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インドはヤバいのか?いや、ヤバくない #6雨上がりの夜空に〜ダージリン〜
好奇心あふれる若者ならば、誰しも一度は
「インドに行ってみたい」と思い立ち、
そして「まあいつか行ってみたいけど、、、」
と多くは思い立った記憶を心の押し入れに片づけてしまう。
いつしか「インドってヤバい国なんでしょ」
という印象以上の思いを持たれなくなってしまう。
そして、バックパッカーはじめインドを訪れる人も、周囲に期待される「ヤバいインド」を見ようとし、持ち帰る。ヤバいインドの再生産だ。
そういった「ヤバい」という言葉に矮小化されてしまいがちな、
街のひしめき、人々のたくましさ、アウトサイダーの論理、
あるいはゆっくりと流れる大河や夕陽落ちる大地の悠久さ...を解凍して
言葉にし、「ヤバくないインド」に調理して届けたい。
数日間滞在したシリグリを離れ、山岳地帯にへばりつくダージリン(Darjeeling)へと北上する。調査のためという名目もありながら、内心は観光客気分に満ち満ちたワクワクに包まれていた。ダージリンは紅茶の産地として広く名が知れており、さらに高地に位置するから快適な気候が人気の避暑地でもあるという。なんでも、澄み渡ったヒマラヤ山脈(カンチェンジュンガと呼ばれる)を眺めることができるのだとか、、、
この6月、シリグリは蒸し暑くジメジメしている。午前中に外を出歩くだけでも、エアリズムのシャツはすっかり雑巾絞りができるほどの汗をまとっているのだ。少しでも快適な土地へと移住したがるのが人間の性だろう。
シリグリからダージリンまでは、通常乗り合いのバスで2時間半山を登り上がる。私たち一行は貸切のバンを手配し、宿泊先のホテルから一気通貫でダージリンへと移動する。
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翌朝のバスの時間まで少しゆとりがあったので、せっかくだからと露店のマンゴーを買い食いしてみることにした。道路の脇には若者がリアカーを携えて、机の上に緑緑としたマンゴーを山積みにしている。このマンゴーは一体どこから来たのか?そんなことしったこっちゃない。どこへ行くのか、つまり俺の腹に入るかどうかが重要なことなのだ。
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マンゴー4-5個を量り売りで購入。具体的な金額は覚えていないが、日本で購入するマンゴーの10分の1以下の価格だったため驚愕したことを覚えている。とっておきなので、一旦は夜まで冷蔵庫で冷やしておくことにした。
夜になってホテルに戻り、水洗いしたマンゴーのヴェールをカッターナイフで脱がせる。用心棒兼通訳者兼相棒のジョンは「なぜわざわざ格子状に切るのか」といぶかしげな表情だが、そんなことはお構いなしに、共に真夏の果実へとしゃぶりつく。
みずみずしく、甘くとろける。1日中降り注いだ雨が地面に浸透していくかのように、マンゴーの水分が疲れた身体へと染み渡っていく感覚に浸った。
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翌朝になり、みずみずしさを携えてダージリンへ向かうバンへと乗り込む。
残念なことに、今日も朝から雨が降り止まない。おそらく険しい道のりになるだろうという予感も携えていたが、やはりそうであった。
本来通るであろう山道が大雨による土砂崩れで通行止めになっており、迂回を余儀なくすることになった。もはやインドにおいてこういった事態は付き物だと腑に落ちていたが、一体どれほどの迂回になるのかは見通しが立たない。ガタガタ道をずっと揺られていると気分も悪くなるので、途中からバンの荷台で横になりながら長旅を送ることにした。
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山腹の途中にちょうど良い茶屋があり、一旦の休憩をはさむ。いつもと同じ熱々のチャイを出してもらったが、不思議と落ち着きや安心感を覚えてしまった。
普段と違って気候も涼しく、雨が降り注ぐ険しい道を超えてきたからか、チャイという飲み物に見出される意味は一層の深みを増しているのだろう。
インドで過ごすということは、大なり小なりこのチャイと共に過ごすということであり、チャイへの思い入れが増していき、気づけばチャイに依拠した思い出が出来上がるのだ。
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シリグリを発ってから、4〜5時間は経っただろうか。
ガタンゴトンと揺れる山道を通り過ぎ、やがて山の峰へと踊り出た。
ダージリンへたどり着いたようだ。急斜面の山に所狭しと民家やアパートメントが建ち並んでいて、まるで岩だらけの崖の上に鳥の群れが一休みしているような光景だ。それぞれの家はそれぞれの色の屋根を被り、緑、赤、ピンク、青、と個性を表している。
その街並みはどことなくブリティッシュな趣きを宿していて、第二次世界大戦中にイギリスの植民地下にあったダージリンの歴史をつきつけてくるようだ。
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気候も涼しくなったので、半袖の上に紫のナイロンパーカーを羽織るが、それでも少し寒いかな。
ダージリンに到着したころには雨も止んでおり、ちょうど宿から中心街の通りを散歩するのにうってつけだった。
身体を温めることも含めて、商店街をうろついてみた。バザールに入ると、300mぐらい続く道の両脇に所狭しと露店が並び、閑静なダージリンにしては賑やかだった。
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茶葉の生産地として有名なため、中にはお茶っ葉を販売する高級げな店も見られた。
ダージリンのお茶は、その収穫の時期によって呼称が「ファーストフラッシュ」「セカンドフラッシュ」と変わってくる。
ファーストフラッシュはいわゆる春摘みで、緑茶のような緑色と少し青い風味が特徴らしい。セカンドフラッシュは夏摘みともいわれ、いわゆる紅茶らしい色とフルーティーさが目立つ。
そして紅茶店のスタッフ曰く、ダージリンを訪れた6月末はちょうどセカンドフラッシュの時期だという。チャイとして飲むことが多かった紅茶だが、試飲してみるとたしかに柔らかな甘味が口の中に広がる。さすがセカンドフラッシュだ。
(といっても、ロクに日本で紅茶を飲んできた試しがないため、何を飲んでも良いように捉えていることを忘れてはいけない)
ひととおり身体を温め終わったことだし、翌日に山間部の学校やNGOを訪れるに備え、セカンドフラッシュの茶葉を片手に宿へと戻った。