「言った」と言った、らったった【山奥屋10】
今回は小説を書くときに頻出する動詞について。
「言った」のことだ。
言った。
この単語を自分は何千回書いてきただろうか。
ずっと前に何かの解説でも触れた話題なのだが、そんなに読まれてもいないだろうし、ここでもう一度書いておく。
小説を書いてると、「〜は言った」とか「〜は言う」などの表現をたくさん入れなければならない。
なぜかというと、小説というのは「」(カギカッコ)内の喋り手が誰なのかすぐにはわからない形式だからだ。
だから「(セリフ)」の前とか後に、その話者が誰なのかを触れておかねばならない。
つまり小説はこう書く。
A子は言った。
「肉まんが食べたいわ!」
するとB男は言った。
「俺はピザまんが食いたい!」
これがすごくめんどくさい。
本当は次のようにできればいいのだが——
A子「肉まんが食べたいわ!」
B男「俺はピザまんが食いたい!」
なぜか小説では、やっちゃいけないことになっている。
誰がしゃべったのか分かればいいんだから、これもアリな気はするのだが。
(もしかしたらプロで実験的にやった人がいるかもしれない)
(ネット小説だとあるのは知ってる。テラーとか)
まあ同じ内容で4行と2行なら、原稿料に優しいのは4行だが。
とはいえ毎回毎回、「言った」という表現だと工夫が足りないように思えて、初心者は「語った」「話した」「述べた」「漏らした」などと四苦八苦するわけである。
やめておこう。
「言った」で十分だ。
一ページに四、五回「言った」「言う」が出てきても、普通の読者は気にしない(一〇回出てきたら、さすがに気にするだろうが)。
それでも「言った」をなるべく使いたくない場合は、登場人物の方で工夫をするしかないだろう。
口調が異なるキャラクターを出す。人称を変える(俺、僕、私、麿)。性別を変える。二人でしか会話しない。などなどだ。
それで思い出したが昔に読んだ「若草物語」が冒頭すごくつらかった。
四人姉妹がいきなり出てきて、四人で会話するのである。
ジョーやらメグやら誰が話しているかは一応わかるように書いてあるのだが、まだ冒頭だから、こちらもキャラを把握していない。
一人称も全員「あたし」だ。
それで10代の少女が四人出てきて話をする。
当然、読者(俺)は大混乱する。
まあ150年前に書かれた小説なので仕方ないが。
これを現代のラノベ作家(俺)が書いたら、一人称が全員ちがうだろう。
会話もまず二人からスタートして、一人ずつその場に加わっていくように書くはずだ。
ファンなら「そんなの若草物語じゃねえよ!」というだろうが、分かりやすさ優先だとたぶんそうなる。
話がそれた。いや逸れてもいないか。
まあそんなこんなで。
「言った」を書くはめんどくさい、という話でした。
(おしまい)
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