見出し画像

戯曲「事の次第 -セカイノオワリ」公開

こんばんは。がらくた宝物殿です。
現在、福岡で演劇活動をしております。3月に予定しておりました「サフランライス3」というすてきな短編持ち寄り演劇公演に参加できなくなってしまいました。(詳細はがらくた宝物殿ホームページ内「〈がらくた宝物殿〉の『サフランライス3』参加辞退のおしらせ」をご参照ください)

公演には参加できなくなってしまいましたが、作品が完全に無に帰してしまうのは大変にせつないことです。何か形に残しておきたいなと強く願い、かつ計画をしているところです。その第1弾として、上演候補だった1作「事の次第 -セカイノオワリ」の戯曲を公開してみようと思います。短い作品ですので、上演している姿を思い浮かべながら読んでくださると大変嬉しいです。感想やら何やらも歓迎です。

福岡に「全員主役」という文句をうたっておもしろい作品を作る劇団があります。それに対抗するわけではありませんが、がらくた宝物殿の作品は「全員モブ」です。ここにおもしろみを感じていただきますと、我々と大変気が合うと思いますので、そういう方はぜひ今後の作品も見ていってください。

これを上演したいよという物好きはそうそういないと思いますが、もしいらっしゃいましたらご一報ください、というかうれしいです。上演の様子を動画などで見せてくだされば、上演料等はいりません。お問い合わせは 1973.majortom.mars@gmail.com までよろしくお願いします。


今回の戯曲の公開だけでは虚しさとせつなさはおさまりませんので、もう少し作品を生めないか粘ってみます。最新情報はtwitter( @garakutreHouse )が最速だと思うので、よかったらたまにチェックしてみてください。

また、現在過去の上演作品の動画をいくつか公開しています。こちらもどうぞ。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「事の次第: セカイノオワリ」


【部屋1】

 リビングのような場所。部屋が狭いのか、ダイニングも兼ねているようなつくりである。道頭は椅子で雑誌のページをめくっている。
 両手を握り、道頭の方に突き出す立川。
 道頭はキョトンとした表情でそれを眺める。

立川  どっちだ?
道頭  ……なにが?
立川  どーっちだ?

変わらずキョトンとする道頭。立川は満足げにも嬉しげにも見える。実際、その両方である。立川はしばしば自分にしかわからない文脈の遊びを持ちかけて周囲を困らす。

道頭  なにが?
立川  だから、どーっちだ?
道頭  え……こっち?

 立川の右手を指す道頭。立川は指された拳を上に突き出す。

立川  残念こっちは右手でした〜
道頭  んん、わからん

 立川、再び両の拳を道頭の方に突き出す。

道頭  えー、じゃあこっち
立川  こっちは左手です
道頭  でしょうね
立川  ……

 立川、無表情になり直立の姿勢。
 道頭、すぐには返事をしない。結果、間。

道頭  おわった?
立川  うん


【事の次第―方舟1】

 どこだかわからない場所。
 榎木、ポツリと立っている。

榎木  ……

 右手を真横に持ち上げ、左手を腰に回す。
 ややのけぞって右半身に重心をかけて立つ。

榎木  ……クラーク博士です

 マイクを持った上林、現れる。

上林  大神様はおっしゃいました。「なにそのモノマネ、ひどいな」と。この瞬間、神々は汚れきってしまったこの世界を滅ぼしてしまうことを決定しました。なんでそんなしょうもないことで、と思われるかもしれませんが、世界は、様々な事物の糸で複雑に編み込まれた布地のようなものです。一見皆さんとはなんの関係のない人の些細な行いから、糸は綻び、しまいに布地に穴が空いてしまうのです。今回は、このおにいさんが会社の宴会でやらされたこちらの芸が引き金になってしまった。ただそれだけのことなのです

 上林は榎木の周囲を回りながら語る。
 榎木はクラーク博士のモノマネを続けたまま動かない。
 上林、榎木に質問してマイクを向ける。

上林  榎木さん、どうでしょう、世界を終わらせてしまった今のお気持ちは?
榎木  はい、そんな(遮られる)

 上林、榎木にマイクを向けたまま返答を待たず喋りだす。
 榎木、ポーズはそのままで困惑している。
 何度かリアクションを試みるも、止まない上林の喋りに遮られてしまう。

上林  榎木さん、あなたは何も悪くはありませんよ。事はすべて互いに関わり合っている。ひとつが倒れて、その次の事にエネルギーが伝わる。そうやって倒れていくんです。実際、あなたの上司が「おい、なんか芸やれよお前よお。仕事もできねえ、芸もできねえ、じゃあいったい何ができるんだい?」と言わなければ、あなたはこんな芸をすることはなかった。言われた時に、あなたは逆上して上司を殺すこともできたはずです。でもそうしなかった。もしそうしていたなら、そのエネルギーは別のことに伝わって、別の人が世界を終わらせていたでしょう!

