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さいのう

自分ひとりしか愛していない才能など持っていても仕方がないと思って、つい先週捨ててしまった。その結果、私の部屋には何もなくなった。先週までは才能だけがそこにあったのだ、才能だけしかそこにはなかったのだ、ということにはそれを捨ててしまってからようやく気がついた。

家賃を払えなかったが不動産屋に連絡するのも億劫だったので、そのまま部屋を出て帰らぬことにした。どうせ持っていけるものも何もない。準備に時間はかからなかった。

3キロも歩くと疲労で動く気力が失せた。ちょうど公園にいたが、どこのベンチも鳥の糞にまみれていて座る気になれなかった。

鳩が寄ってきた。睨んでも退かなかった。私には鳩の1匹も動かせない。

どうしようもないので部屋に戻った。捨てたはずの才能が出迎えてくれた。

家賃をどうしたものか、と思いながら床に寝転がる。大家か何かがやってくるまで、天井を見て過ごすことにした。

自分ひとりしか愛していない才能など使わなければいいだけで、何も捨て去ってしまうことはなかった。空を抱きしめてみたが何も感じなかった。

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