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【100の職種プロジェクト】第10回 ASD・ADHD×障害者支援施設職員

100の職種プロジェクトは、社会で働くさまざまな障害や特性がある人たちが、どんな職種や業種でどのように働いているのかインタビューし、障害種別・特性と職種・業種をかけ合わせた100通りの働き方を発信するプロジェクトです。個人が診断を受けている障害名に左右されず、個人の経験や環境に着目しながら、多様な人たちのさまざまな働き方やその環境について探求し発信し続けています。多様な選択肢のある社会を実現すべく、Collableのインターン生が取材を行っています!

第10回は、ASD・ADHDを抱えながら、現在まで2箇所の障害者支援施設に従事されてきた相原さん(仮名・30代)にお話をお伺いしました。
以下の文では、以前の勤務先を障害者支援施設①、現在の勤務先を障害者支援者施設②とします。

障害の特性と診断された時期

Q. 相原さんの障害や特性について教えてください。

もともと精神疾患があったのに加えて、つい最近ASD・ADHDと診断されました。職場で「あれやってください」というような抽象的な指示を理解できず、細かく確認することがあったり、家族とのコミュニケーションが上手くいかず、考えや行動が軽くすれ違ってしまう時があったりします。

Q. 診断を受けたきっかけを教えてください。

幼稚園の年中頃に場面緘黙と診断され、療育のために児童相談所に通ったりしていました。高校生になってからは改善されたのですが、もともと周りを気にする性格ということもあって、2〜3年前に抑うつになったんです。そこで病院に行ったところ、抑うつに加えて、ASD・ADHDの診断が下りました。今までの人生では精神疾患の症状の方が目立っていたので、発達障害の診断は自分でも驚きでした。

場面緘黙(選択性緘黙):家などでは普通に話せるのに、特定の場所で1か月以上話せなくなる疾患のこと。自分の意志で話さないのではなく、話す必要があると思っても話すことができず、体が思うように動かせなくなり固まってしまうこともある。5歳未満で症状がみられることが多く、500人に1人の割合で発症する。年齢とともに5~10年以内に改善する報告もあるが、慢性化して成人になっても症状が続く場合もある。

ハートライン沖縄クリニック

Q. 幼少期の場面緘黙の症状についても詳しく教えてください。

家の中では普通に話せるのですが、学校では特別仲の良い子以外とはほとんど話せませんでした。また、家族との会話であっても、周りの目を気にして外では声が小さくなっていました。自分の声を聞かれるのが恥ずかしく、普段黙っているからいきなり話し出すようになったらそれもそれで何か言われるのではないかという恐怖心や緊張があったんだと思います。小学校・中学校まで公立で同じ集団の中にいたのですが、高校入学のときに知り合いが減ったことで、やっと話せるようになりました。

障害者支援施設①重度知的障害の子どもの放課後サポート

Q. 以前勤務していた障害者支援施設(障害者支援施設①)の業務内容を教えてください。

大学卒業後、知的障害があるお子さんを対象に、放課後と休日の生活支援をする施設で働いていました。
雇用形態は非常勤だったのですが、施設の人手が足りなかったので月曜から土曜まで働いており、平日の放課後はお子さんの学校が終わる時間に合わせて2〜4時間、休日は午前中〜夕方に勤務していました。
利用者の年齢は小学生から高校生くらいで、私は小学生の女の子を担当することが多かったです。食事・排泄・外出に付き添ったり、おやつ作りや簡単な体を使った遊びなどのレクリエーションを行なったりしていました。保育園のような感じですね。

Q. この仕事を選んだ経緯を教えてください。

実は、通っていた高校の近くに、重度知的障害の大人の方を対象にした支援施設があって、課外活動として週に一回ボランティアに行っていたんです。関わる前は福祉職って暗い、辛い仕事だと思っていたのですが、イメージと違って職員の方もとても明るく、利用者の方が苦手な部分を手助けするという業務に私も関わってみたいと思うようになりました。
そこで高校3年生で自分からボランティアを始めたのが、1つめの職場なんです。
福祉の短大にいる間もそこでアルバイトをしていたので、かなり長く関わっていましたね。

Q. 業務のなかで、自分の特性に合っている部分、または苦手だと感じる部分はありましたか。

発達障害の子どもを追いかけることがよくあったのですが、それは自分に合っていて全く苦になりませんでした。苦手な方もいると思うんですけど、私は体を動かすのも好きだし、子どももとても可愛かったです。
苦手だったのはコミュニケーションです。施設の規模が今の職場よりも大きかったので、多くの同僚や利用者のご家族と関わらなければいけなかったんですね。ASDの特性上、言葉で伝えるのが苦手なので、相手に誤解を与えたり、うまく連携できなかったりすることがありました。当時はまだASDの診断が降りていなかったので、現在のように自分のコミュニケーションの特性を自覚して対処していれば、違ったかもしれません

