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神の啓示(#シロクマ文芸部)

 「手紙にはこれを書こうぜ、神様にさ!」
 光輝君は少し興奮気味に僕たちを集めて言った。
 10年前の初夏、僕たちは面白い遊びを見つけた、そんな高揚感でいっぱいだった。

 当時の僕たちはS小学校の5年生で、学校が休みの日はいつも仲良しの4人で遊んでいた。4人の中で光輝君はリーダー格で、光輝君と同じクラスの慎治君は勉強が出来たから、宿題はいつも慎治君の家に集まって答えを教えてもらっていた。僕と同じマンションに住む聡君は転勤の多いお父さんの仕事の関係で、来年の春には引っ越して転校することになっていたから、この日も何か4人で思い出になることをしようと計画しているところだった。

「神様に手紙ってどういうこと?」
 宿題のプリントに慎治君の書いた答えを写しながら僕が聞くと
「この前さ、YouTubeで観たんだよ、神の啓示を受けた人がいて、自動書記ってやつで、神様の言葉を書き写した巻物があるらしいんだ」
 光輝君は自他ともに認める都市伝説オタクで、よく都市伝説系のYouTubeを観ては僕たちに不思議な話をしていた。
 僕たちはUFOのことや幽霊の話は聞きなれていたけど、この時初めて聞く神の言葉というものに少しうさん臭さを感じて、僕を含めて光輝君以外の3人はあまり興味を持たなかった。
 それが光輝君の自尊心を刺激したようで、神の啓示を受けた日月神事というものについて熱く語り始めた。
「昔、岡本天明っていう人に神様が降りてきて、自動書記で日本の未来のことを予言した文章を書かせたんだ。コロナのことも預言してたんだぜ。それから富士山が噴火する時期とか、第三次世界大戦のことも預言しているんだ。その神の言葉ってのが全部暗号みたいでさ、その中に第三の目と言われているマークがあって、これだよ」
 興奮気味に宿題のプリントの裏に、その第三の目というマークをマジックで書いて見せながら
「これを書いた紙を空に飛ばそうぜ」

 なぜ空に飛ばそうという発想になったのか、今となっては最大の疑問だけど、小5の子どもの頭では、神様は空の上にいるものという、おとぎ話のようなことを信じて疑わなかったからだと思う。
「第三の目を開眼すると、第六感が冴えわたり、目に見えないものが見えるようになったり、宇宙と繋がることが出来るらしい」
 光輝君はさらに目を輝かせながら、隣に座っていた聡君の肩に腕を回して 「聡がどこに行ったってみんなでつながることが出来るんだよ」
 だから神様にお願いして、4人とも第三の目の開眼を果たそうと光輝君は考えた。それにはどうしたらいいのか、その辺はその場の思いつきで僕らに提案したみたいだけど、僕らは聡君が引っ越していなくなるという喪失感を持て余していた。
 「それいいね、やろうよ。そのマークを書いた紙だけ空に飛ばして神様は気付いてくれるかな?」そう疑問を持ったのは聡君だった。
 来春の転校を一番嫌がっていたのは聡君本人だ。
 「神は万能だから、マークを書いた僕らのことなんて神通力ですでにお見通しだよ、マークだけ心を込めて書いて飛ばそう」
 頭の良い慎治君が言うんだから間違いないと、4人揃って次の休みの日に実行することになった。
 慎治君のことだから、こんなお遊びは気休めにしかならないことはわかっていたと思うが、僕たちの気持ちを汲んでくれたんだと思う。

 第三の目のマークを聡君が書いて、空に飛ばす道具として風船とヘリウムガスを、4人でお小遣いを出し合って購入。
 ヘリウムガスを注入して、風船4個を紐て括った。
 そして肝心の第三の目のマークを書いた紙をビニール袋に入れて、4人で手に取り、第三の目が開眼しますようにと願い事を唱える。
 風船に取り付けて「それじゃ飛ばすぞ!」と光輝君が手を離した。
 その日は西風が吹いていて、ずんずん高く昇っていく。
 ちょっと拍子抜けするような静かな儀式だったけど、僕たちが出来ることはこんなおまじないのようなことがせいぜいだった。
 4人の気持ちは、ただ聡君を失いたくない一心だったのだ。

 その後は4人の中で聡君の転校が話題に上ることはなかった。暗黙の中で避けていたのかもしれない。
 淡々と4人の日常が過ぎていったが、聡君の引っ越が1ヶ月後になった雪の降る日、ある事件が起こることで僕たちは第三の目の開眼を意識するようになった。