 上林の喋りがようやく止む。間。

榎木  ……おわりました?
上林  あ、はい


【部屋2】

 リビングのような場所。
 椅子に座っている道頭と立川。

立川  犬をね
道頭  ダメだよ
立川  いやまだ何も言ってない
道頭  飼いたいとか言うんでしょ?
立川  いや
道頭  あ、違うの?
立川  違うよ
道頭  へえ。じゃあ何?
立川  見た
道頭  ん?
立川  犬をね、見た
道頭  ………あ、そんだけ?
立川  うん
道頭  ……
立川  ……
道頭  おわり?
立川  うん
道頭  ……え、どんな犬?
立川  ふつうの
道頭  へえ……かわいかった?
立川  いや
道頭  ああそう……その犬は
立川  なに興味あるの?
道頭  いやない
立川  じゃあもうよくない?
道頭  お前が始めたんだろう
立川  もう終わっただろう!
道頭  急にキレんなよ
立川  ……ごめん

 間。

立川  ……かわいくなかったわ
道頭  ……
立川  ……なんか、散歩してた
道頭  ……へえ
立川  なんか……飼い主の方からこの犬かわいいでしょうって近づいてきて
道頭  へえ……でもかわいくないんだ
立川  うん。……何も言わないのもあれだから名前なんですかってきいたら
道頭  なんて?
立川  「メビウスのワン」って
道頭  え……あ名前が?
立川  うん、僕もそうきいた
道頭  うん。そしたらなんて?
立川  「裏表のない性格なんです」って……
道頭  ……え、ちょう意味わかんないじゃん
立川  うん


【事の次第―方舟2】

 どこだかわからない場所。
 榎木、パソコンの置かれたデスクの前に座っている。
 上林、榎木の後ろに立っている。
 上林は榎木の背後から腕を伸ばし、トラックパッドを操作する。
 二人の目は画面を向いている。

上林  どうしても責任を感じている、何か償わせてくれとおっしゃられたということで。神様方も非常に感動なさっておりました
榎木  いえ、僕のせいなんで
上林  いえ榎木さんのせいではありませんよ
榎木  はい……
上林  えー、で榎木さんにやっていただくのはですね、方舟に乗せる生き物リストの続きですね
榎木  はあ
上林  あ、方舟……はご存知ですか?
榎木  ああ……えっとあれですか?
上林  世界をリセットするのに、また一から生物作るのも大変なので、全ての動物の番を乗せて次の世界まで運ぶんですけど
榎木  なんか聞いたことあるような気がします
上林  絶滅した種類も含めて、どういう生き物がいるのか一番左の欄にリストアップしていますから、この右の備考欄に、生活環境とか食べ物とか、わかった範囲でいいので入力していってください
榎木  わかりました
上林  まあずっとやってたら大変ですから適宜休憩も挟みながらお願いしますね
榎木  え、急がないんですか?
上林  ああ、まあ準備出来次第方舟に動物乗せて世界終わらせるっていう感じですね
榎木  はあ
上林  なので締め切りとかは特にないです。あ、言っときますけど榎木さんは方舟乗れないですからね
榎木  ああ
上林  じゃあ榎木さんが入力してる間に僕は方舟動かしてきますから
榎木  はあ
上林  あ!「方舟を運ぶね」って、なんかダジャレみたいな事言っちゃってましたね
榎木  ……そうでしたっけ?


【部屋3】

 リビングのような場所。
 椅子に座っている道頭と立川。

道頭  うれしい時の舞考えよう
立川  なにそれ?
道頭  今後うれしい気持ちの時にみんなで踊って、うれしい気持ちを共有するの
立川  なにそれ?
道頭  今後うれしい気持ちの時にみんなで踊って、うれしい気持ちを共有するの
立川  ……いいよ
道頭  まあ、跳ぶ感じじゃない?こう

 道頭、ジャンプしてみせる。

立川  ああ、わかるかも

 立川、道頭に並んでジャンプする。

道頭  で……
立川  手は前じゃない?

 立川、両腕を前に突き出す。手首はだらんと下に垂れている。

道頭  ああ、いい。うれしい感じするわ
立川  で、これをこう、渡し合うのは?

 立川、道頭の方を向き突き出した腕をぶるぶる震わせる。
 道頭も同様にする。
 道頭の腕の振動を受け取るように、立川は両手を自分に近づけ震わせる。
 今度は立川が腕を前に伸ばして震わせ、道頭が胸のあたりでそれを受け取る。
 しばらく踊る。

道頭  これ疲れるね
立川  うん

 舞、終わる。

道頭  ……
立川  ……

 ふたり、椅子に座る。

立川  ……お腹すいたね
道頭  あ、ほんと?
立川  何か食べに行く?
道頭  今日いい肉もらったからすき焼き
立川  !

 立川、うれしい時の舞を舞う。
 道頭、ふふっと笑い、立川の腕の振動を控えめに受け取る。
 舞が始まる。

 上林、入ってくる。

上林  この光景を見た大神様はおっしゃいました。「何この不毛さ。くだらねえ」と。その時、偶然隣にいらっしゃった大女神様がおっしゃいました。「いや、でも……なんかかわいくない?」と。大神様は「ああ、そうかい」と呟き、この瞬間、神々は世界を滅ぼすのをやめることを決定したのであります。「たしかに、なんかかわいいね」と。え、そんな大事なことをそんなしょうもないことで、と思われるかもしれませんが、世界は、様々な事物の糸で複雑に編み込まれた布地のようなものです。一見皆さんとはなんの関係のない人の些細な行いが、破れかけた布地を縫い上げることもあるのです。はてさて、これはいいことなのか、悪いことなのか……


【事の次第―方舟3】

 どこだかわからない場所。
 榎木、パソコンに向かって作業を続けている。
 上林、榎木に近づく。

上林  あ、榎木さん。世界終わるのなしになったんで、もう作業終わってもらっていいですよ
榎木  いや、え?え?
上林  あ、もう帰っていただいて大丈夫です。17時にはここ閉めたいんで、それまでには完全退出お願いしますね。じゃあ、おつかれさまでした
榎木  いやあの
上林  あ、忘れ物だけないように。じゃあ

 上林、去る。

榎木  ……はあ

 深くため息をつく榎木。
 しばらく背もたれに体重を預けてダランとする。
 もう一度ため息をついて、身の回りの荷物をカバンにしまっていく。


 オワリ(セカイハツヅク)。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?