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『海の闇、月の影』悪役(?)流水の魅力を語りたい

これは私が中学生くらいの頃、夢中になって読んだ漫画です。当時、主人公の双子のように壁抜けにチャレンジして、よく突き指してたーw
今でも、流水みたいな三白眼になれば壁抜けできるんじゃないかとか、カビ臭い場所に入ったら何かの能力が発現しちゃうかもドキドキ、とか思っています。アホ。

『海の闇、月の影』篠原千絵

1987年頃~1991年頃に小学館『週刊少女コミック』に連載されていた作品。全18巻(文庫版全11巻)。

一卵性双生児の小早川流水(るみ)と流風(るか)は高校2年生。二人とも同じ陸上部に所属する3年生の当麻先輩に恋をしている。
しかし当麻先輩は、妹の流風を選び想いを打ち明ける。
仲の良い二人が初めて、いつまでも一緒にはいられない事を意識した第一歩だった。

その後陸上部の女子部員達と共にハイキングに訪れた双子。途中で雨に降られてしまい、雨宿りとして崖の横穴に身を寄せる。しかしその際穴の奥の岩壁が崩れ、全員中のカビくさい空気を吸ってしまう。空気を吸った部員達は次々と倒れ、双子を残して皆息絶える。一方生き残った双子には不思議な力が発現する。

のちに、崩れた岩壁の中には未知の古代ウイルスが生きており、それに感染した部員達は命を落としたものの、双子には抗体があったため生き残り、超能力が発現したと判明する。しかし、ウイルスの影響で負の感情を抑えられない流水は、当麻先輩に選ばれなかった悲しみ・憎しみの感情や、流風への嫉妬を増幅させた。流水は自身の能力を使って人々を操り、流風を殺して当麻先輩を手に入れようとする。

元の穏やかな流水に戻って欲しいと願いつつ、流水と闘う流風と当麻。
徐々に判明するウイルスの性質。新たな能力者の出現。
長い闘いの中で多くの物を失い、また自らの手でも損なってきた流水と流風。二人はかつての穏やかな日常を取り戻せるのかーーーー。
1980年代の美しいサイキック・ホラー・ミステリー。

優しい流風と非道な流水の対比

大好きな当麻先輩に愛されるか否かで道が分かれてしまった双子ですが、ウイルス感染による流水の人格変化と能力の獲得によって、愛する人をめぐる「対立」となっていきます。
当麻先輩を手に入れるために能力を使って人々を操り、流風を襲いまくる流水が「陰」。そんな流水を想いつつ対抗し、人々のために闘う流風が「陽」という分かりやすい図式です。

しかし!どうしても流水を推してしまう!

能力を使ってバンバン人を殺したりする流水と比べると、流風は本当に良い子ちゃん。変わってしまった流水を見てはオロオロし、襲われてはハラハラと涙を流し、結局いつも当麻先輩と周りの人に助けられる。
多くの人に愛され、守られ、困難にへこたれず頑張る流風は「圧倒的主人公」!でもどうなの?!依存が過ぎるぜ!!たまには自分でどうにかしろよ!
対する流水は一人。流風と当麻先輩とのイチャイチャも見せつけられるし。そりゃ頭にくるよ。

悪に振り切った流水がかっこいい

愛らしい流風と違って、流水は外見から思いっきり悪に振り切っています。
見てください、双子の顔を。
流水の三白眼!血なんか舐めちゃってますよ!

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物語序盤の流水の描写は、ホラーがかっている所がえらくかっこいい。
人を襲っては「クククッ」と笑う。
天井から上半身だけぶら下げて、あえてシルエットを見せる。
特にしならせた竹で人の喉笛を狙う所なんかは、超能力なのかタダのすげー人なのかわかりませんが強い!

また流水は当麻先輩を手に入れるという目的のため、部活の友人・先輩後輩、大事な家族お構いなしに手をかけます。ついには病院まるごと、いや、市まるごと、いやいや、県まるごと自分の配下にして流風を追い込みます。スケールが違う!

