「ライバルがいない就活」への抜け道とは—障害者雇用を掴み取る鍵—|障害学生対象オンラインOBOG訪問キャリアセミナー 榎戸篤さん
障害学生ライフキャリア支援プロジェクトGATHERING(ギャザリング)では、3月1日の就活解禁に先駆けて、さまざまな障害当事者の先輩の就活について聞くことができるOB・OG訪問形式のオンラインセミナーを開催しました。
この記事では、3月8日に開催された榎戸篤さんへのOB訪問(主に視覚障害の学生さん向け)の様子を一部お伝えします。
厳しい現実を知った、はじめての就活
山田:榎戸さんは学生時代どんな業界・職種を中心に就活していたんですか?
榎戸:中学生の頃からずっと新聞社に入りたいと思っていたので、就活はマスコミを中心にやっていました。でも、記者になりたいという夢は早い段階で打ち砕かれてしまったんです。新聞社の説明会に行った時、人事の方に「視覚障害があるんですが、記者ってできますか」と聞いたんですよね。「たぶん大丈夫だろう」と思いながら聞いたんですけれど、「無理です」ときっぱり言われてしまったんです。新聞記者の多くは新卒で入社すると地方配属になる確率が高いと言われていますが、地方だと車移動は欠かせないですよね。それを前提に「運転免許が絶対必要だから、視覚障害があって免許を取れない人は無理だ」と。門前払いされたことにショックを受けると同時に、記者以外の道を探さなきゃいけないと気付きました。
障害者雇用専門の就活セミナーに行っていたんですが、そこでも思った通りには行かないことが多かったです。障害者雇用を目指す場合、仕事に直結しにくい、雇いやすい障害を持っている人たちと争わないといけない。書類の段階で落とされることが続いて、障害者雇用での就職も簡単ではないということを知りましたね。
山田:なるほど。障害の有無を問わずにライバルがいるのはもちろんのこと、障害を持つ人の中でもまた別種のライバルが出てくるから、複雑な構造になりますね。最終的にエントリーは何社くらいしていたんですか。
榎戸:100近くエントリーしていたと思います。志望社の関連会社にも応募しましたが、障害者雇用の求人を出していない会社にも「障害があるんですけれども雇ってもらえませんか」と電話をかけまくっていました。電話すると、「実は障害がある人を雇いたかった」と言われる場合が意外とあるんですよね。一般企業がリクナビやマイナビのような求人情報が集まるサイトに求人を出すには、実はかなりの金額を支払う必要があるんです。それは障害者雇用専門のサイトでも同じです。特に障害者雇用に関しては予算が限られた会社は多い。ただ、予算はなくても障害者雇用をしたいとは思っていたり、興味はあったりするという会社も実は少なくないので、僕はそこを狙いました。
山田:確かに、障害のある学生さんが就活を始めるときって、障害者雇用専門の求人情報が集まるサイトをとりあえず使いますよね。そうすると、リクナビやマイナビを使う場合と同じで、サイトに載っている企業にはエントリーが集中するから、ライバルが多くなってしまう。でもそこに出てくる企業はほんの一握りでしかないんですよね。大手の求人情報掲載サイトには情報を出してないけど、障害者雇用に取り組みたい会社は意外とたくさんある。だから、人が集中していない部分にアプローチしていくのはすごくいいところをついたアクションですね。
最終的に就職が決まった会社も電話がきっかけだったんですか?
榎戸:そうですね。テレビの制作会社だったんですが、その会社もちょうど障害者雇用を考えていたみたいで、タイミングが良かったんだと思います。入社してからは、アーカイブ部という部署に配属されました。例えば、音楽番組で「2000年に流行った曲」みたいに過去の映像が出てきたりしますよね。そういう映像を番組制作時に引っ張ってこれるように、あらかじめ内部で映像を検索できる状態にしておく仕事です。撮影された映像を見ながらキーワードを付けて、検索できるようにするっていう業務を4年半やっていました。
キャリアの転換、ADに挑戦
山田:4年半経って、どういうキャリアチェンジがあったんですか。
榎戸:仕事を始めて3年経った頃から「やっぱり現場に行きたい」と思って、上司に相談していたんですね。上司には「もしかしたらポストが空くかもしれないけど、向こう何年かは難しい」と言われたんですが、現場の仕事は体力勝負なので若いうちしかできないんじゃないかと悩んでいたんです。悩んでいるうちに、ADとして雇ってくださる別の会社にご縁ができたので転職を決めました。
山田:転職してからの業務はどんなことをしたんですか?
榎戸:この世の全ての雑用をしていました(笑)。トイレ掃除をしたり、機材を運んだり、セットを組んだり。例えば、突然「ちょっと新橋まで行って機材を借りてきて」と言われたりもします。でも、普通の人が2時間で戻ってくるところで、僕は3時間ぐらいかかってしまうので、「どこに行ってたんだ」と怒られていました。スタジオを動き回らなきゃいけない時も、自分は目が見えないので、カメラマンの方に「君はもう動かなくていい」と言われたりしたこともあります。入って半年ぐらいで辞めざるを得なくなって、退職しました。その後ニートでプラプラしていたら、前の会社の先輩が「うちの会社にもう一回戻ってみないか」と言ってくださって、いろいろ考えた結果、戻らせていただきました。裏では先輩方が役員の方に頭を下げてくださっていたみたいで、本当にありがたかったです。
山田:今は新卒で入った部署と同じところで働いてらっしゃるんですか。
榎戸:部署は同じですね。でも、「そんなに(現場も)やりたいんだったら」ということで、最近は新番組の企画チームに入れてもらったりしていて、元々やりたかったことに近づいてきていると思います。
企業に直接電話をかけたり、ADとして現場に飛び込んだりする榎戸さんの行動力と勇気に驚かされっぱなしでした。企業へのアタック方法など、就活に役立ちそうな情報も盛りだくさんで濃い時間になりました!
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