障害者支援施設②重度知的障害の大人の就労支援

Q. 現在勤務している、障害者支援施設②の業務内容を教えてください。

1ヶ月ほど前から、障害者支援施設の職員として、様々な症状や特性を持った利用者様への就労継続支援(B型)をしています。利用者様はチラシを折るなどの企業から委託された作業をしています。その際に、サポートが必要な場面があれば声がけをしたり、お手伝いをしたりするのが職員の仕事です。

就労継続支援:一般企業などで働くことが困難な方が、福祉的就労(※)の中で障害や体調にあわせて働く準備をしたり、働くための能力を向上したりするためのサポートを指す。就労継続支援A型就労継続支援B型の2種類がある。
A型:雇用契約が結ばれ、最低賃金以上の給料が保障される。
B型:雇用契約を結ばず、「工賃」として生産活動に対する対価が支払われる。最低賃金は保障されない。

障害者雇用バンク

Q. この仕事を選んだ理由・経緯を教えてください。

前職の福祉施設職員は結婚・出産のタイミングでやめてしまったのですが、子供が小学生になって子育ての手が空いたので、以前と同じような、障害をお持ちの方をサポートする仕事に就きたいと考えて求人に応募しました。

Q. 業務のなかで、自分の特性に合っている部分、または苦手だと感じる部分はありますか。

私は小さい頃の場面緘黙症にも現れたように、周りを気にする特性があるので、利用者さんの変化に対して敏感に気づいて声がけできているのではないかと思います。
逆に、向いていないのは細かい作業です。私は手先が器用でないのですが、いざ細かい作業をするとなると、ADHDの特性か、過集中になって時間をかけすぎてしまうことがあります。そのため、どこまでやればいいのかという目安を人に聞いたり、自分で意識するようにしています。

障害者支援施設の職員として働くにあたって

Q. 自身の特性を職場でオープンにしていますか。

していません
仕事以外では自分もサポートを受ける場面があったとしても、仕事とプライベートで立ち位置を切り分けたいからです。その方が仕事の場では専念できます。
配慮をあらかじめお願いするというよりは、自分で「どこまでやればいいか」などと確認したり、「時間かかりすぎてすみません」など一言添えたりしています
あとは、雑談中に「私ってこういうところがあるんですよね」と軽いノリで自分の特性を知ってもらったりしています。
ただ、内面では、利用者さんの気持ちに共感できる場面も多いので、「自分がこういう支援をされたらどうだろうか」ということは常に考えています。

Q. やりがいはなんですか。

色々な特性をもった人と関わることができることです
​​自分もそうですが、専門機関や施設などに通ってサポートを受けている方の多くは、外的や内面にそれぞれ何かしらの困難さがあり、「社会的な弱者」という位置だと感じています。
そういう方に日常生活の中で関わったりする機会って、こういうお仕事をしていないとほぼゼロだと思うんです。
特に困難さが目立たない方の場合は、街中で隣の席に座っていても気づかないくらいだと思います。
そういう方達にとって、日常生活の一部であっても共に時間を共有できること、またその中でお役に立てることがあれば素敵だなと思い、仕事をしています
あとは、利用者さんの話が面白かったり、一生懸命作業をしている姿を見たり、そういうちょっとしたことが励みになって「自分も頑張ろう」という気持ちにさせられますね

Q. 将来のビジョンを教えてください。

まだ現職に就いてから1ヶ月ということもあって、しばらくは今の施設で働こうと思っています。
キャリアアップなどもあまり考えていません。今の職場の居心地が良く、業務内容も自分に合っているので、このまま続けていくと思います

Q. 同じ障害を持つ人へのアドバイスがあれば教えてください。

まず、早くから自分の特性を知ること
私は大学生の頃、福祉の他にもWordやExcelに興味があり、派遣で事務の仕事をやってみたことがありました。しかしADHDの特性上、ミスが多かったり、座っているのが苦痛で向いていなかったんです。なので、自分の特性を知った上で仕事を選ぶというのは大事ですね。
そしてもう一つは、できないことは最初から伝えておくということです。これは、私が大学生で飲食のアルバイトをしたときの失敗談なのですが・・・面接では周りの空気を敏感に読み取って良い顔ができるものの、いざ仕事を始めると忘れたり聞き漏らしたりすることが多くて「サボっている」と誤解されました(笑)
なので、実際に働くことをイメージして、できないことがあった場合には最初から伝えておくと、後々楽だと思います

まとめ

いかがでしたか?障害者支援者施設に大変なイメージをもっていた方もいらっしゃるかもしれませんが、相原さんにとっては天職といえそうですね。
また、相原さんの話を聞いて、クローズであってもコミュニケーションの工夫によって自分の特性を伝えることができると気付かされました。周りへの伝え方のヒントがたくさん詰まっていましたね!
インタビューにご協力いただき、ありがとうございました!



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この記事を書いた人

ゆりこ 大学3年生。料理を作ることと食べること、動植物が大好き。低音障害型感音性難聴をときどき発症。

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