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まさか偶然…


またこの道をひとりで歩いている。


動けない車列の隙間から吹く風が冷たくてコートの前を閉じた。


ギターを背負った女の子の2人組とすれ違う。彼女たちは夢も一緒に背負ってるんだろうな。


不意に顔を上げても通り沿いにあるショップの中を覗き込むだけであとは俯いたまま歩く。

探したところで君を見つけられるとは限らないのに。



あの日からもうすぐ1年経つ。

忘れようと思っても忘れられず、長いようであっという間だった。


「さよなら」を告げて振り返ることなくまっすぐ歩いていく君の後ろ姿が頭から離れない。


コートの季節が終わってしまえばもう二度と君に会えなくなるような気がして何度も何度もここに来てしまう。


これまで何度君とよく似た後ろ姿に息を呑んだだろうか。その度に人違いでガッカリしていた。


もう一度会えたところでやり直せるわけなんかないのに僕はまた期待して人混みに後ろ姿を探してしまう。



角を曲がって骨董通りに入って顔を上げた。


少し向こうを歩く深緑と茶色のタータンチェックのコートの後ろ姿にハッとする。



まさか偶然…



〈完〉

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