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満月バスとガス【毎週SS 裏お題】

「次は終点、雲の海、雲の海でございます」
アナウンスにはっと目が覚めた。

ドアが開き、大事に抱えたボンベを、ぐっと持ちあげる。
僕はバスの運転手に、首から下げている三日月ファストパスを見せた。
「あんた、管理局の人だね。いつもご苦労さん」
「いえ、これも仕事ですから」

地球の人にはほとんど知られていないらしいが、
実は月の内部はガス状なのだ。
その端はビニールボールの吹込口のような隙間があり、
周期によって中のガスが抜けていく。

だから地球から見える三日月は、本当にあの形なのだ。

月に暮らしていると大して気にはならないが
最初の頃は段々と隣の家や町が近くなっていくのが
面白いと思ったものだ。

またガス故にうかつに近づいて吹き飛ばされるし、
何かの拍子で引火したら大惨事になる。
だから一度ガスが抜けきるまでじっと待っている必要がある。

それが新月の日。

「さて、もうひと仕事」
今日も僕は満月ガスのボンベを抱え、
次の新月が来るまでに月面を歩き続ける。
(410文字)


今日は裏お題で投稿してみました。
ごくごくたま~にですが、
図書館などで鉱石や宇宙の図鑑を見つけると、
ついつい読みふけってしまいます。

次の日には、その知識忘れるんですけどね。

企画概要はこちらから。


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