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ヤフオクで落札した槍を手に考えた事

前後編予定の、前編です。


ヤフオクで槍を落札する

10月中旬。たまたまヤフオクで、とある「槍」を見つけました。

「武具 時代物 珍しい拵え付き! 三角槍 在銘 伯州住 刃長14.5cm 登録証不要サイズ」
槍の茎(なかご)を切り詰めて、短刀の拵に収めたもの


私のこれまでの購入履歴は、脇差、刀、短刀、短刀、となります。
この先、槍や薙刀となると到底置く場所もないですから、
購入を考える事はないだろうと思ってたんですが、
そうか、短刀拵の槍か…… こういう可能性は考えてなかったぞ。

実は、槍の穂先の形というのは結構な種類があります。
当然、人によって「好みの姿」と「そうでない姿」が出てくる訳ですが、
このヤフオクの槍の穂先は、私の好みの姿です。かなり高得点でした。
グワッとしてたり、ぬーんとしてるより、シュッとしてた方が好き。

槍の穂先の形状(刀剣ワールド:刀の種類「槍とは」

あと、拵がすっごい好きでした。桜の皮巻き。
この槍の拵が一般的な漆塗りの「合口拵」や「小さ刀拵」だったら、
入札せずにスルーしたか、少なくとも即 参戦はしなかったはず。

桜皮巻短刀拵

という訳で、中身も外側も心惹かれるお姿でしたので、入札へ。
私がたどり着いた時点で、入札額は 18,000円くらいでした。

在銘だけどほぼ読めず、鞘の塗りの一部に剥げがあり、
縁と鯉口の水牛角(?)に一部、欠けがある。
刃長 14.5cm という長さ。茎切れ。保存刀剣等の鑑定はなし――
「このくらいまでなら出してもいいな」という額を入れて、待機。
本気っぽい相手との競り合いになったら退こう、くらいの気持ちで参戦。
結果、無事 落札できました。

税込で 63,000円くらい

 

届いた槍を眺めて楽しむ

落札から数日後に、我が家へ到着。
鯉口が緩んでいて鎺が抜けやすい、というのはオークション説明にも
記載があったので、抜く時は慎重に。
実際、柄側を下に向けただけでスルッと滑り落ちる有様です。

この独特の曲線がとても好き
鞘も良い色。表側の鯉口寄りに一部剥げあり
茎(なかご)の接写。銘は……一番上が「伯」かな?
刃長 14.5cm なので、刃先から鎺までが中指の先から掌までくらい

短刀として見ると、かなり小ぶりなサイズ感なのですが、
三角形の断面構造は貫通力と強度を考えられた刺突武器の構造で、
これは間違いなく槍だなぁ、という感想でした。
設計思想としては西洋の中世後期のスティレットに近いかもしれない。

かなり安く手に入ったのもあって、拵の塗りが一部剥げていたり、
鯉口や縁の角材に欠けがあるのも「まぁこの程度なら」と受け入れ。
刀身にも目につく傷などはなかったので、良い買い物だと思いました。
 

湧き上がる不安

――が、ここでなんとなく気になった事が。

「珍しい拵え付き! 三角槍 在銘 伯州住 刃長14.5cm 登録証不要サイズ」

ヤフオクでのタイトルが、こんな表記でした。

「刃長14.5cm 登録証不要サイズ」

銃刀法(銃砲刀剣類所持等取締法)の中で、一つの基準が15cmです。
刃渡り十五センチメートル以上の刀、やり及びなぎなた」は
登録が必要です。ここで言う「刀」には、太刀、脇差、短刀も含まれます。
逆に言うと、14.5cm のこの槍は登録証は不要、という事になります。

この槍は15cm未満なので違法性は無いのですが、ほんの少しの不安も。
この長さ指定、実はもう一つ基準があります。
刃渡り五・五センチメートル以上の剣、あいくち
……これが、すごく、微妙なラインなのです。

まず、「剣(けん・つるぎ)」というのは何を指すか。
ザックリ言うと、左右対称の形状の両刃の刀剣です。
若干、茎(なかご)を切り詰めた槍にも似ています。

短刀、剣、槍のザックリ比較(自作画像)

きちんと見れば、刃の根元、ケラ首と呼ばれるくびれた部分の造りで
剣とは違うと分かるのですが、パッと見で似ている部分もある。

そしてもう片方の「あいくち」は何を指すか。
これが非常に難しい。
「刀剣類のうちあいくちとは、つばのない つか(柄)につけて用いる片刃の鋼質性の刃物で人目につかないように所持するのに便利な形態を有し、本来殺傷の用途に供されるものをいう」
という基準が佐賀県警の古い資料の中にありました。
この「あいくち」は都道府県単位で色々解釈が割れているのですが、
少なくとも銃刀法上で、あるいは警察の取り締まりの判断基準として、
合口かどうかは「拵(こしらえ=外装)」によって変わります。