そんな強くて非道な流水ですが、物語中盤では三白眼も鳴りを潜め、水凪薫(みずなぎかおる)の登場で彼女の苦しみが垣間見えるようになるんですよ・・・。

滲み出る流水の苦しみ

イギリスから来日し、双子のウイルスについて研究する金髪の天才科学者ジーン。彼は双子の血を利用したある重要な薬を作り、その処方箋を5枚に分け彼が新たに作り出した5人の能力者へ託しました。
ここからその処方箋を手に入れるため、双子は少年漫画ばりに順々に能力者達と闘います。そのうちの一人が水凪薫という男性です。

水凪は双子のウイスルのせいで恋人を失っており、双子を恨んでいます。
しかし、亡くなった恋人への行き場のない想いと、流水の当麻先輩に対するやり場のない想いを重ねることで、次第に流水に心を開きます。
水凪編では流水が残酷な行動の裏で抱える苦しみが、滲み出てきます!

『ねたみ そねみ そういうものが力になるなら あたしに勝てるヤツなんていないわ!!』
当麻先輩の腕の中でヌクヌク甘えている流風と違い、自分には失うものは無い。なんだってやってやると水凪にタンカを切った流水の言葉です。
当麻先輩に選ばれた流風に対する感情を水凪に指摘され、必死の形相で強ががる流水。自分のマイナスな感情がどれだけ膨れ上がっているのか自覚して、さらにそれを飲み込もうとしているんですね・・・。
ちなみにこの後の水凪のセリフ・・・めっちゃ王道なんですがw良いんです!!

『本当はやった分だけ 自分が一番 傷ついてんだ』
流風を苦しめるために、人を殺して帰ってきた水凪に対して流水が言ったセリフです。水凪はこの殺人について、流水の前で「これほど気の晴れることあるもんか」と強がります。同じことを繰り返してきた流水だからこそ言える本音です。

『克之さん(当麻先輩)は、あたしと流風を間違えたりしないわ まず流風を見分ける そして残ったほうがあたし』
同じ顔、同じ声、同じ体つきの双子。それなのに愛されなかった流水。
水凪は「おれと暮らしてみないか」と流水に打ち明けるのですが、その際外見から流水と流風を見分けられず、流風に言ってしまいます。なんてこった!その時、流水が彼に向かって叫んだ言葉です。
もう流水の顔がつらそう!こんな事、口にしたくなかったはず。
水凪薫への失望と、やっぱり当麻先輩じゃないと・・・という執着に流水自身が焼けるように苦しんでるんです!

水凪は流水の心を動かした唯一の人物です。ですが結局、流水と水凪は悲しい結末を迎えます。その最後も流水の決断の非情さが伝わるショッキングなもの。そんな時にも流風の側には当麻先輩が・・・。うああ。もう誰でもいいから流水を救ってあげて欲しい。

結局流水は何も持っていない

流風はウイルス感染後も優しい人格。当麻先輩にも好かれたまま。不思議な事に人が死んだばかりだというのに当麻先輩とイチャイチャしたり、男性に襲われそうになる度に助けが入ったり、子供と動物に好かれたり。

流水の周りにも人は居ますが、それは彼女が操っている人達。
当麻先輩を手に入れたくて、無茶なやり方をすればするほど先輩の心が閉じていくのも、流水の自業自得。でも、そんな事をしちゃうのもウイスルのせい!
また、彼女たちの血をジーンの残した処方箋の薬に合わせた場合、流風の血は人々の役に立ちますが、流水の血は人々に絶望をもたらします。
どんだけ可哀想なんだ、流水。
双子の最後の対決も、流水派としては「何とかならんのか?!」と叫びたい所ですが、とても切ない終幕です・・・。

昔の作品なのでもう売ってないのかと思ったら、Kindle版などもありますね。是非、流水の死闘を見届けてやってください!


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