと話せるよう、トスを投げてくれ、お裁縫の話で盛り上がった。家庭用編み機の話をしている時の力強さと眼差しは真剣そのもので、当時は自分で作らなければ着るものがなかったという言葉からも、相当な回数をこなしてきた腕の動きだと推測する。

こうして話が盛り上がる中でも、坂詰さんは、チエコさんの息遣いや動きから、負担になりすぎていないか、声をかけながらフォローし続けていた。

いろいろな話をしてもらった後、少し足の痛みが出てきて、寝たいということになったので、記念の写真を撮らせてもらってから、失礼することにした。

尾山 チエコさん、お話たくさん聞かせてくれてありがとう。

チエコ あっかんべ。

尾山 あっかんべ。

尾山 じゃあ写真撮ってもいい?

チエコ いいよ。

尾山 ありがとう。

チエコ あっかんべだよ。

坂詰 写真とるとき(首のサポーター)はずそうか。

チエコ いいよ。

坂詰 はずさなくていいの?

チエコ ふっふっふっふ。あっかんべ

尾山 あはははは。

チエコ へっへへへ。笑っちゃうね。あっかんべ。

尾山 じゃあ神野さんも一緒にお願いします。じゃあ坂詰さんもこっち向いて、みんなでニコニコ。おーオッケーオッケー。いい写真、撮れました。じゃあチエコさんのアップも。

チエコ 後でください。

尾山 はい。もちろん。じゃあ襟元ちょっと直そうかな。

チエコ いいよ直さなくても自然で。

尾山 自然で? そうかそうか。

チエコ あっかんべだよ。あっかんべ。あっかんべー。ふっふっふっふ。笑っちゃうね。

坂詰 笑う門には福来るだよ。

チエコ 本当だね。

尾山 うん、いいね。

坂詰 元気になってきたもんね。またね。

神野 たくさん、お話ありがとうございました。

坂詰 よっこいしょ。(チエコさんが立つのにあわせて)ちょっと一休み。よいしょ。よいしょ。

チエコ (少しずつベッドへ)よいしょ。(ベッドに座った位置から少しずつ横になる)

尾山 頑張りましたね。チエコさんこれ、体の位置なおしましょうか。せーの、よっ。いいですね。

チエコ あっかんべだよ。

尾山 毛布は? かけていいですか?

チエコ お願いします。

尾山 はいー。

チエコ ありがとう。

尾山 今日寒いですからね。二枚かけときます。

チエコ ありがとうありがとう。ふーふー(呼吸音とともに)

尾山 脚は伸ばします?

チエコ (うなずく)

坂詰さんがチエコさんの動きとリズムを合わせるように、「よっこいしょ」と掛け声をかけながら身体を支えたり、彼女の痛みに共振して「痛い?」と問うとき、坂詰さん自身にも痛みがあるように言葉は発せられていて、「2人」というより「1.5人」のように見えた。

尾山 じゃあチエコさん、今日はありがとうございました。

チエコ またきてね。

尾山 いいの? ありがとうございます。またきていいですか?

チエコ 何も無いね。

尾山 チエコさんのお話があるから大丈夫。

チエコ お願いします。

尾山 お願いします。もう一人挨拶します。

神野 ありがとうございました。

チエコ (神野が手を差し出す)あったかいね。

神野 ここにいたら温かくなりました。お話ししてたら。ありがとうございました。

チエコ 気をつけてね。またきてね。気をつけてよ。

尾山 チエコさんもね。

チエコ あっかんべーだよ。

尾山 またあっかんべー聞かせてください。

チエコ さよなら。

帰り道、尾山さんと坂詰さんと、訪問を振り返る。

チエコさんが時折発する「あっかんべ」とは何だったのか、尾山さんに聞いてみると、褒められたり、みんなが注目していた時に発していたから、あれは照れ隠しだったんじゃないかなと考察を聞かせてくれ、なるほどと思った。

患者さんの呼吸の速さや深さ、瞼の動きや視線の迷い、言葉にならない表現など、本人から放たれるさまざまなシグナルを看護師らはキャッチし、それに呼応することでケアは成立している。

左から坂詰さん、チエコさん、神野(筆者)

きょう見た映像
No.65 - 消え行く玉電
No.2 - 上野動物園
No.82 - 多摩川大風のあと

第5回へつづく)

文=神野真実(デザインリサーチャー)
写真=尾山直子(看護師/写真家)


ポスト・ムービー・トレイル──昭和の8ミリを携えて街を歩く
1 近くて遠いケアの世界
2 桜新町の今昔を歩く
3 ケアの現場に近づいて
4 チエコさんのおうちへ
5 看護師たちとふりかえる
6 恐れて避けるのではなく、関わって触れていく

※ 本記録に登場する、患者さんの人物名は一部仮名です

GAYA|移動する中心
昭和の世田谷をうつした8ミリフィルムのデジタルデータを活用し、映像を介した語りの場を創出するコミュニティ・アーカイブプロジェクト。映像の再生をきっかけに紡がれた個々の語りを拾い上げ、プロジェクトを共に動かす担い手づくりを目指し、東京アートポイント計画の一環として実施しています。主催:東京都、公益財団法人東京都歴史文化財団 アーツカウンシル東京、公益財団法人せたがや文化財団 生活工房、特定非営利活動法人記録と表現とメディアのための組織[remo]