短刀としての拵(外装)の模式図(自作画像)

銃刀法的にアウトになる「あいくち」の拵は、上図の中段です。
なぜ短刀よりあいくちの方が規制が厳しいかというと、鐔がない分だけ
携帯性、隠匿性に優れ、暗殺等に使われやすいからです。
(実際、小型の「あいくち」は、反りがほとんどない形状が多いです)
下段の白鞘はなぜOKかというと、白鞘は合わせが簡易的な糊なので、
実用するには強度不足だから危険性が薄い、という判断です。

で、うちの槍の拵は、「合口拵」なんですよね……
刃長 14.5cm の「あいくち」と疑われかねない状況です。
いや、厳密には片刃ではないので、「あいくち」ではないんですが、
「あいくち」と疑われて中を見せて、と言われるには十分な外観です。

拵としては、間違いなく合口拵

 
そして、これが非常にややこしいのですが、美術刀剣としての登録不要、
という事は、この槍が美術刀剣に相当するという証明がありません。
つまり、美術刀剣であるという後ろ盾がない「刃物」になります。

平成21年に銃刀法が改正され、ダガーナイフの規制が強化されました。
「刃渡り 5.5cm以上のダガーナイフの所持禁止」です。

以下の埋め込み 2つは警視庁のツイートです。
 ※上手く表示されてなかったらリロードしてみてください。

刃の形状が左右対称の、刃渡り5.5cm以上の刃物は所持禁止、です。
携帯(持ち歩く事)が禁止ではなく、所持(家に置いておく事)が禁止。

刃の形状が左右対称の、刃渡り5.5cm以上の刃物では?

この辺の背景を組み合わせて考えると、この槍って、すごくグレーでは?
と、不安になってしまいます。
通常の刀剣に比べれば値段は安いですが、値段や価値の問題ではなく、
自分がとても気に入っている物が、もしかしたら法的にアウトかもしれず、
うっかりしたら没収されてしまうかもしれない、という状況が嫌でした。

販売店の記載の通り、「刃長 14.5cm未満の『やり』」は登録不要です。
法的にも合法で、所持は認められているはずです。
ただ、それを保証するものが何もない状態なので、たとえばこれを見た
警察官の方が「こんなの槍じゃない」「美術的価値はない」と判断すれば
「刃の形状が左右対称の、刃渡り5.5cm以上の刃物」として違法物となり、
没収されてしまうかもしれない、という不安があります。

これは、槍を購入した後に自分があれこれと考えた事ですので、
実際の法的な判断がどうなるかは、分かりません。
ただ、とても気に入って手に入れた槍を、正しく自分の物にしておきたい、
と思いました。
 

できること、できそうなこと

法的に問題がないはずの、14.5cm未満の「やり」です。
そこを深く考えず、家で大事にしていれば問題はないはずなのですが、
それでも、できること、できそうなことはやってみようと思いました。

具体的には、「銃砲刀剣類としての登録」です。

「銃砲刀剣類の登録について」
  銃砲や刀剣類は原則として所持することができませんが、
  美術品もしくは骨とう品として価値のある火縄式銃砲などの古式銃砲、
  または美術品として価値のある刀剣類は、登録審査を経て
 「銃砲刀剣類登録証」の交付を受けると、所持することができます。

大阪府 > 各種手続き案内 > 銃砲刀剣類登録のご案内

「銃砲刀剣類登録証」が付けば、この槍は伝統的な技術で制作された
美術品相当の「やり」である、という証明になります。
登録証には「刃長」の記載もあるので、14.5cmの「やり」と示せます。

という訳で、大阪府の銃砲刀剣類登録審査を目指すこととなりました。

大阪府銃砲刀剣類登録審査の予約から当日までの流れ
  
発見場所を所管する警察署に連絡し、発見届出を行ってください。
  警察署から「刀剣類等発見届出済証」を受け取られたら、
  登録審査申込書にご記入の上、「刀剣類等発見届出済証」のコピーを
  添えて文化財保護課に郵送してください(FAX不可)。

大阪府 > 各種手続き案内 > 銃砲刀剣類登録のご案内

……発見届?

家の蔵から出てきた、とか、
祖父の遺品に刀があったけど登録証が付いてない、とか、
そんな時に警察に届け出て書くのが「発見届」です。
そこは知識として知ってるんですが。

……発見届? ヤフオクで買ったもので?

 

という所で、長くなったので次回へ。
次回、この槍を持って所轄の警察署へ参ります。
 

#刀 #日本刀 #刀剣 #槍


ヘッダー画像:自撮り写真・「短刀拵 平三角槍」

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