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耳に落ちる涙

宿題を終えた僕は疲れた体をなんとか引きずってベッドに倒れこんだ。さっきまでコーヒーで何とか繋いでいた意識はもう限界を迎えている。枕もとのデジタル時計は日付を変えて01:25を映している。

1週間を何事もなく終えた僕の体も心もぐったりと重くなっていた。休日は何もすることなく過ぎ去って、また月曜日になってぼやっとする頭を振りながら学校に向かうのだろう。


別に学校が嫌いなわけではない。ただいつからか楽しくなくなった。

そうなってからは1週間が長く感じるようになって毎日が楽しいと思えなくなった。


きっかけは何度思い出してもいつも新鮮に僕の胸を掻きむしる。

こんなに深く考え込んでしまうタイプだっただろうか。ベッドに仰向けになって窓から吹き込む風で煽られているカーテンを見ながら考え事をするたびにこのことを考えてしまう。


もともと頻繁ではなかったにせよ、どちらからともなく連絡は取り合っている仲だった。

それがある日を境にパタリと途絶えた。なぜか僕も変な意地を張っていたのか、こっちから連絡することはなかった。

たぶん、何かにむかついたんだと思う。今となってはその幼稚な理由はわかるがあの時の僕は気づいていなかった。


あれ以来、何となく学校であっても変な距離感が出来たままだった。それからだと思う、学校が楽しくなくなったのは。

きっとあの時にどうにかしていれば良かったんだと、今になって思う。どんな些細な事でもいいから一歩踏み出しておけばよかった。

今からでも間に合うかな?僕は君とどうなりたいのかな?


そんなことを考えていると疲れているはずなのに目が冴えてきた。さっき飲んでいたコーヒーが今になって効き始めたんだろうか。ゆっくりと寝返りを打って枕もとを見ると01:27が浮かんでいた。

どうせ明日は休みだから焦って寝る必要はないが、こんな気持ちのまま長い夜は耐えられない。

電気を消す元気もなく、ただぼんやりと天井を眺める。眠る気もなければ何かする気も起らない。ただ胸をじんわりと湿らしていく感情に抗うことなく、呼吸をする。


突然、さっきまで何ともなかった天井と目の端に映りこむ電気がじわっと滲んで歪み始めた。

何が起こっているのかすぐにはわからなかった。


僕の中の弱さはゆっくりと零れ、そして熱いものが耳に落ちた。


ああ、そうか。僕はもう戻れないんだ。

そう思うと、ひとつまたひとつと目尻から溢れたものが流れていく。

この熱さは忘れちゃいけないな。


溢れては落ちる涙をぬぐうことはせずに、僕は小さく笑った。



<完>

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