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アートのこと(現代アートとビジュアルシンカー)

現代アートといえば、
なにかよく分からないものを見たときに、「なにそれ、なにそれ。現代アート?」と言うためだけに使って、理解したことも、しようとしたことも無かった。

音楽もアートとするなら、そこは自分なりに楽しめている気がするし、すごく精巧な絵画を見て技術力に感動したりすることはあるけど、
現代アートに限らず美術館にあるような芸術作品は、正直造詣が深くないから、観に行きはするものの、"鑑賞した"という経験しか得られたためしがない。
芸術作品を通して、作者のメッセージや思想を理解して共感する、といった楽しみ方はこれまで1度も出来ていないと思う。

しかし、数日前に青森県にある十和田市現代美術館で、ある作品を見て、初めて作品を通して作者のメッセージを理解して共感することが出来た。
これがアートの楽しみ方なのかも!と感動したのでその時の気持ちを書きます。


十和田市現代美術館は十和田湖から車で30分くらいの町中に建っている。
庭にも作品のオブジェが飾られていて、建物全体が作品のようになっていた。

十和田市現代美術館の外観


白を基調とした建物で、中に太陽の光も注いでいたので屋内はすごく明るいイメージだったけど、
私が惹かれた作品はそれとはすごく対照的だった。

Hans Op de Beeck の“Location (5)”という作品。

作品と言いつつ空間に近い。
まず、そのブースに入ると明かりが全くなく、視界が真っ暗になって、何も見えなくなる。だんだん目が慣れてくると薄ぼんやりとテーブルと椅子があるのが感覚で分かる。テーブル席のソファに座ると窓側に、オレンジの街灯に照らされた高速道路が伸びているのが見えた。手前の街灯が大きく、遠近感があってすごく先まであるように見える。
高速道路に走っている車は無い。
奇天烈で物理法則を無視したような要素は無く、ごく普通の高速道路に見えるのに、なぜかノスタルジーと荒廃した世界をイメージさせる。
そこに加えて店内からは聞こえるか聞こえないかくらいの音量で古そうなラジオが流れていて、テーブルの上から吊るされたランプが自分たちを薄ぼんやりと照らしていた。

居心地が少し悪いのに惹き込まれた。
ヘンテコな要素はないのになぜか現実の世界から切り離されて自分だけになったような気持ちになった。

作者の解説を読むと、
その空間は、70年代の音楽がラジオから流れてくる高速道路沿いのレストランで内装は80年代をイメージしているらしく、スタイリッシュというよりかは俗っぽく懐かしい雰囲気を演出しているように感じた。

光源を少なくして色味を抑えることで、私たちの想像力を膨らませる余白を残したらしい。
そしてノスタルジックかつパラレルワールドな空間で、鑑賞者の感情や他人、生や死について向き合って欲しいというメッセージがあるそうだ。

実際に体験したことはないけど、確かに懐かしさを感じるし、でも今とは完全に分断された雰囲気の中に自分だけがパラレルワールドのように存在している感覚が解説の内容とマッチして、すっと自分の頭に入ってきた。
かなり鑑賞者寄りの分かりやすい作品だったのかもしれないけど、作品を通して作者の意図を読み取れたたことは大きな収穫で、すごく嬉しかった。


この事実に感動したのは、
これまで美術館で作品の横についている解説文章を読んでも、その内容と作品を紐付けることが出来たことが無かったというのもあるが、
先日読んだ『ビジュアル・シンカーの脳』という本に書かれていた概念が頭の片隅にあったことも関係している。

その本の内容自体は、綿密な考証に裏付けられた事実か、私には判断出来なかったけれど、そこに書かれていた概念が新鮮で面白かったので紹介させて欲しい。

人間の思考タイプには大きく2種類あって、
言語で考えるタイプと、視覚イメージで考えるタイプが存在する。
思考のタイプは連続的なものなので、どちらかにはっきり分かれている訳ではないけれど、
絵画や彫刻作品を生み出す芸術家なんかは、自分の考えが言語ではなく視覚イメージとしてあり、それをそのまま作品に変換していることが多いらしい。

私の常識では、
芸術作品というものは作者がまず言葉で考えて、それを視覚イメージに変換してから作品に昇華しているものと思っていたので、
アートから作者の意図を読み取れない自分は芸術の才能がないとばかり思っていた。

しかし、実際は様々な思考タイプが存在し、文章を理解したり言語化するのが苦手な人(ビジュアル・シンカー)がいるように、
芸術作品(視覚イメージ)から意味を汲み取るのが難しい、言語ベースで考えるタイプの人がいる、というだけなのだという。

簡単に紹介するなら、この本はビジュアル・シンカーとその概念について著者の経験や研究が書かれている。
興味があればぜひ読んでみてほしい。新しい視点を獲得できると思う。

話を少し戻すと、この概念によって私は芸術作品の捉え方が変わった。
その上で、今回十和田市現代美術館で見た、Hans Op de Beeckの “Location (5)” という作品で、
初めて芸術作品から作者の意図やメッセージを読み取ることが出来て、ビジュアル・シンカーの思考ルートを体験させてもらえた気がした。

言語を通さずにコミュニケーションすることで、作者の出力そのままで画質を落とさずに受信出来た気がしてそこもなんとなく嬉しい。

アートの楽しみ方が分かったところで、他の現代美術館にも足を運んでみたいと思った。(ちなみに他の作品についてはてんで理解できなかった。)
現代アートはとっつきにくいと思っていたけど、よく考えれば中世の絵画より現代の方が作者の価値観や考え方も理解しやすい気がする。

訳のわからないものに対して「なにそれ現代アート?」と言うのは面白いからやり続けるつもりだけど、これからは愛のあるイジりにしていきたいと思う。


参考までに全然理解できなかった作品たちを紹介しておく。


おわり!

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