 その日は朝から雪が降っていて寒い日だった。外で遊ぶことは諦めて僕の家で4人集まってゲームをして遊んだ。
 慎治君が5時から塾があるということもあって、夕方前には帰るように、午後4時には3人を見送った。
 そして夜の7時頃だったと思う、聡君のお母さんから電話がかかってきた。聡君がまだ家に帰っていなくて捜しているという電話だった。
 聡君は僕と同じマンションに住んでいたから、すぐに家に到着したはずで、僕はすぐに慎治君と光輝君に確認してみた。
 二人とも聡君とはマンションで別れたから、その後のことはわからないということだった。
 そのあとは聡君のお父さんが警察に電話して、捜索が開始された。
 マンションの防犯カメラだと、聡君はいったん自分の家の前まで帰ったようだが、部屋には入らずマンションを出ていく姿が映っていたらしい。
 聡君のお母さんは、家出なんて考えられない、誘拐されたんじゃないかと泣いて警察に捜索をお願いしたらしいが、警察は犯人からのアクションがない限り動くことはできない。まずは事故にあったのではないかと、近くの川や空き地などを捜索するということだった。
 僕のお父さんもボラティアとして捜索に加わった。僕たちも一緒に探したかったけど、雪が激しくなってきた夜の外にでることは許されなかった。
  
 「聡はきっと家出したんだ」と光輝君から電話がかかってきた。
 当時はまだ子供ということもあって、スマホなど持たせてもらっていなかったから、僕らの唯一の連絡手段は電話しかない。
 「でもこんな寒い夜に何も持たず家出なんてするかな?」
 「僕にはわかるんだ、聡は転校したくなくて家出したんだよ」
 「どこに?みんな探してるよ」
 「あそこしかないだろう」
 光輝君のいう「あそこ」とは、第三の目を飛ばした土手の近くにある空き家の倉庫。空き家は鍵がかかっているけど、庭にある倉庫は鍵が壊れていて、時々4人で集まってゲームをして遊んでいた場所だ。
 僕は母さんの目を誤魔化すことはできないから、聡君の家で帰って来るのを待つという言い訳を思い付き、家を出ることに成功した。
 「お前、冴えてるな」
 一足先に空き家の倉庫に向かっていた光輝君と合流したところで、慎治君もやってきた。
 「おいおい、俺らやっぱり第三の目が開眼したんじゃないか!慎治は家が厳しいから無理だと思って電話しなかったのに、4人揃ったな」と、光輝君は鼻息が荒い。慎治君は塾から帰ってから行方不明の聡君の話しを聞いて、忘れ物したと言って家を出てきたそうだ。
 「4人って、まだ聡がいないじゃん」
 町のあちこちでは聡君を捜す大人たちの姿があった。僕たちは見つからないようにここまで来るのに一苦労だった。
 「絶対空き家の倉庫にいるよ、俺にはわかるんだ」光輝君が確信をもってそう言うと、慎治君と僕もそうに違いないと思えた。

 空き家の倉庫前に行くと、隙間からわずかに明りが漏れている。
 恐る恐る僕が「聡君でしょ」と声を掛けると扉が開いた。
 そこには顔を涙と鼻水でグジャグジャにした聡君がいた。
 4人揃ったところで倉庫に入り、しばらく無言でいた。聡君が何でこんなことをしたのかはわかっている。光輝君も慎治君も僕も、みんな聡君の転校したくない気持ちを共有していたから。土手から風船を飛ばして神様にお願いしなくても、4人はそれぞれの気持ちとか感情が手に取るようにわかっていた。今更第三の目なんて必要としていなかったのだ。
 「これからどうする?」慎治君が静かに言った。
 すると聡君が「僕がやらかしたことだから、今から謝りに出ていくよ」と覚悟を決めたようだった。その姿を見て僕たちも腹をくくった。いつも、これからも4人はずっと一緒なのだ。
 
 あの後は大変だった。
 泣きながら謝る僕ら4人を、親たちは捜索をしてくれていた警察やボランティアの人たちに謝っていた。無事で何よりとみんなは言ってくれたけど、僕は家に帰ってから父さんと母さんにこっぴどく叱られた。
 その後4人は別々の中学と高校に進学したけど、大学は同じA大学を受験し、今は都市伝説サークルに所属してYouTubeで妖しい配信を続けている。
 だからみんな。
 僕らのYouTube見て、登録してくれよな!



3400字を超えてしまいました。
オチを考えずに書きだしたので、無理くり締めくくった感があります。
都市伝説系のYouTubeを観るのが大好きで、日月神事のことも興味ありました。
もっと日月神事のことを盛り込みたかったのですが、短編では限界でした💦



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