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ADHDっぽい私が心理学を仕事にするまでの話4 ~文系が実験と出会って衝撃を受けた話~

前回のお話はこちらから

私の得意・苦手分野

私はいわゆる主要5教科では、数学が苦手です。どちらかというと暗記系の科目が得意でした。なので、社会が一番の得意科目でした。

ただ、理科も得意でした。理科の場合は得意というより「好き」だったということもあるでしょう。理科でも、生物や地学などはほぼ暗記科目と言っていいでしょうから、それは順当なところですが、一方、ある程度の応用力(計算力)を要する化学や物理もできました。

数学は基本的な問題でも相当てこずるのに、化学などは、(あくまで高校で学ぶ範囲内ですが)どんな難しい化学反応式でも解く自信がありました。

「理数系」とよく言いますが、私の場合、理科と数学は別だったようです。

なので、理科はやりたかったのですが、数学がアレなので、高校のクラスは文系クラスに。

したがって必然的に大学の専攻も文系になりますよね。

ちなみに心理学は(後述するように理系要素も多いのですが)「文系」に分類されているわけで、入った大学も「人文学部」でした。

これで、苦手な数学とも縁が切れたな、と思ったものですが、大誤算!

実は心理学には数学的要素がたっぷりなのでした。

そもそも「心理学」とは…「実験」と出会う

まずは何をおいても基礎をきっちりと。学問においては当然のことです。

そして、そのためにどこの大学でも必ずある(はず)のが、「心理学基礎実験」という大学2年次に必修でとらなければならない演習です。

心理学の基礎がズバリ「実験」であることを知り、衝撃を受けたのは私だけではないでしょう。(個人の感想です)

実験では当然ですが、「客観性」を重視します。

そこで感じるのは、「心理学」というのは人間心理という「主観」を扱うものではないのか? という素朴な疑問。

客観性とは無縁な印象すらありましたが・・・、ここで悟った事実ですが、現代の心理学は方法論的には実証性・客観性を重視した「自然科学」に近い位置づけであるということです。

余談ですが、これは歴史的にはWundt(ヴント)という先生が、心理学をそれまでの思弁と哲学から切り離し、「実験心理学」という経験科学として体系化して以降の潮流となります。

ヴント(W.M. Wundt, 1832-1920)
科学としての客観性を持った心理学を構築するため、実証的なデータを基にすることが必要だと考えて、刺激を十分コントロールして作り出せる実験室を設置した(1879年)。その室内で実験参加者に刺激を提示して報告を求め、実証的データを基にした新しい科学的な心理学を創ろうとした。…その実験化と体系化に努めた点で、彼はしばしば「実験心理学の父」と呼ばれる。

鹿取・杉本・鳥居 2017 「心理学(第5版)」 東京大学出版会

その後も現代に至るまでの変遷はあるのですが、「エビデンス・ベースド」を重視して、サイエンティフィックな枠組みで心をとらえていくという方向性が、心理学の基礎としては重要視されています。

したがって、だれもが思う、「心」=「主観」という等式を一旦、「心」=「客観」という式に置き換えるという作業をまず行うわけですね。

これが、前回ご紹介した「心理学ほど学ぶ前と学んだ後でイメージが変わる学問はない」という名言の意味ですね。

(注:これはあくまで「基礎領域」である実験心理学における話です。臨床的支援を主とする臨床心理学は主観も当然扱います。)

客観化するということは、言い方を変えると実証的なデータとして「数値化」するということになります。

心の動きを実験によって数値化して、それを一般化するためには、必然的に統計的解析が必要となります。この一連のプロセスには数学を使わざるを得ないわけで…。

そのため、「心理統計法」とか「心理学研究法」という科目が必須になっています。

大雑把に言えば、こころをデータ化して「量」として表すということ。
これが、現代心理学の基本であることを思い知ったのです。

なぜ、中学・高校でもっと数学をきちんとやっておかなかったのか! と過去の自分を恨むことしきりです。

心理学実験というハードル

ところで、ご存じない方は心理学の実験?っって何するの??? と思われたかもしれません。

領域ごとにさまざまな研究法・実験法が工夫されていて、基本的には科学研究の要件を満たすように実施し、「再現性」を考慮して実験用具の準備から「条件の統制」とか「手続き」などをきっちりと押さえて、さらに「統計的処理の方法」などをきちんと記述して残しておく必要があります。

覚えておられるでしょうか、かつて話題になった「STAP細胞」の研究でも報道でよく耳にしましたが、科学においては同じ結果を再現できるかどうか、がとても大切なのですね。

心理学にも、数々のセンセーショナルな実験がありますが、心理学には分野が様々あり、その分野によって行う実験も異なります。

基礎演習で行う実験は、基本的には「地味」です。

(趣旨から外れるのでここでは具体的には割愛しますが、実験については別の記事でまた書ければと思います。)

心理学の場合、他の科学領域と比べたら多少イメージとしては異なるのですが、科学研究の流れについて理解しておくということが心理学の研究には不可欠ということで、実験方法そしてレポートの書き方(序論・方法・結果・考察・参考文献)を心理学基礎実験でたたき込まれるのです。

そこで経験した小さい挫折

週に一回、テキストを参考にグループで実験をして、そのレポートを翌週までに提出、というサイクルを半期行います。(ちなみに残りの半期は心理検査の実習をして、そのレポートを同じように翌週提出です)

書式や記述内容、分析の方法や結果の書き方などを指導教授にチェックされ、不備があると容赦なく「再提出」の憂き目をみることになり・・・泣く泣く書き直しになります。

その第一回目の課題において・・・!

正直、「何でこれが心理学ッ!?」という状態で、あまり意味が分からないなかでの実験&レポート作成なので、そもそも気が進みません!

・・・素直じゃありませんね(^^;

予想外のことに混乱し、気が乗らないことは後回しにするADHD気質の私のことです。初回レポートは限りなくやっつけで書いたものを提出。

結果は火を見るより明らか。めでたく再提出となりました。

ちなみに、私が入っていたクラスで、この基礎実験のレポートで再提出の憂き目を見たのは、私一人でした(^^;

挫折によって少しだけ成長した…かも

正直、恥ずかしく、かつ悔しかったです。

ただ、そこで、負けず嫌い発動。生真面目さも幸いしたか、その後は順調に課題をクリア。

それだけでなく、毎週行われた専門用語を問う小テストではすべて満点を取ったり、ふつうコンピュータで行う複雑な解析手法である因子分析を手計算で行って教授にほめられたり、同期の中では唯一、博士後期課程まで進んだり、このときの挫折体験が、その後の学習熱につながったのは確かです。

人生何が幸いするかわかりませんね。

・・・もっとも、考えてみると「理科」は好きな教科だったので、実験という理科の要素が入っているということは、もともと実験を好む素地はあったのかもしれません。

苦しみながらも熱中してやった記憶があります。

以上、始めは衝撃を受けましたが、あとは割と順調に実験にも順応し、「これが必要なんだな」と素直に取り組むことで、少しだけ大人の階段を上った大学2年の私でした。

次回は3年次のお話です。

今回もお読みいただきありがとうございました。

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